親愛なる君/臨也
折原臨也と平和島静雄は、両方私の友達だ。岸谷新羅に関しては、うちが近く、小中学校が同じだった上に、高校まで同じになってしまったので、もう腐れ縁と言ってもいいだろう。
彼らと連んでいるために、私には本当に男がよって来なかった。小学校の頃は、新羅か、静雄と幽と毎日のように遊び、中学校の頃は臨也の馬鹿に振り回され、そして、高校は最悪だった。なにせ、一つの学校に、新羅と静雄と臨也がいたのだから。新羅のよくわからない惚気みたいな話を聞かされ、静雄の喧嘩に巻き込まれ、そもそも喧嘩になるように仕向けた臨也には、鞄に盗聴器を仕掛けられ、プライベートを覗き見られたり。
別にまあ、静雄や新羅に関しては、そんなに迷惑だったわけではないのだが。それにしたって男運が悪い。なんて言葉じゃ済まされないほど、私はいい男に恵まれなかった。唯一まともだった幽も、今では大スター。まあ、別にめちゃくちゃ彼氏が欲しかったってわけではなかったからそれでも良かったのだけど。それでも、私の周りの男はなんでこんなに変なのばかりなのだろう。とは疑問に思う。
「ま。とりあえず、臨也がその変なのの筆頭だよね。静雄も新羅もあんた程じゃないし。」
「新宿まできて何かと思ったら、思い出話なんかしに来たわけか?君は」
「ちげーよ馬鹿。お前のせいでもう二十代も中盤に差し掛かるというのに結婚出来ないんだけど、どうしてくれんだって話。」
実は先日、会社の同僚が結婚して寿退社をした。
羨ましいわけじゃないが。いや本当は少し羨ましかった。結婚式に出席して、幸せそうな彼女を……新婦を見ていたら、ふと気付いてしまったのだ。私はろくに恋愛したことがないということに。そして、きっと私がウエディングドレスを着る事は、一生無いのだろうということに。
「俺に君と結婚しろっていうの?冗談」
「誰もそんなこと言ってないでしょうが。幽の熱愛騒動もあったから、みんなは彼女とかどうなんかな?と思っただけ。ちなみに新羅は例の彼女とラブラブだったわ。静雄は刃物がうんちゃらって言ってたけど、彼女はいないみたい。しかしまさか、」
「あれは違うからね」
あんたに彼女が出来てたなんて。と言おうとしたのだが、臨也は、それを察したかのように否定した。
ならばあの髪の長い美女はなんなんだ。
確かに恋人っぽい雰囲気はない気がするが、だからと言って、なんでもない雰囲気という感じでもない。寧ろ長年連れ添ってね?みたいな雰囲気すら感じる。
素直にそう言っても、臨也は
「それは嫉妬?」
と楽しそうに笑うだけだった。
「嫉妬じゃないっつーの。」
「そうだよねぇ、君は小中高ずっとシズちゃん一筋だったもんね。中学校のときはうるさかったなぁ、本人がいないからこそ、一々騒げたんだろうね。高校に入ったら途端に静かになったじゃないか。」
「いざや、うざい、とっても」
「そういえば君さ、本当は自分の男運悪くないの知ってる?」
「は?」
静雄の話をしていたかと思えば、なんなんだいきなり。私はそう思い、眉をひそめた。
「何組だったか忘れたけど、それなりに女子にモテてた支倉っていたのを覚えてるかな」
「ああ、支倉くんね。覚えてるよ。ていうか、支倉くんは中学も同じだったじゃない。私はわりと話したし。」
「あいつが君にラブレターを出したことあるって知ってる?まあ、知るわけないよね。」
「知らない。てかなんで私の知らないその事実をあんたが知ってるのかなぁ?臨也くーん?」
「君が見る前に、その手紙を俺が破棄したからだよ。ちなみに彼は高校を君に合わせたらしい。」
私が投げた空のティーカップを、臨也は身体を少しずらしてよけた。
なんてうざいんだ臨也。静雄のことが好きだった私は、多分支倉くんの告白を断っただろう。それでもその事実を知っていたのと知らないのとでは、青春の過ごし方は全然違った筈だ。
っていうか支倉くんがある時から妙によそよそしくなった理由がやっとわかったわ!
「過ぎたことなんだからそんなに怒らないでよ」
「過ぎちゃったことだから寧ろ怒ってんの!」
「君のことを誰にもとられたくなかったんだよ」
「さらりと殺し文句言ってくれちゃっても意味なんてありません!私はあんたのそれになれてるんだから!」
だろうねぇ。そう言って臨也はククッと喉を鳴らし、楽しそうに目を細める。なんでいつもこうなるんだ。中学でこいつに出会ってから、うまくいったことなんて本当に何一つなかった。
就職だって受験だって、全然上手くいかなかったし、この通り、恋愛はなによりも上手くいかなかった。中学では、支倉くん以外まともな男友達が出来なかったし、高校でその支倉くんでさえ臨也のせいで失い、挙げ句の果てに、何故だかわからないが、職場でもどこでも私に男は寄ってこない。それもなんとなく臨也のせいな気がする。
「まあ、慣れててもさぁ、君はいつまで経ってもその言葉の本当の意味に気付かないんだから世話ないよね。」
「はあ?」
「君は男運が悪くないって言っただろ?」
「は?それが?」
「なんてったって、人間としてじゃなく、個人で俺に好かれてるんだから、君の男運は最高だよ」
「なるほど、私の男運は最悪だ。」
正直に言おう。彼の告白は嬉しくもなんともなかった。ウザいだけというか、ムカつくだけで、ぶん殴りたくなったというのが本音だ。
それでも私が臨也を殴らなかったのは、臨也が、静雄に告白して振られた私をなんやかんや言いつつも遠回しに慰めてくれたという思い出があったからだ。
臨也はあの時、どんな気持ちで私を慰めていたんだろう。悪いことをしたとは思わないが、なんとなく切なくなった。
こんなことを私が考える。それすら多分臨也の計算の内だと認識しながらも、私には臨也を殴ることが出来ない。なんというか、臨也には借りがありすぎるのだ。だから今日は許してやろう。
告白は嬉しくなくても、あの慰めが嬉しかったのは事実なのだから。
「本当、君ってどうしようもないお人好しだよね、そういうところはさっぱり理解できないよ。」
「私は私なんかに惚れちゃうあんたが理解できないね」
とりあえず、当分の間は独り身でいるとしよう。こいつと一緒に
2011/04/26
約一年前に書いたのを再録