純粋な愛という名の/臨也
臨也さんは変な人だ。やることなすこと卑怯で汚いくせに、そのやったことの結果は、綺麗にまとまったりする。全てが計算通り、みたいな。彼にだって計算違いなことがあるだろうに、その計算違いすら彼の計算のうち、そんな風に思えてくる。
ただいまその彼はというと、楽しそうにチャットをやっていたりする。相手は私の後輩である、帝人くんだと思われる。いつもならもっと人がいるんだけど、どうやら今日は田中太郎さん一人みたいだ。
「人のチャットを覗き見るなんて趣味わるいね。」
「まあ、ここで見てたら内緒モードもばっちりですからね。でも私は内緒モードより、ネカマしてるあなたを見るのが楽しいんですよ。なんか新鮮で。」
「まあ、別に構わないけどさ。君に見られたらところで、何が起きるってことも無いだろうし、何より君は嫉妬深いからね、隠し事する方が怖いよ。」
「よくわかってらっしゃいますこと。」
私と臨也さんは付き合っているわけではない。が、私は臨也さんが好きだし、臨也さんは人間が大好きだ。つまりは両想いなわけで、私達は愛し合っている。
臨也さんが他の人を好きだというのは、慣れたし、それ前提に好きでいるから問題はないのだが、臨也さんを本気で好きだという人が現れたりしたら、今の独占状態は無くなってしまう。私はそれが怖かった。嫌だった。
隠し事をされると、好きになりかけている人間への対策がとれない。それが困るのである。私は彼ほどの情報収集能力が無いが、時に、臨也さんの汚さを凌駕する、女の汚さは余すところ無く理解しているつもりだ。
だから臨也さんに好意的な女性が居たとしたら、それが例えどんな女性であっても間違いなく対応しきれる自信があった。
「臨也さんは、私が人間である限り好きでいてくれますよね?」
「うん。溺愛しちゃうよ。これ以上ないってくらい、愛して愛して愛して愛して、」
「それで?」
「どうされたい?」
無邪気に笑って、私に問う彼は、それなりに楽しそうだ。どうされたいか。私にはわからない。私は臨也さんに愛されて、利用されて、どうされたい?利用されるだけでもいいなんて純愛をした覚えはないが、私にはそれ以上が想像出来なかった。私は臨也さんにどうされたいんだろう……?
「とりあえず今は、」
「なに?」
「抱き締めてほしいです。」
意外と自分って乙女なのかも。そう思いながら、零れた本音をぼんやり噛み締めた。見た目はあんなに冷たい人なのに、臨也さんってばあったかいなあ。と、包まれた温もりに体を預ける。
彼の温もりを真っ先に感じる身体にさえ嫉妬。人間という器じゃなくて、私という中身を愛して欲しいのに。その愛の意味を知るはずの脳は、それでもその行為を喜んでしまう。なんて純粋な矛盾だろう。やはり私は乙女なのだ。
2011/04/21
去年の1月に書いた物を再録。
この頃はちゃんとヒロインは普通の子だったのに。