体液カラカラ
泣きそう。だけど泣かないから私は駄目なんだ。
榛名彼女出来たよ。と恭平が私に教えてくれた。笑っては聞けなかった。それも嘘。笑って聞いた。良かったじゃん。そう言って、恭平と別れてから榛名にからかいのメールを送る。
何かか胸から滲んで溶けだしていくのを感じて、何かか頭の中で歪んで解けだしていくのを感じた。
ゆらゆらとどこかに落ちていくそれらを私は繋ぎ止める事が出来ず、伸ばすことすらしなかった腕は重力に従い、地球の核へ向いたまま。
ねえねえ、それでいいの?なんて、お前誰だよ。
メールの返信があったから携帯を開いた。照れたような怒ったような文面。その中に伺える幸せを私は思い切り祝福してやる。
私は、彼の幸せを喜べる筈だ。
ぐちゃ。と何かが潰れた。多分目玉だ。目を瞑った。目を潰した。
何も見たくないなんて事はない。彼の笑顔は見たい。それ以外見たくないなんて事はない。彼が泣いてたら支えてあげたい。彼以外見たくないなんて事はない。世界はきっと幸せだ。
でも、榛名を幸せにするのは私じゃない。
榛名からの返信には感謝の気持ちが込められていた。嬉しくもなんともありすぎて、今度あったらどんな惚気話から聞こうか顔がにやけた。嘘じゃない。
気持ちの改変には成功しました。肉体も精神もキチンとシンクロしてるし問題はない。
問題がないわけないなんてことはないのだよ。
本当にそれでいいの?うるさいお前は引っ込んでろよ。私は今自己保身に忙しいんだ。
素直に泣けば?うるさいってば、素直に泣ける女なら、きっと榛名と上手くやれてたよ。今更泣いても意味ないの。
複雑なモノを簡単にして、簡単なモノを複雑に解釈。感情の整理はわりと簡単なもので、感情と感情を結んでいた物が解けてなくなっていたから私は新しくそれらを適当に結び付けた。
うん。大丈夫。私は正常に動作している。
着信。画面に表示された名前に一瞬息を飲んだがなんとか平静を保った。嘘だ。最初から動揺しなかった。これも嘘。私は自分がどう反応したのかすらわからない。
「もしもし」
『なあ、』
「なに?」
『今でも、好きって言えねーの?』
今更「好きだよ。」なんて言えるわけがない。今更じゃなくても言わなかったくせに、私は思った。
好きだって思ってるだけじゃ伝わらないのにね。
私が常に垂れ流していた愛情という名前の血液みたいな赤い液体を全部飲ませてやりたい。そしたらきっと、言わなくてもわかってくれる。なんてまあ、本当は期待してないけど。比喩ですらない表現だし。
そもそも、榛名がくれた最後のチャンスをこんな風に無下にすることしかできない私なのだ。気持ちなんか、本当に血液を垂れ流したところで伝わるわけがない。
「言えるような女の子なら、前にちゃんと言ってるよ」
『そんくらいわかってるっつの』
「わかってるなら、今の子大切にしな。素直に好きって言えるいい子なんでしょ」
『 』
電話が切れた。
たった二文字の単純な侮辱。その後に足される、男を示す熟語。私にピッタリだ。
だから私は女々しく落ち込むわけにはいかないし、落ち込むつもりはない。私はプライドの塊なのだから。
とけていく大切な感情はそろそろ身体から流れきる。後の片付けは各自に任せよう。特に重傷なのは目か、主に重症なのは脳だろうか。でも、今治ったところだから問題はない。
「あー、好きだったんだけどな」
過去形ですよ。あくまでも。なに?嘘つき?ホント黙れば。
ねえ、私は自分にだって嘘を吐く女々しい女なのに、女の子らしさはなんであなたに伝わらなかったのかな。
馬鹿だね。ただ伝える気がなかっただけじゃないか。それに、わかってるでしょ?女々しさと女の子らしさって違うんだよ?
知ってるよ馬鹿野郎。上手くいかなかったのはお前のせいなのに、とか言っちゃって。そんな私も、全部自分自身なのに。
つまり、私は全身全霊で榛名を愛してました。
頼むから過去形ってことにさせて下さい。自分が泣いてるなんて認めたくないの。
2011/04/20
素直になれない女の子の話