戀/土方
「いい加減にしねーと斬るぞテメー」
「二言目には斬るってアンタ。恥ずかしくないんですか。」
「うるせーな。」
「つーかアンタに私が斬れると思ってるんですか?いつも言っといて斬らないじゃないですか。人のこと舐めくさりやがって。ペロペロキャンディーかなんかと間違えてんじゃないんですか。」
「斬れるけど斬らねーだけで、斬ろうと思えばいつでも斬れるんだよ。」
土方十四郎は私の上司である。
馬鹿みたいにまっすぐで、単純で、マヨネーズが好きで。二言目には斬ると言うし、眼光はそれは鋭く恐いけれど、本当は優しいところもあったりして、町の娘達から言わせれば、そういうところが素敵ならしい。
「ふーくちょう。」
「なんだよ次は?」
「私はですね。沖田さんの言うことも一理あると思うのですよ。」
「要するになんだよ?何が言いてェ?」
「死ね副長。」
「お前が死ね。」
いつもの言い合い。私は副長を好きでもなんでもないけれど、話してる分には楽しいので、この時間がとても好きだ。
彼と話せもしない町の娘達に対して、ちょっと優越感があったりもする。
「あーあ、沖田さんが副長ならよかったのに。」
「ったく、本当一々癇に障る奴だなお前は。」
「それほどでも。」
「褒めてねーからな。」
ちなみに今は二人で市中見廻り中だ。町の娘達の羨ましそうな顔ときたら爆笑もんである。ほら、あそこの綺麗な着物を着た女の人もあんなに醜く嫉妬で顔を歪めちゃって……全く、美人なのに勿体ないったらありゃしない。
「そーいや。副長。アンタあの人とは上手くいってんですか?」
「だからアイツはそういうんじゃねェって」
「誰とは言ってないんスけどねえ。」
でもこのくらい、こんな風に見せつけるのくらい許してほしい。あの人達のは、あくまでも憧れているだけで、だからそんな顔で私を見れるし、彼にきちんと、想い人がいるというのを知ったところでそんなに傷付きはしないだろう。
嫉妬するくらい好き。なんて気持ちは、本当は大したものじゃない。好きなら嫉妬くらいするし、好きなら、好きな人から見えるところであんな顔をするべきではないのだ。
「誰とは言いませんけどね。昔の事気にして、今の人傷付けちゃいけませんよ?」
「なんの話だ。」
「そんなん、誰も幸せになんかならないんですから。」
認めたら辛くなるような恋心を彼女らは抱いた事が無いのだろう。きっと。
2010/08/13