しあわせ共倒れ計画/榛名
中学時代。いつだったかの雨の日。公園のベンチで、濡れた大きな犬を拾った。
「榛名くん。どうしたの?こんなとこで」
私はかたやいじめられっ子で。榛名くんは野球部のエースで、クラスにいっぱい友達がいて。
関わりたいと思ったことはなかったし、関わろうとも思わなかった。でも何故か声をかけてしまった。
この日一日だけ、私は彼と会話してけれど。それ以降私が榛名くんと会話したことは一度もない。
進学して、別の高校になって。私は榛名くんのことなんて忘れかけてすらいたし、榛名くんもそうだったと思う。
「オマエこそ、どうしたんだよ。傘は?」
でも今日、高校二年の秋。今度は私が榛名くんに拾われた。
奇しくも、雨が降っていた。
「捨てられた。」
「は?」
「彼氏にふられたの。」
八つ当たり丸出しで乱暴にそう言ってやると、榛名くんは意外そうな顔をした。
八つ当たりに対して意外そうな顔をするだけの彼の態度の方が意外である。怒られるかと思った。
その言い方はねーだろ。とか。
「オマエ、彼氏なんかつくってたのかよ」
「うん。年上の人」
「で、そんなへこんでんの?」
「なんか悪い?」
「……なんつーか、オマエキャラ変ったよな。」
「だから悪い?」
流石にここまで態度が悪かったら彼もキレるのではないかと思っていたのだが、彼はそんな私に対して、ただ呆れたようにため息を吐いただけだった。
傘を持っていない右手で困ったように頭を掻いて、榛名くんは続ける。
「ベツにンなこと言ってねーだろ。」
「そう聞こえた」
「くっそ……あー、慰めてやるからこいよ、ほら」
そう言った彼に腕をひかれて、びしょ濡れだった私は、榛名の傘の中に引き込まれた。大きい傘だから問題はなかったけれど、でも中学時代のあの榛名くんから思えば、やはりそれは意外な行動で。
私から言わせてもらえば、キャラが変わったのは榛名くんだと思う。
これだけ予想外な事をしてくれるのだから。
「……慰められたら惚れちゃうかもしれない」
「は?」
昔の荒れていた榛名くんなら、たかがこんな一言でこんなに顔赤くしなかっただろうし。まあ、つまり余裕が出来たんだと思う。それはきっといいことだ。
「いや、あの、冗談だよ」
「……なんだよソレ、じゃ、ぜってー冗談じゃすまねー」
スタスタと彼が歩き出す。
向かう先はどこだろう。わからないけれど、胸がドキドキする。
「それは」
「なんだよ?」
「助かる、な。うん。よろしく」
それが、恋によるものではないことを私は理解していたけれど、そのことから、私は目を逸らした。
抱かれた肩に感じる温かさは、私の欲しかったそれではない。それでも、たった今現実を見ないで済むのなら私はその代わりに縋ろう。
「ありがとう。ごめんね」
どうか、この温もりが、いつか代わりでなくなるように。私は願うフリをして、ひたすら祈る。
そうでもしなければ、そんな奇跡は、起きてくれないだろうから。
2011/02/25
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