眼球が欲しいのだ/臨也


イザヤクンのそれは自殺だよ。だって。

「変な事言うよねえ。彼女」

「そうですか?的を射てる気がしなくもないけど」

折原臨也は私の知り合いだ。顔はまあ、いいから、結構モテるし、私も嫌いではない。それに加えて、好きでもない。なんて言うようなツンデレではないので悪しからず。

私は、わりと普通に臨也さんが好きだ。

「自殺行為って言うならわからなくないけどさ、自殺だって言い方はないよね。まるで俺が死に続けてるみたいじゃない?」

「そう、それでなんです?」

「『私はイザヤくんがわからないし、イザヤくんをわかりたいと思ってるわけじゃないからこんなこと言うんだけど、そう思ってることはわかってね』」

「そう言われたんですか。それがなにか?」

「君の意見が聞きたいって思って話してるのにつれないなあ。」

「ねえ、嫉妬させてどうしたいんです?」

「誰もそんなこといってないじゃない。急にどうしたの?」

足元に転がる空き缶を踏みつぶす。どこの不良がこんな廃墟を溜まり場にしているのだか。

カラーギャングってヤツだろうか。どいつもこいつも、うざったい。

「私殺しちゃいますよ?」

「へえ、誰を」

「その子、この間話してた子でしょう?」

「ああ、そういえば話したっけ。」

「静雄に惚れてるっていう、あの面白い子」

「そうそう」

「あー臨也さんにかまってもらえるなら、静雄はいらないんじゃないかな」

そう来ると思ったよ。と、臨也さんが笑った。

なにもはめられていない窓枠に腰をかけて、足を組み。その曇って綺麗な瞳で私を見つめる。

「何度も言いますけど、復讐って名前で本人を殺すのは馬鹿のやることです。」

「この間も言ってたねえ。」

「苦しませなきゃ、復讐じゃありません」

「俺は、君にシズちゃんが殺せるとは思わないけどなあ」

「殺そうと画策するだけでも充分ですよ。静雄に迷惑かけてるって意識するだけでも苦しいでしょう?私は臨也さんに迷惑かけるの嫌ですし」

「君の存在が迷惑だと言ったら、君はここから飛び降りるのかな?」

臨也さんが、振り返るように、窓の下を見下ろしていった。

「まさか。」

再度こちらに向いた臨也さんの目は相も変わらず濁っている。うっとりするくらい美しいそれに、私はこれまで何度魅せられて、何度過ちを犯しただろう。

一度や二度じゃない。何度も何度も。数え切れないほど、いろんなモノを壊した。彼の嫌う、あの化け物のように。

それはきっと、これからも。

「それにしてもこの廃墟はいいね。気に入ったよ。」

「臨也さんがそういうなら、ひと月後には自殺の名所になりますよ」

「君って本当に素直だよねえ」

そういうとこ、好きだよ。

って

やめて下さいよ。そんなこと言わないで。

「ありがとうございます」

明日には、そういうとこなくなりますけど。

臨也さんに気に入られるものって、私は全部嫌いなので。

「シズちゃんは?」

「あいつは、話題によく上がるのが気に入りません」

「俺自身ってのはどういう扱いになるのかな?」

「臨也さんは、ほら、あまり自分がお好きには見えませんから。自分語りも嘘ばかりでしょう?」

その時、不意に窓枠の外から、会話を遮る様にパトカーのサイレンが聞こえた。

「あはは、またなにかあったみたいだねえ」

「そうみたいですね。気になります?」

「気になるけど、気に入りはしないから安心しなよ」

「そうですか。」

「ねえ、俺は君達人間が大好きだよ」

「そんなこと言われても、死にませんからね」

「時々、ていうかいつも、俺には君の求めてるものがわからないよ。」

いらないものもいまいちわからないんだけどね。


そう笑った臨也さんの目は、ああ、やっぱり素敵だ。



2011/02/19
一番わけがわかってないのは書いてる私自身です。
アンチクロロベンゼン聞きながら書いたのが悪かったのだろう。
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