バレンタインとホワイトデーの間
はい。バレンタイン。
そう言って手渡された赤い箱は、あからさまに市販のもので、オレは手作りじゃないのかよ。と、一瞬だけ思い、すぐに思いなおした。
高そうだ。いや、凄くというわけではないが、大きさの割に、高級感が漂っている気がする。
「これ、いくら?」
「普通訊かないでしょ。三倍返しにしてくれるなら言うけど。」
彼女でもなんでもないヤツに、三倍返しなんてしてられっか。そうは言わなかったが、言ったとしたら彼女はどんな反応をしてくれただろうか。
彼女になりたいと、言ってくれただろうか。
バレンタインという日のせいか、オレはそんな、何時になく乙女チックなことを考えつつ、彼女の話に耳を傾ける。
「冗談だよ。ほんの八百いくらだし、気にしないでいいよ」
それが高いのか安いのかすらオレにはわからなかったが、気にしないでいいというのはいただけない。
気にしないでいいというのは、相手がこっちを気にしていない場合に言えるセリフのハズだ。
「お返しいらねーわけ?」
「ん?なんで?用意すんの面倒だったらいらんよ?」
「あっそ。」
「あー、でも、」
あっさりと、彼女は続きを言った。オレをこれだけもやもやさせておいて、何でもないような顔をして。
「返事だけは、用意しといてね」
「は?」
「それ、本命だもん」
あっけにとられたというのは言うまでもない。
顔を赤くもせず、いや、寒さのせいで多少は赤いが、そういう赤さは全くない。いや、顔が赤いのは寒さのせいだ。とかって言いわけではなく。間違いなく彼女に照れはない。
バレンタインは女の子が照れて男がそわそわするイベントだろ?なんでオレがそわそわして照れてんだよ。
「まあ、あの、と、いうことなので。」
「おう」
「私榛名が好きですから、」
「おう」
「ホワイトデーには返事、よろしく」
言い方は照れてそうに読めるかもしれないが、彼女の普通さは変わらない。
普通というか、いつも通りというか。
「あのさ、照れてるからね、私」
「その言い方は照れてねー!つーか心読むな!」
「んな不服そうにしてりゃあわかるよ」
「ぜってー照れてねー。緊張すらしてねー。」
「してるよ」
「嘘つけ、お前いつもど」
「いつも、緊張してる」
そんなこと知ってるよ。
オレと目が合うと一瞬ビクッてなるのだって、出会った頃より顔を見ようとしないのだって、本当は全部とっくに気付いていた。
「そうやって正直に言うなよ。自信なくなンだろ」
「なにが」
「いや、なんとなく」
「まーいいけど。あのさ、榛名の脳内って結構私でいっぱいだよねー」
「はあ?自意識カジョーだろ」
「そうかな。でもそれなら、榛名はもうちょい、カジョーになった方がいいよ」
そんなもの、とっくになってるというのになぜ気付いてくれないのだろう。
自意識過剰な癖に、返事なんて出すまでもないことにすら気付かないのはわざとなのか、それとも。
「とりあえず、返事、ちゃんとホワイトデーまでまってろよ」
「おーうあったりまえじゃん」
「飽きるなよ」
「あはは、もう答え言ってるようなもんだよね、それ」
そう言って笑いながらも答えを急かさない彼女に、オレはまた自信を失うのだ。
「うん、でもま、じゃあ、気長に待ちますよ」
2011/02/15
一日後れちゃいました。すみません。