毛布からこぼれる温もり
「気持ち悪い死ぬ」
「つか先輩、酒くさいんで、寄らないで貰えます?」
「きゃー榛名くんってばひっどーい」
「あー、そんな風にふざけられる程度なら大丈夫ですね。とりあえず今すぐ帰れ。」
私が今日新年会と称して友達と飲んでいた居酒屋は、榛名のうちのそばだった。
悪ノリしてふざけまくって飲み過ぎた私は、財布の中身も悲しいことになり、タクシーに乗れず、終電を逃し、気付けばこの近辺に住む唯一の友人である榛名の家にいた。
「いやいや、これでも結構切羽詰まってんだよ榛名くん。なにせ、お店でるときに、残すの勿体無いと思ってつまみ類も全部食べちゃってさ」
「バカっすか。ったく、昔、人をさんざんバカにしてた癖にバカ過ぎンでしょう」
「とにかくー、今は言い返す気力がないくらいに気持ち悪くて吐きそうなの。トイレプリーズ。本当、リバースカードオープンしちゃいそう」
ぶつぶつ文句を言いながらも、榛名は私をトイレに案内し、中に押し込んで乱暴にドアを閉めた。
寝てるとこを呼び鈴と携帯の二重攻撃で起こしたわけだし、不機嫌なのは仕方ない。私が悪いのだ。
しばらくトイレに閉じこもり、胃の中をスッキリさせれば、頭が大分はっきりしてきた。レバーを回し水を流して、私は少しだけトイレのドアを開けて外の様子を窺う。
今更申し訳なくなってきた、というか、榛名が、私が思っていたより、かなりイライラしているであろうことに漸く気付いたのである。
「なにバカな格好してンすか」
そう言って榛名が強引にトイレのドアを開けた。あからさまに不機嫌な態度。やはり怒っている。
「で?帰るわけ?」
「いや、電車ないし、タクシー代もないし」
「うち泊まるつもりっすか?」
「そうさせて頂けると非常に助かります。はい。」
そう答えた私に、榛名は無愛想に、あっそ。と言い、大きく口を開けて欠伸をした。申し訳なさを更に感じる。眠いせいなのか敬語が減ってきているのにも文句は言えない。
それから榛名は、眠そうな顔をしながらも私を自分の部屋に案内すると、毛布を一枚持ってリビングへと向かった。
「あの、榛名くん寝ぼけてる?普段の榛名くんなら間違いなくソファー行きは私だよね?」
「なに?先輩はソファーが良いわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど、あの、ソファーじゃ疲れとれないよ?榛名くんはそれじゃ困るでしょ?」
私がそう話しかけている間にも、榛名はソファーで寝る準備を着々と進めていく。そして、持ってきた毛布に潜り込み、もう一度大きな欠伸をした。
「榛名くん。やっぱ私がソファーで」
「眠い。煩い。黙れ。」
「ごめんなさい」
それを言われちゃうと、もちろん私は何も言えないのだ。しかし、急に押し掛けた私が、榛名のベッドで寝させて貰うのはどうかとも思う。
「あの、私はベツにソファーで大丈夫だよ?」
「す」
「す?」
「好きな女をソファーで寝かせられっか。バーカ」
それだけ言って、榛名はすーすーと寝息をたてて寝てしまった。
寝ぼけてとんでもないこという子だよなあと思いつつ、私はすっかり眠りに落ちた榛名の頭を撫でる。
「私だって、好きな男にはソファーなんかで寝てほしかないんですけどね」
私がこんなとんでもないことを言ったのは、多分まだ酔っているからだと自分に言い聞かせて、私は榛名の部屋から布団を一枚拝借し、床に座って榛名の眠るソファーにもたれて眠る事にした。
ソファーよりベッドより、私は結局榛名の傍が一番心地良いのである。
布団に潜り、毛布からはみ出た手を握り私は目を閉じる。その手が握り返された気がしたのは、果たして気のせいだろうか。
2011/01/09
もっと毒舌な榛名を書く予定がいつの間にかこんな話に。しかしうちのサイトはヒロイン年上率が高すぎますね。ていうかこれ隆也で書くべきだったかもですね。