手を挙げて抵抗しろ/弔士


非常に不本意なのだが。

私の通っている学校の教師、『串中弔士』は倫理の先生である。そして、スクールカウンセラー擬きも兼任していたりする。

そして私はサボり癖のある問題児である為、担任に泣いて頼まれ、週に一、二回、彼のカウンセリングを受ける事になっている。

はっきり言って、私はその時間が死ぬ程嫌いだ。いや、実際は死んでいないし、死にかけた事もないのだから、死ぬ程と言うのは少し大袈裟かもしれないが、とにかく私は彼のカウンセリングが嫌いだ。

それは何故か。理由は簡単、彼からは、私と同じ、『異常』な部分を感じるからだ。彼が、世界からある意味切除されている存在で、将棋でいうなら、『棋士』であるのに対し、私の『異常』さは、『駒全て』に相当してやろうとするところ。世界の全てに関わり、全ての出来事の起因のうちの一つの要因、または、それによって起こされた何かと関わるものでいたいのだ。

故に私は常に、誰かによって動かされる何かである。一見、串中弔士は、誰かを誘導するのに長けている為に、私と相性が良さそうだが、それは否。私のもう一つの本分…というより、『全ての駒』であるが故の特性に、この世で起きている全てを経験し、より多くの場面で、角行と飛車を足したような動きを出来るようにする。という性質がある。

これだって、串中弔士と居るというだけでも、かなりの経験になるようにも思えるかもしれないが、決してそうではない。

『串中弔士』は『私』に『経験』をさせないように『誘導』するのだ。

学校に来ない理由の無い私に、彼のカウンセリングは効かない。というより、誰のであってもカウンセリング自体が効くとは思えない。

だからなのかなんなのか、串中弔士は、まず私に学校に来ない理由を作らせるべく、徹底して、私を学校で出来る筈の経験から遠ざけるのだ。仕方ないとでも言うように。

まあ、彼が実際何を考えてるかなんて全くといって良いほどわからないのだけれど。

とにかく、彼の異常さは、私にとって非常に有害なのである。誘導に乗りやすい、私の性質せいもあるのだろうが、彼は普通の人間ですらいとも簡単に誘導するし。この場合、私の性質なんて無くても同じなのだ。

彼から直接聞いた話では(彼が何を考えて私にこの話をしたのかはわからないが)、彼は友達を誘導して、実の姉を殺した事があるらしい。現実味のない話だが、串中弔士ならやりかねない。信じる信じないは別として、やろうと思えば、串中弔士なら出来るに決まっている。

もちろん、こんな風にだらだらと話をしたいがために、この話は作られたわけでは無いので、とりあえず、今説明した有害生物串中弔士を登場させたいと思う。登場させる。というか、彼は私の目の前にいるのだが。というかここは、彼の本拠地である生徒指導室なのだが。というか今日は、例のカウンセリングの日なのだが。

「最近は、きちんと学校に来ているらしいですね」

お陰様で。と、私はソファに腰掛けながら、棒読みで言う。きちんと学校に来ているのは、学校に来ない理由を作ろうとした彼へのちょっとした反抗である。

もうお気付きの方もいらっしゃるだろうが、私は思い切り、串中弔士の思惑通りに動いてしまったというわけだ。

ちなみに私がそれに気付いたのは既に三週間近く休まず学校に来てしまった後だった。鈍いんじゃない。奴は悟られないように人を誘導するのが異常な程……間違えた。彼自身が異常なのだから、異常な程人を誘導するのが上手いのは、当たり前なのだ。

正しく言おう。異常な串中弔士は、普通に日常的に人を誘導するやつなのだ。

「いい事ですよ。そろそろカウンセリング止めても平気なんじゃありませんか?」

「担任が許しませんよ。私としちゃあ、ちゃっちゃと串中弔士先生との関係を切りたいので、早く止めたいところなんですけど。その為に学校に休まず来てるってのもあるのに。」

「ぼくも嫌われたものですね。」

空っぽな笑みを浮かべる彼。こんなに嫌いなのに、だからこそ逆に休まずカウンセリングを受けなければならないなんて、本当に上手くやられたもんだ。

「ええ、不本意ながら。」

私はいつまで彼と関わらなければならないのだろうか。卒業まででは無いことを私は祈っている。



2010/08/11
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