太陽が登りたての早朝の空はほのかに赤く滲んでいた。
拠点から出ると波打ち際に集合した。フラールの話によると海上の防衛ラインに向かうお偉いさんたちを見送るためらしい。
もしかして見送るお偉いさんってアースだろうか。いやもしかしなくてもそうだろ。
昨夜のアースのことを覚えているから正直、アースには冷たい軽蔑的な視線しか送れそうにない。
「よぉ、ウェン!!」
そうアースのことを考えていたら、声をかけてきやがった。
舌打ちして無視してやろうと思ったが、しつこいので無視できなかった。
「なんだよ、その冷たい目は。これから最前線に向かう指揮官様を労ってくれよ〜」
「……頑張れ!!」
ウェンはわざと満面の笑みを浮かべてアースに労いの言葉を送った。できるだけ気持ちを込めて。
アースにはこのウェンの気持ちが届いていないのか不服そうな顔をしている。
もうそろそろこの鬱陶しいおっさんから解放されたい。
「ウェン、知り合いけ?」
誰か助けて。そう願った瞬間助っ人が颯爽と現れた。神様はまだウェンを見捨てないでくれたようだ。 ルームメイト万歳、心の底からそう思った。まだ1日も一緒にいない付き合いの浅い仲間だけど頼りになる。
ウェンはフラールに向かって首を横にぶんぶんと振った。真顔で激しく首が吹っ飛んでしまうかと思うぐらいに。
しかし、フラールは嫌な予感を感じさせるさわやかな笑みを浮かべるとあろうことかアースと握手をしだした。
「ウェンのお仲間さんかぁ。こいつ前にしか突進できない猪型バカだけど面倒見てやってくれ」
「おう、任せといてください!! 責任もってウェンの世話します」
お前ら何仲良く会話してんだよ、と怒鳴り散らしたくなる。
ウェンが猪型バカならアースは変態変質者野郎バカで、フラールは天然バカだ。
本当にバカばっかだ。天才を出せとは言わない。常識のある普通の一般人を呼んできてほしい。そう切実に思った。
「……こんなとこで油売ってていいんですか、アース“様”」
鋭い棘を孕んだ声が聞こえた。
ウェンは安堵した。正直もう一人で突っ込みきれなくて大変だったのだ。
たぶんレンなら大丈夫。バカが飽和したこの場をうまくまとめてくれる。
そんな楽観的なことを考えていた直後、金属と金属がぶつかる激しい音が響いた。
へっ、とウェンの口から間抜けな声が漏れた。
アースの前に大きな槍を構えたフラールが、今にもアースの喉笛を掻ききろうとしているレンのナイフを受け止めていた。
「レンちゃ、やめ!! 落ち着け!! 急にどうしたんよ」
「……うるせぇ!! ぶっ殺す、今すぐ殺す!!」
レンの血走った赤い瞳をまっすぐ見つめながらアースは動かなかった。
殺されそうになっているにも関わらずアースは剣を抜こうともしなかったのが奇妙だ。
――嘘だろ、アースが動揺している?
「アース!! おい、アースしっかりしろよ!!」
肩を掴み強く揺さぶると、ウェンは視線をレンからウェンへと移した。
しかし、まだボーっとしているようだ。
「……なんで、お前らはブラングルで殺されたはずじゃ……」
小さな声でつぶやく。今のアースはいつものような変態的な余裕は全くなく、混乱しているようだった。
レンを止めているフラールも体力を削りたくないだろう。とりあえず、あーすとレンを引き離さないと。
「アース、行くぞ!!」
ウェンはアースの手を引いて、レンから距離を取ろうと歩き出した。
虚ろな返事を返しながらアースはおとなしくウェンの後ろについてくる。
胸騒ぎがする。さっさとレンとアースを離そう。そう思い足を速めた。
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