東海岸の拠点についた頃にはもうアースの顔は真っ青に、周囲は真っ暗に染まっていた。
たどり着いた拠点は、ウェンが想像していた柵や有刺鉄線で覆われた要塞のような拠点とは違い、拠点というにはあまりにもお粗末な、鬱蒼とした熱帯雨林の中にある断崖絶壁の岩肌をくりぬいて造った人工の洞窟のようなところだった。
波の規則正しい音が聞こえる以外、虫の声も聞こえない静かすぎる拠点の入り口は灯りもついていないので何も見えない。
初めのうちは相手の顔もよくわからなかったが、目が慣れてくるとぼんやりとだが、周りが見えるようになってきた。
湿っぽい潮風に微かに異様な生臭さを感じたりしたが、この地特有の植物の匂いだろうと気を紛らす。
「わざわざご苦労です。ミスターアース」
最初にウェンたちを迎えてくれたのは金髪の髪の女性だった。
機械的で起伏がなく淡々としている喋り方に感情がない顔。まるで人形だ。
「よっヴェロニカ、相変わらず血なまぐさい匂いがプンプンすんなぁ〜」
アースは軽いノリでヴェロニカの肩をポンポンと叩いた。
隣にいる眼鏡をかけた東方系の顔立ちで知的そうな男性団員――魁(かい)とは握手と一言短い挨拶をしただけなのに、こんなに差の激しい挨拶は初めて見た。
もしアースが女性団員全員に今のようなボディータッチ満載の挨拶をしてたら、そのうちセクハラで訴えられ出しそうだ。むしろ訴えられて一度痛い目を見ればいいと思う。
「2人はあまり気にしないでやってください。いつもあんな感じでじゃれ合っているんです」
アースのペースについていけず唖然としていると、適当な挨拶をされて気分を害しているだろうなと思っていた魁が、にこにこと楽しそうに微笑みながらそうに話しかけてきた。
魁はそう言ってくれるが正直、耐性のないウェンに気にするなというほうが無茶だ。
なんせアースはいつの間にか無表情のヴェロニカに踏みつけられていた。
その上極楽にでもいるかのような恍惚とした笑みを浮かべている辺りもう重症、いやもう末期だ。
元から変態とは思っていたが、まさか変な性癖まで持っているとまでは夢にも思わなかった。
とりあえずこの最悪な現場を収めた写真をアーデに見せて、今すぐアースと縁を切ることを進言しなくはいけない。
「あの二人はいつもあぁでね。仲がいいんだか悪いんだかわからないんですよ。
終わるまで待ってるだけ無駄なので中へ案内しますね……えぇっと」
そういえばまだ魁に名前を名乗ってなかった。
ウェンは名前を名乗ると魁と握手をした。包帯でぐるぐる巻きにされた魁の手はとても冷たかった。
「ウェンくんですか……。まだお若いのにすみません、わたし達がふがいないばかりに……」
魁は眉をひそめてウェンに深々と頭を下げたのでウェンはあわてて顔を上げるように促した。
若いというより、まだまだガキなウェンがここに来なければならない状況を作り出してしまったことを魁が謝ってもしょうがない。
それに黄昏の血団に自分から進んで志願したウェンの意志もあるのだ。
だから魁は悪くない。いや、誰も悪くない。
戦況が悪化すれば老若男女関わらず使える兵士を戦地に総動員するのは当たり前。これは遊びではない、人の未来を賭けた戦争なのだから。
「……ウェンくんより少し年上の子たちもここにいてね。
彼らも今日からあなたの仲間になります、後で紹介しますね」
魁はまだ仲良くじゃれあっているアースたちを華麗に無視し、疲労色が隠せない顔に無理やり笑みを縫い付け、ウェンを拠点の中へと案内してくれた。
拠点の入り口の壁に掛けられていたランタンに灯りを灯し、坑道のように続く狭い通路を奥へ奥へと進んでいく。
目が暗いのに慣れていたので、ランタンの光は強烈で、痛いほど染みた。
通路は奥に進むに連れ幅が広くなり、高さも標準体系より少し背の高い成人男性でもかがまないで事足りる高さだった。
移住区らしいエリアでは通路を挟んで両サイドに部屋と思われるスペースが掘られていて、扉の隙間からランタンの灯りが通路に漏れていた。
魁は木の扉の前で足を止めると、木製の扉を開け、ウェンに中に入るように言われたので言われた通り、辺りをキョロキョロと見回しながら部屋の中に入った。
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