アースは赤い色の瞳を細め、まるで害虫を見るような冷たい目で腰を抜かして倒れ込む、貴族の男を見下した。
ウェンと別れたあと、色んな奴から情報を絞りとってきたのだが、どいつもこいつも妙に仲間意識が強いのか素直に本当のことを喋らない。
だから今、色んな奴の中で一番権力を持っているこの貴族を脅して情報を絞りとろうとしているのだが、コイツは権力乱用もいいとこ、護衛の騎士を呼ぶわ用心棒を呼ぶわで抵抗しまくってくるからかなり手間取っている。
「ア、アース。貴様!!」
男は気絶して動かなくなった騎士と用心棒を見て、悔しそうに吐き捨てた。
「痛い目みる前にさっさと答えて下さい。……何故ここでアイツが暴れているのかを」
「そ、それは……」
「言えないことなのなら」
アースは冷たい赤の瞳を男からそらさぬまま長剣を突きつけた。
「無理矢理聞き出すまでだ」
アースがそう言った時、タイミングよく(?)ポケットの中にいれていた携帯端末が小刻みに震え出した。
アースは端末を取り出し電話をかけてきた人物を見てため息をついた。
せっかくのこの緊迫した空気が台無しだ。
アースは大きなため息をつくと、放っていた冷たい殺気と一緒に長剣を鞘におさめて端末を耳にあてた。
「もしもし?」
『……あっ、アースか?俺だ、俺』
相変わらず暇なのか忙しいのかわからない我らが頼れるリーダーの呑気な声。
「俺々詐欺はやめて下さい、九竜さん。今俺かなり忙しいんで、暇潰し電話ならきりますよ」
もしかしてこれは黄昏の血団、フィラ支部の団員が何よりも恐れる恐怖の着信。
運の悪い団員が着信する《暇人の暇潰し電話(リーダーの愚痴こぼし及びストレス発散イタ電)》かもしれない。
『あぁ? お前相変わらずノリの悪い奴だなぁ……』
やっぱり。
何でこんな時に限ってこんなめんどくさい電話をかけてきたのだろうか。
まぁ、鬱陶しくなればきればいいし、べつにいいか。
こんな電話、真剣に相手にする必要など全くないし。
「……忙しいんできります。じゃあさよなら」
『ストップ!! 悪かった、俺様が悪かった。今から要件を伝えるから』
――要件があるなら最初から要件を言ってくれれば……。
心の中でアースはそう呟き端末の向こうから聞こえてくる九竜の声を待った。
『……ウェン、アイツのことだが……』
「あぁ、ちゃんと脱獄させてやりましたよ。今はちょっと俺の用事手伝ってもらってますけどね。
心配するなら、あんな無茶な任務、受けさせなければ良かったのに」
アースが苦笑を浮かべて呟くと、向こうも小さく笑った声が聞こえてきた。
『今のアイツは、ただ堕天使を倒すことだけが目的だ。
その目的を達成するために手助けしてやっただけだよ』
「……似た者同士ってのも困りもの、か。それで要件はそれだけですか?」
アースは九竜と電話でだべっている隙を見て逃げ出そうとする男を氷のような冷たい瞳で見つめ呟いた。
『えっ、まぁ?」
「じゃあ、そろそろまずいんで、きります。さよなら」
アースは一方的に電話をきると、短く呪文を唱えて、逃げようとしている男の前に巨大な壁を造り出した。
出口がある前は壁に阻まれて、窓がある後ろにはアースが立ちはだかる。
これでもう男は逃げられない。
「さぁ、あの鳥をどこから喚んだか教えてもらおうか」
アースはゆっくりと恐怖に震える男に近付きながら言い放った。
只今の時刻は午後3時。日没まであと3時間。
END
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