これから怪鳥とドンチャン騒ぎをやるのだが、お姉さんがここにいては巻き込みかねない。
「ここは危ないから今すぐ街の中に逃げろ」
ウェンがそう言うとお姉さんは不安そうな2つの色の瞳でウェンを見つめてきた。
どうやら逃げろって言われても逃げるつもりはないようだ。
華奢で儚げな見た目とは裏腹に結構頑固な性格というわけか。
「逃げないんなら、巻き込まれても恨むなよ、えっと〜?」
そう言えばお姉さんの名前まだ訊いてないような。
明らかに怪鳥が数十m前にいる今、名前なんて訊いてる場合じゃないけど……。
「アデレード。こっちは言いにくいからアーデって呼んで、ウェン君」
お姉さん――アーデはニコっと笑ってウェンの名前を呼んだ。
――やっぱり笑顔が可愛いな。
もし目の前に怪鳥がいなかったら今、ウェンはかなりだらしない顔をしていたと思う。
今はデレデレしてる場合じゃない。
この呼んでしまったごっつい怪鳥をどうにかしないと……。
怪鳥は地面を揺るがして着地し、ウェンを美味しそうに見つめてきた。
これはやらないと、殺られる。
「丸焼きチキンにしてやる」
ウェンはそういい鞘から剣を抜き、怪鳥より先に動いた。
正直いって、ウェンは、敵軍の堕天使退治が本業の軍人であって魔物狩りを生業とする連中とは違う。
堕天使と戦うウェンは、堕天使の行動パターン、弱点など相手の能力を知り尽くしているが、魔物についての知識は全くといっていいほどない。
それに、星の数ほどいる魔物の種類と弱点なんていちいち覚えてられない。
ウェンはとりあえず怪鳥の動きの主軸となっている翼を狙うことにした。
あのゴツイ翼を折ればアイツは空には飛び上がれない。
地上戦に持ち込むのなら勝算はまだまだ見込める。
しかし、怪鳥は魔物のくせにかなり頭がいいのか、怪鳥は真っ直ぐ翼に突進するウェンが何をするつもりわかったらしい。
海辺の細かい砂が空高く舞い上がった。
「ちっ、砂邪魔だ!!」
ウェンは砂が目に入らないように手で目を覆った。
怪鳥はズル賢いのか、ウェンが目を覆っているうちに、急降下し、鋭利な刃物のような鋭い鉤爪を光らせて襲い掛かった。
ウェンは寸前のところで目を覆うのをやめて、迫り来る巨大な鉤爪を双剣で受け止めた。
受け止めたのはいいが、巨大な図体のアイツの力にウェンが及ぶはずもなく、じりじりと押されていっている。
「そのデカイ体、みかけ倒しじゃないみたいだな、チキン」
ウェンは剣を引かせ、バックステップで2歩、後ろに下がり怪鳥と距離をとった。
とりあえず、今みたいに突進していったら痛い目にあう。
――違う作戦、考えないとな。
しかし違う作戦を考えるといっても、今はゆっくりと考えられる状況じゃない。
かといってがむしゃらに斬りかかっても、かなう相手ではないだろう。
アースが会っても相手にするなって言ったわけわかったような気がする。
たかが魔物、されど魔物、侮るべからずってところか。
けれど今さら尻尾を巻いて逃げる気なんてない。
それによく思えば、考えるなんてウェンらしくない。
ウェンの戦法のモットーは猪突猛進、道は力付くで開け、だ。
それでだいたいのことはどうにかなる。
……たぶん。
ウェンは地面を蹴り走りだし、怪鳥に向かって双方の剣を勢いよく振りかざした。
「くらぇぇぇ!」
刃が真夏の太陽の光に照らされてきらりと輝いた。
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