お姉さんに引っ張られて連れてこられた場所は、芝生広場から離れた場所にある、人気のない海岸線だった。
お姉さんは足を止めて、少し先に見える双子岩の小島を指差した。
「ここよ。この先にあるあの小島の上にクーちゃんが行ったっきり帰って来ないの。
だからおそらく例の怪鳥がいると思う」
お姉さんが指差したあの島は潮がひいていれば歩いて、満ちていても周りにある岩の上をとったら行くことができる。
確かにあそこはめったに人は来ないので、化け物が巣をつくるにはうってつけの場所だ。
とりあえずこの場所のことをアースに教えたら無事お手伝い終了だろう。
たとえ怪鳥が出てきても相手にするなって言われてるし。
「そっか……。教えてくれてありがと」
とりあえず危ない怪鳥が出てくる前にお姉さんを安全なとこに連れてかないと。
それにここで長々としゃべってて怪鳥が出てきたなんて展開になったりしかねない。
「クーちゃんは?」
「あぁ。大丈夫そのクーちゃんのことはこのウェン様に任せとけって!!」
「えぇお任せするわ。けど、……あれ」
お姉さんは青い空を見上げた。
雲が真上を通ったのかウェンたちがいる上空が一瞬曇った。
それと同時にウェンの目の前に羽が降ってきた。
降ってきた羽はあの強行突破大好きさんが持っていた大きな羽と同じ大きな羽。
「……最悪だ」
ウェンはポツリと呟いた。
出てきませんようにって思ってた矢先に散歩しだすなんて。
あの空飛ぶ巨大チキンがわざわざタイミングを読んで巣から出てきたようにしか見えない。
しかし、幸いにも相手はこっちに全く気づいていないようだ。
ラッキー〜!! って思うのもつかの間、アイツは宮殿の、芝生広場の方へと向かって進んでいってる。
アイツを放置しておくときっとアイツ街を荒らしに行くだろう。相手にするなってアースに言われても、ここで相手にしないと街がめちゃくちゃになる。
「ったく、あのチキン野郎が!!」
ウェンはそばに捨ててあった缶を空を悠々と泳いでいる怪鳥に向けて投げた。
正直届くような気がしたが、アイツは思ったよりずっと高いところを飛んでいる。
空き缶はあのチキンには届かずに乾いた音を立てて地面に落ちてきた。
カラン……。
ウェンたちのしゃべり声よりだいぶ小さな落ちてきた空き缶がたてた音。
「あっ、やば……」
それがあの怪鳥を呼ぶ音になってしまった。
――なんでこんな微妙な音に反応すんだよ!
空き缶を投げるウェンの気配とかを察知して攻撃してくるのならまだなんとなくわかるが、外した空き缶が落ちた音って……。
ウェンはもう一度空を確かめるように見上げると、気のせいか怪鳥のつぶらな(?)黒い瞳と目があった。
いや、気がするじゃなくて確実に目があっている。
怪鳥にはウェンはかなり美味しそうなご馳走にでも見えるのか一切視線をそらそうとしない。
餌がボーッと突っ立ってて捕食者を見てるなんて自分でも思うが、かなり変な図だ。
「……あの鳥、こっちにきてるわよね?」
お姉さんが、ウェンの隣で空を見上げながらウェンが思っていたことをかわりに言葉に出してくれた。
やっぱり、あの鳥はウェンから視線をそらさずにさっきよりずっと近くにきている。
たぶん今心の中で『あぁうまそうな餌だな〜どっちから食べようかな』とか思ってるに決まってる。
相手にするな、と言われても相手にしないと2人とも食われてしまうし。
ウェンは両手をいつでも剣を抜けるように左右の柄にかけ、ひきつった笑顔を浮かべた。
正直この状況をつくりだしたウェンが言うのもなんだが、かなりヤバい。
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