「議会が住民の口を封じている。
俺も、彼女からの情報がなかったら全く気付いていなかった」
「彼女って婚……」
「とりあえず彼女のことはどうでもいい。
ウェン、俺個人としてのお前にお願いがあるんだが……」
怪鳥のことより、アースに情報を送った“彼女”の方が個人的にかなり気になるのだが……。お願いって……だいたい予想はつくが。
「その怪鳥退治を俺にも手伝えって?」
「あぁ。ここの騎士と九竜さんには後で俺がうまいこと言っとくから」
それはそれで別にいいが。って全然よくない、あのアレスとかいう騎士に謝罪をさせないと気がすまない。
「アース“さん”一個お願いあるんですけど」
「敬語やめたら聞くよ」
アースは若干鳥肌をたてながら、さっきと同じ爽やかスマイルで返してきた。
鳥肌がたつほど、ウェンの敬語って気持ち悪いのだろうか?
一様母親からは上の人にもちゃんと敬語使いなさいって言われてるのに。
「じゃあアース、手伝うかわりに後ででもいいからアレスって騎士呼んで来てくんねぇ?」
「……アレスが、どうかしたのか?」
「そいつがこっちの事情無視して牢屋送りにした奴。
しかも武器抜いてない俺を部下の騎士使ってフルボッコにした騎士道の欠片もない餓鬼の名前だよ」
アースはアレスのことを知っているのか、気の毒そうな顔をしてウェンを見てきた。
「それは悪かった。後でちゃんと呼んでくる。じゃあ怪鳥退治を……」
「手伝うよ」
ウェンの実家の孤児院がある帝都でデカイ鳥が暴れられたら大迷惑だ。
そんな迷惑な鳥は打ち落としてチキンにして今晩のおかずにしてやる。
「助かる。俺は貴族連中から情報を絞りとってくるから、ウェンは街の人から情報を集めて来てくれ」
――絞りとってくるって。
なんか貴族連中も貴族連中でとんでもない爆弾を抱えているような気がする。
まぁ一人ぐらいアースみたいなのがいなかったら、この国は腐りきった貴族が増えてしまっておしまいだが。
「あぁ。わかった。んで俺どうやって宮殿から出たらいい?」
外から情報を集めるのはいいがどうやってこの騎士様とかがうろうろしている宮殿から出ればいいのだろうか?
やっぱりここは宮殿のことをよく知っているアースから訊くしかない。
「あぁ、それならそこの壁を壊し……」
「アンタ強行突破好きだよな。
秘密の抜け道みたいなのってないのか?」
「そんな都合のいいもの、この宮殿の中にあるわけないだろ?」
確かにそうかも知れないけど。宮殿って言ったら秘密の隠し通路がいっぱいあったりしてもおかしくないような。
さっき鉄格子を斬った音よりも何倍も大きな音がした。
牢獄でこんなに物音がしているのに騎士たちは誰一人ここの様子を見に来ない。
おかげで警備はガラガラ。まぁその方が都合はいいが。
「ほら抜け道できたぞ」
アースは綺麗な穴が空いた壁を見て満足気に呟いた。
さっき鉄格子を斬った時も思ったのだが、アースは硬いものでも豆腐を斬るのと同じぐらいスパッと綺麗に斬っている。
強行突破が好きなだけあってかなり腕がたつようだ。
ウェンは恐る恐る壁にあいた穴をくぐって外に出た。
周りを見回してみたが騎士はおらず、数十メートルぐらい先には宮殿の前にある市民の憩いの場の芝生広場が見える。
「じゃあ今日の日没後ここに集合で」
「わかった」
太陽は今、真上ぐらいにあるので、情報を集める時間は、たくさんある。
ウェンはとりあえず人が集まる芝生広場に向かって歩き出した。
「ウェン、くれぐれも怪鳥と鉢合わせしても相手にするなよ」
後ろからそうアースの忠告の声が聞こえてきた。
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