Promise Flower | ナノ



 目の前の鉄格子は綺麗に斬り落とされた。
 ウェンは中で大きく体を伸ばすと、牢獄の外に出た。


 思ったより早くじめじめした牢獄の外に出れて良かった。


 けれど、こんなにうまく牢獄の外にでれたら、脱獄罪とかになったりしないのか気になる。


「後のことは全部俺が責任を持って行う。だからお前はさっさと屯所に帰れ。九竜さんが心配してたからな」

 
 お隣さんは抜いた剣を鞘に収め、闇の中でも綺麗な赤色に輝く瞳をそっと細め、ウェンに向けた。


――“九竜さん”が心配してるねぇ。


 ウェンは心の中で呟いた。
 心配するなら最初からあんなめちゃくちゃな任務を出さなかったらよかったのに。
というかあんな鬼親父のいる屯所に帰る気なんてゼロだ。


「お隣さんこそ、九竜の命令でわざわざ俺を助けに来たのか?」

「……まさか、俺もそんな暇人じゃないよ」


 お隣さんはそう言うと苦笑いを浮かべた。
 確かにお隣さんは暇人じゃない。


 今になってやっと、艶やかな長い漆黒の髪に紅玉よりも赤い瞳のイケメンのお隣さんが何者か思い出した。


 彼は黄昏の血団の人間だ。
 しかもフィラ支部のリーダー、九竜の頼れる右腕で、あの九竜と互角に剣を交えた実力を持つフィラ支部の頼れるNo.2。アース・アフェリエ。

 まさかこんな大物がお隣さんだったとは……。

 だからあの時訊いたことがある声だなぁ〜っと思ったわけだ。


「それでアースさん」

「さんはなしでいいよ。……なんか気持ち悪いし」


 ウェンの質問を遮り、アースは爽やかスマイルでかなり酷いことを言ってきた。

 人が百年に一度使うか使わないかの敬語を気持ち悪いって……。

 確かに日頃敬語を使わない奴が敬語を使ったら気持ち悪いが……って、ここで納得したらウェンの負けだ。


「俺のことも九竜さんみたいに呼び捨てでいい。なんかそのほうがウェンも呼びやすいだろ?」

「確かに、そうかもしんないけど……ってあんた俺の名前知ってんの!?」


 アースに名前を名乗ったような気はしないが。


「……あぁ、九竜さんから毎日のように愚痴聞かされるからないやでも覚えた。

 あの人ウェンのことバカ、バカ言ってたけど、思ったよりバカじゃなさそうでびっくりしたよ」


「……へぇ〜そうなんだ」


――あの髭糞鬼親父!!



 ウェンはアースに、なるべくにこやかな表情を保ちながら、ほぼ棒読みで返した。


 外面はニコニコしていても、内面は九竜への怒りの炎が激しく燃え上がっていて噴火寸前だった。


 九竜がウェンのことをバカバカバカバカ言いふらかすが、ウェンはそこまでバカじゃない……つもりだ。


 一様学校に通ってた頃はテストで10点より下はとったことない。
 しかも体育は学年最優秀で、理科の実験も教科書には書いてない方法で花火を作り出して先生を驚かせていた。

 確かに考えるのは苦手だが、そこそこな知識はある。
 バカじゃなくてせめて人並みと言ってほしい。


「……まぁ話を元に戻そう。俺が帝都に来たのは察しのとおり、ウェンを助ける為じゃない。
 目的は、最近帝都を荒らしている怪鳥退治」


 アースはそう言うとポケットからそこら辺の鳥とは全然大きさが違う巨大な鳥の羽を取り出した。


「怪鳥? そんなの初耳だぞ」


 たまにここ帝都ウォルウールの実家から手紙がきたり電話がかかってきたりするが、そんな情報一つも耳に入ってこない。







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