仕方ないからここにいるだけよ。 そう言って、どれくらいの時間が流れただろうか。
「キッドー、おーい、キッドやーい。」 「しっ!サキさん、しっ!今頭寝てるんすよ!」 「ええ、私に進路の確認させに行かせておいて!?断固抗議してやる。」 「や、ちょ、本当にお願いしますから、止めてくださいって…!」 「キッドこのクソ野郎!」 「ああ…。」
ずんずんと船の深部へと進んで、蹴破った船室の向こうには、ベッドに横たわった私より一回りも二回りも大きな影。このデクノボウが!
「おい、貴様。」 「……ああ?」 「貴様、私をパシリにして何故自分はのうのうと寝ているのだ。」 「なに怒ってんだよ…。昨日ので寝てねェんだよ…。」 「テメェが寝なかったんだろ!起きろ、そして私に陳謝プリーズ。」 「テメェに謝ることなんざねェ。それで、進路はどうなんだ。」 「…進行方向に問題なし、航海は順調である。」 「…そうかよ、」
それだけ言って三億の賞金首は無防備にも私の前でその頭をもたげて眠りの体勢に入る。くっそ、こんちきしょう。
「そいやっ!」 「ぐっ…」 「はははっ!ざまァねェな!」 「てんめ…!」
ぎゃはは、と笑ってキッドのコートの中に侵入してやる。あ、そろそろこのコートもファブらなきゃな。
「汗臭い。」 「シャワーも浴びてねェ。」 「やだっ、不潔っ!」 「じゃあなんでここに来たんだよ…。」
そう言って、そのままコートにくるまったままいる私を後ろからすっぽり覆うかのように抱きついて来て、うつら、となる。
「くあっ」 「お前も寝ろ。」 「んんー。そうだな…眠いし…ま、いっか…ここで寝てやるよ。」 「落とすぞ。」 「やってみろ!」
私がそう言うと呆れたように目を閉じたから、私も目を閉じてやった。
キッドとキラー、そしてヒート。まだ札付きの悪が海賊だと名乗ったばかりのキッド海賊団創設初期…まだまだ小舟で南の海を航海していた頃に、私はキッドと出会った。彼らにとって上陸二つ目の島が、私の故郷だった。その頃から近隣界隈の新聞で極悪、と取りざたされていたから当時島民は震え上がったものだ。
私はその時港にほど近い場所で両親と何不自由なく暮らしていて、服飾学校に通っていた。母親が婦人用帽子の職人で、父親は採石場の現場責任者をしていた。あの日、突然やって来た斬新さに私は目を奪われたんだ。
敷布団、掛け布団を兼ねたキッドのコートに包まれて、キッドの半裸の美ボディに囲われて、キッドの香りと、まどろみのせいで、あの頃を思い出した。
12/04/21
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