貴方への想いを短冊に
結局、短冊を渡せずに自宅に帰宅した沖田は鞄からそれを取り出して机の上に置いた。 何も書かれていない短冊をぼんやりと眺めながら、土方さんなら何を願うんだろうか、僕は何を願うんだろうか、と考える。 (……土方さん…) 変なの。 毎日、学校や彼の家で会ってるのにどうしてこんなにも土方に会いたいと思っているのだろうか。 (………違う…) 少し考えてそれは違うな、と首を左右に振って溜息を吐く。 違う、会いたいんじゃない。構って欲しいんだ。 最近はずっと仕事ばかりで相手にしてくれない土方に構ってほしくて、必死になって毎日のように会いに行くけど彼は沖田に見向きもしない。 (…会ってるのに……これじゃあ、会っていないと同じだ…) 一度も沖田を見ようとせず、最近はパソコンやプリントばかりを見て、恋人よりも仕事を優先している。 わかっている、彼が忙しいってことくらいはわかっているけど。 (……寂しい…) 構ってもらいたくて、こっちをみてほしくて、それの切っ掛けになるかな、っと思って短冊を持って土方の家に行ったのに、心の中は虚しさで一杯だ。 (…一緒に…書こうと思ってたのに…) ギュッと短冊を握り締めて、深い息を吐いた。 きっと、今の土方は七夕など忘れている。 そして、忙しさのあまり恋人の沖田さえも忘れているに違いない。 (……土方さんの…馬鹿…) ああ、もう…この短冊を捨てようか。 部屋の隅にあるごみ箱に捨てようとした沖田だが、すぐに考えを改めて鞄に再び短冊を突っ込んだ。 (…七夕までまだ時間がある) この短冊はまだ“切っ掛け”になる。 明日もまた土方の家に行こう。 それから、土方と一緒に願いを書こう。 大丈夫、僕らは何時でも逢えるんだから。 年に一度しか逢えない彦星と織姫とは違うんだから。 (…早く…会いたいな…) ベッドに寝転がり、土方のことを考えながら目を瞑る。 しとしとと降る雨はまだ止みそうもない…―――。 ―貴方への想いを短冊に― Written by 輝翔瑠菜さま |