星に願いを






***




「土方さん。はい、コーヒーです。お仕事もいいですけど、水分取ったり、ちょっとは休憩しないと、身体に悪いですよ?タバコだって、山になってるし……」

「あぁ」


週末。


沖田は土方の家を訪れていた。
そして、大好きな恋人のため、甲斐甲斐しく、洗濯や掃除、料理などの家事をこなす。


土方とて、家事全般は一通り出来るが、神経質なわりには、どこかずぼらだ。
例えば、洗濯はしても柔軟剤は使わなかったり、部屋は小奇麗なわりに隅にはホコリが溜まっていたり。
そして、食事に至っては、仕事にかまけて、放っておけば、平気で3日くらいはとらない。


だから、沖田は、そんな土方の身を案じ、週末は土方のために家事をこなす。


……というのは建前で、結局は、土方のために何かをしたり、一緒にいたいだけなのだ。


「ねね、土方さーん。土方さんは、七夕のお願いごとって、何かありますか?」

「あぁ」

「七夕って言えばぁ、日本のお話じゃないんですよね?どこの国のお話か知っていますか?」

「あぁ」

「じゃぁ、どこの国のお話ですか?僕、そこまではわからないです」

「あぁ」

「七夕になると、織姫のとこに行くから、彦星は牛をほったらかしにしちゃうんです。っで、拗ねた牛は、家出でして地上に来て、大暴れするんですよ。大変ですよね〜。僕たちのところには、こないといいですね」

「あぁ」

「……むぅ、全然、聞いてない……」


しかし、そんな沖田の気持ちなど知る由もないというように、土方はパソコンと睨めっこだ。
沖田は、はぁ、と小さなため息を零した。


沖田とて、土方の激務はよく知っている。
若いのに教頭という大役を任されている上、今は7月。
夏休み前の成績つけやら、補習の予定を組んだりと大忙しなのだ。


(忙しいのはわかるけど、少しくらいは僕にかまってくれたっていいじゃない)


沖田は、子どものようにぷくっ、と頬を膨らます。
そして、窓の外を眺めた。


(雨、降りそう。今日は七夕じゃないけれど、ずーっと、こんなだったら、織姫と彦星は会えないよ。一年に一回だけなのにさ)


外は、どんより、曇り空。
まるで、今の自分の気持ちを表しているような天気に、沖田の心は、尚、沈む。


(一年に一回だけ、って、どんな気持ちなんだろう?すごく久しぶりなわけだから、嬉しくて仕方がないよね?それで、二人で、ぎゅってしたり、キスしたり、いろいろなことをしちゃうんだろうなぁ……)


そんなことを想像していて、ふと、沖田は動きを止めた。
そして、考え込む。






最後にキスをしたのは、いつだったのだろうか、と。








(毎日のように会っているけどキスすらご無沙汰な僕たちと、一年に一回だけど、濃厚な時間を過ごせる織姫と彦星は、どっちのほうが幸せなんだろう?)


沖田は、今にも泣き出しそうな灰色の空を見つめる。
次いで、近くに置いてある鞄に視線を移した。


「……はぁ……、これじゃあ、渡せないじゃない」


そうして、先程とは違い、大きなため息を零す。
鞄の中には、沖田の瞳と同じ翡翠色の短冊が一枚、その存在を主張していたのだった。










Written by 華月さま





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -