孤独に生きすぎた哀れな、

狂気注意

























目を閉じると鮮やかな風景が思い浮かぶ。
そこは遥か昔の幸せな日々。
無邪気に遊んでいた幼き日の頃。
何も知らなかった、自分。



――…目を開けば現実。
いろんなことを知った自分がここにいる。
あの時からずいぶんと変わってしまった自分が。
不意にふっと乾いた笑みをこぼす。
時折わからなくなるのだ、自分という存在が。
なぜここにいるのだろうと考えてしまう。
迷えば答えを探そうとする。
しかしこの疑問に明確な答えなどない。
導き出せやしない。
別にわからなくとも構わないと思っている。
どうせ己の価値などある訳がないのだから。
















「なあ、千鶴…お前に俺の苦しみがわかる…?」




きっとわかりやしない。
なんの苦しみも味わわずに育ってきた妹には。
わかってほしいと思うこともあれど、そう簡単に理解されては困るとも思う。
何年も受けてきた屈辱が、たった一瞬で理解されてたまるものか。

「――…嫌いだよ。俺はお前が大嫌いなんだ。大切に守られて幸せな暮らしをしてきたお前が…」

目の前にいるのは久しぶりに出会った妹、雪村千鶴。
恐怖に怯える色を瞳に宿し、身体を小さくして震わせている。
一歩近づくたび、必死になって逃げようとしていた。
そんな妹の姿を見るのは楽しい。
でも酷いんじゃないだろうか。
まるで化け物でも見たように実の兄を怖がるだなんて。
許せない。

(お前だけ、幸せでいるだなんて…許せるはずがないよ)

道端に転がる石につまづき、転んだところで一気に距離を縮める。
手を伸ばせば顔に届くほどの距離。
壊れものを扱うように優しく、そっと妹の顎に手をかけた。
そして自分へと向かせる。
冷ややかな眼差しを注ぎつつも口元だけで笑みを浮かべて見せた。

「俺が怖い?」

僅かに首を傾げて問う。
妹は声を失ったかのように何も言わない。
首を縦や横に振ることもできない。
だけど自分にはわかる。
存在すら知らなかった兄が突然現れ、禍々しいほどの愛を受けているのだから。
恐ろしいに決まっている。怖いに決まっている。
それ以外の感情なんかある訳がない。
わかるからこそ楽しい。



お前はそれでいいんだよ、千鶴。











「可愛いよ千鶴。兄さんはお前が可愛くて堪らない。…俺の手で、犯してやりたいくらいだよ」
















けれどそんなことしたら、妹の大事な人たちが悲しむ。
妹を大事に思う人間が、怒り狂うことだろう。
どちらも自分には関係ない。
どうでもいいことだ。
ふわり、と微笑みを見せる。
自分は妹の瞳にどういう風に映っているだろうか。
やはり兄だとは思われていないのだろうか。
こんなにも顔が瓜二つなのに。
腰に差した刀だって対になっているのに。

(俺はお前を愛しているんだよ?……なのに)

なぜ、想いが伝わらないのだろう。
自分の考えが妹に理解してもらえないのだろう。
血をわけた兄妹であるお前ならと。
理解し合える唯一の存在になるだろうと、そう思っていた。

(ああ、そうか…お前は幸せに生きすぎたんだね)

誰にも必要とされなかった自分を見ても、哀れとしか思えないのだろう?
惨めにしか見えないのだろう?
だから妹も自分を必要としてくれない。
畏怖の存在としてしか、見てくれない。





それならお前はもう、要らないよ。


























「俺に抱かれて、壊れちゃえばいい」






俺たちはあまりにもいすぎた。





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