何気ない休日の一場面でした




ある休日のこと。
いつものように目が覚めて、いつものように身体を起こす。
それから真っ直ぐ洗面所に向かい、顔を洗ってすっきりしてからリビングへ進む。
ここで夏ならば冷房、冬ならば暖房をつけるのだが、今は春だからどちらもつけない。
電気だけをつけて冷蔵庫へ歩み寄り、朝食について考え始める。
だいたいこの辺りで総司が起きてくるのだが。

「にゃじめくん、おはよう」

――やはり、起きてきた。
明るい声をあげながら足元に擦り寄ってきた総司に、同じ挨拶を返す。
身を屈めて頭を撫でやれば、ごろごろと喉の鳴る音がした。
漆黒の尻尾がゆらゆらと揺れる。
彼の分も朝食を用意しようと再び考えを巡らせる。
普通の猫とはちょっと違う総司は、案外どんなものでも食べられる。
余程脂っこいものでなければ、なんでも口にするのだ。
自分と同じものを食べたがるということもあるが。
まあそれも可愛らしい一面だからよしとしている。
それに総司ももう一歳くらいになる。
人間でいう二十歳くらいになるのだから、何を食べても平気か否かくらい判断できるだろう。

「総司、目玉焼き食べるか?」

「目玉焼き?…にゃ、食べる。牛乳ある?」

「それは大丈夫だ、安心しろ」

「にゃあ」

短いやりとりの後、メニューが決まって料理を始めることにする。
総司には目玉焼きと牛乳。
自分も目玉焼きを作るが、それに加えてボイルしたソーセージと味噌汁。
つまりはいつも通りだ。
朝食などそんなものでいい。時々変化があれば。
手早く作り上げていく自分の傍らで、総司が微かに鼻歌を口ずさみながら待機している。
暇そうなので、彼自身の牛乳を自ら用意するように言った。
それくらいならば猫の総司にもできるだろう。
総司は期待通りに頷いてキッチン台伝いに冷蔵庫へ近づき、力の限り扉を開く。
そして500mlの牛乳パックを取り出して一旦冷蔵庫を閉じる。
自分はコンロで味噌汁を作っていた。
だからまな板を退ければスペースがある。
片手で牛乳パックを持ち、もう片手でやや乱暴にまな板を退けてそれを置く。
次いでコップを用意し、器用に牛乳を注ぐ。
身体が小さい故に一苦労のようだが、上出来だ。
満足そうな総司がこちらを見つめてくる。

「ねえ一くん、下ろしてもらっていい?」

さすがに高いキッチン台から自力で降りることまではできないらしい。
仕方がないと一度おたまから手を離し、牛乳の入ったコップを持つ総司を下ろしてやった。
すると小走りでテーブルへと向かっていく。
牛乳を零してしまわないようにそっとコップを置いている。
仕草が一つ一つ可愛らしいものだ。
さて自分も仕上げてしまおうとお椀を用意したり茶碗を出したりしていると。
総司がまたこちらへ戻ってきて見上げてきた。
一緒に両手が伸ばされている。

「…総司?」

不思議に思って名前を呼びかければ、総司は得意げな表情でさらに両手を伸ばす。
何かがほしいのだろうか、と思った矢先に。

「ほら、箸とかコップとかちょうだいにゃ。僕が持っていってあげる」

そうせがんできた。
ああなるほど手伝いがしたいのか。
有難く彼の好意に甘えることにした。
自分がいつも使っている箸とコップを手渡し、出してきた茶碗に白飯を入れる。
また自分の元へと戻ってきた総司に、それを渡して今度はお椀に味噌汁を。
そればかりは自分がテーブルまで運んだが。
総司の分の目玉焼きを彼自身に運ばせ、最後におかずと茶を持ってテーブルについた。
先に「いただきます」という声を聞いてから同じ言葉を繰り返す。
一日の始まりでもある朝食の時間が始まった。
急ぐ必要はないので口に運んだ一口を味わいながら箸を進めていく。
隣にいる総司も、目玉焼きの黄身に苦戦しつつのんびりと食べている。
こういう時間はのどかで幸せだと思う。
決して騒がしい訳ではないが、独りではない食卓。
寂しさなど微塵も感じない。
やがて食事が終わり、食器を一緒に運んで片づけて。
普段通りの休日を楽しみ始める。
まず午前中は読書がしたかった。
なので大学の荷物に埋もれた本を引っ張り出し、ソファに腰かけて読みだす。
すると総司は大抵、すぐ脇で毛糸玉と戯れ始めるか本を覗き見しようとしだすのだ。
今日は前者らしい。
なんの音もないとつまらないので、聞き流すようにテレビを小さい音でつけっぱなしにする。
聞こえてくるニュースやコマーシャルに時々顔をあげながら、着々とページを進めていく。

























◇   ◇   ◇










斎藤が朝食後にすぐ読書を始めてしまったから、一人で毛糸玉と戯れることにした。
だがいつの間にか意識が毛糸玉ではなくてテレビに向いていたようだ。
ラーメンとかいうものの美味しい店がどうのだとか、有名人とやらの私生活だとか。
興味の欠片もないはずの話題を、ついつい眺め見ていたらしい。
テレビのすぐ横に置いてある時計を見やる。
最近覚えた時計の読み方が間違っていなければ、もうすぐ十一時だ。
読書が大好きだと知っているから黙っていたのだが、一人で遊ぶのはもうつまらない。
せめてお昼まで相手をしてもらおうかと思い、ソファに座る斎藤の方を振り返った。
――が。

「――……、…」

分厚い本を手に持ったまま、大事な飼い主は眠ってしまっていた。
思わずポカンとした顔で彼を見つめてしまう。
まさか寝ているとは思わなかった。
いや、これまでに何度かあったけれど。

「僕にはソファで寝るにゃって言うくせに……もう」

ついつい苦笑を洩らし、転がし遊んでいた毛糸玉を放って押し入れに向かう。
わざと開けられた小さな隙間から入り込み、自分でも運べるようなブランケットを引っ張り出した。
それをしっかりと握りしめて斎藤の元へと引き返す。
軽々とソファへ飛び乗り、時間をかけながらも丁寧にブランケットをかけてやった。
起こしてしまわないようにそっと飛び降りる。
やたらと達成感があった。
お昼まで少ししかないが、寝かせておこう。
ついでにテレビの音量をさらに下げておく。
リモコンの操作ならもうバッチリだ。
間違って音量を上げてしまうことはない。

「……僕も寝ようかなあ」

やれることはやった。
一人で起きていても退屈だから、一緒に寝てしまおうか。
考えついたら悩むことはほとんどない。
斎藤の足元で身体を丸めながら眠りについた。



この後一人と一匹が目覚めたのは、昼食の時間を通り越しておやつの時間だったという。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -