猫のようでいて人間の生き物
いつの頃からだったろう。 振り返った先に珍しい生き物がいる、ということが増えたのは。 それは二十センチくらいの大きさで基本は二本足。 全力疾走する時は四本足。 漆黒の耳と尻尾を持ち、現代では見かけることの少ない着物姿。 ここまで説明をすれば誰もが不審がる。 当然のことだと自分でも思う。 …が、実際に存在していてよく後をついてくるのだから仕方ない。 正直、変なものに好かれたと思った。 「――ごめん一くん、結局どういう奴なのかオレには想像つかないんだけど」 喫茶店内にて向かい合わせに座っている、同じ大学の友人である藤堂が困ったように笑いながら言った。 先に述べた生き物について彼に話していたのだ。 しかし元々口下手なのが災いして上手く伝わっていないらしい。 これ以上どう説明していいのかわからずに顔をしかめる。 手元にあった紅茶を一口啜り。 「実際に見てもらうのが一番早い。ついてきてくれないか」 そう告げてから残りの紅茶を飲みきって席を立つ。 戸惑う藤堂の声に気づかないふりをして喫茶店を出た。 少し経ってから慌てた様子で藤堂も出てくる。 彼が何かを言う前に、ここから一番近い公園へと歩き出す。 おそらくまたその珍しくもおかしな生き物に会えると確信して。 辿り着いた公園のベンチで藤堂と並んで腰かけ、待つこと十数分。 "それ"は現れたらしい。 らしい、というのはまだこちらから姿が見えないからだ。 だが気配はある。 自分の隣に別の人間がいることに、姿を見せるのを躊躇ってでもいるのだろうか。 呼びかけることも動くこともせず、ただひたすら待つ。 横で藤堂が退屈そうに文句を並べていたが、全て受け流した。 さらに待つこと数分。 おそるおそるといった感じで"それ"が姿を見せた。 ここで少し説明を忘れていたことを思い出す。 "それ"を一言で言い表せば半獣であり、ほとんどは人間である。 小さな人間に猫の耳と尻尾がくっついているような感じだ。 髪はさらさらそうで、栗色。 「もしかして、あれ?」 少し呆けた様子で隣の藤堂が問いかけてくる。 ちらりと彼を見やれば姿を見せた"それ"に向けて指差していた。 その手を半ば無理矢理下ろさせ、視線を"それ"に戻す。 「どうしてかは知らないが、こうして俺の前に姿を見せる。……あれはなんだと思う?」 「何って…一応猫なんじゃねーの?」 二人揃って不安そうにしている猫と仮称した生き物を観察する。 試しに手招いてみると、怖がらせてしまったらしく後退りしてしまう。 「よく後をつけられるっつっても、懐いてる訳じゃないんだ」 様子を見ていた藤堂は失笑しながら呟く。 こうして向かい合ったのは初めてだ、と悔し紛れに言い返す。 心のどこかで寄ってきてくれるのではないかと思っていた自分が恥ずかしかった。 不意に「にゃあ」とほとんど人間の姿をした猫が小さな声で鳴く。 そして逃げるように去っていってしまった。 「……不思議な生き物がいるもんだなー」 藤堂が感想のようなことを呟く。 彼の意見には大いに同意した。 完全に気配が失われてからつき合わせた礼を藤堂に述べ、帰路についた。 しかしこの時の自分は予想もしていなかった。 やがてあの生き物を、自分が飼うことになると…… |