想っていたのはお前よりも先で




自分は珍しく悩んでいた。
これまで仕事や新選組内での問題などで散々頭を悩ませてはきたが…今回ばかりは違う。
いや、これまでもその人物について困ったことならある。
沖田の真意がわからない行動について。

(…なんなんだ)

今は昼食を終えたばかりなのだが、今日一日だけでどれだけ同じ問いを自らに投げかけたことだろう。
頭から沖田の姿が浮かび続けて離れない。
そして繰り返されるあの言葉。
僅かな灯りしかない薄暗がりの中で、まるで日常会話の一つのように沖田が言ったもの。
好きです、という単純かつ明快な四文字。
しかしそれが逆にわからなかった。
相手が沖田だからこそわからない。
昔からそうだったように人をからかうためだけの冗談なら、受け流す。
けれども沖田の声にそんな響きは感じられなかった。
ならばなんだというのか。

(ああ、くそったれが…!)

わからない、ということが腹立たしい。
何をこれほどまでに悩んでやらなくてはならないのか。
一度考えることを諦めて仕事を再開する。
明日までに仕上げなければならない書類が山のようにあるのだ。
近藤や山南に相談して決めたいこともある。
よく考えてみれば、仕事以外のことを考えている暇などなかった。
思わず舌打ちをして筆を握り、喉の渇きが気になって千鶴を呼ぶ。
一目見ることもなく茶の用意を頼むと、しばらくして茶を入れてきた千鶴が控えめにこう言った。

「…あの、土方さん…あまり無理はなさらないでくださいね?」

言うだけ言った彼女は、自分が何かを言う前に去っていってしまった。
人の気も知らずに、とため息をこぼす。

(俺だって好きで悩んでるんじゃねぇよ…)

そう心の中で愚痴る。
勢いで走らせていた筆が、止まった。
再び沖田の姿が浮かんでしまい、またもやあの自問を始めてしまう。
こうまで思考を誰か一人のことだけに使ったのは初めてだ。
そんな自分が意外であり、またそうさせてしまう沖田がすごいと、ある意味で思う。
もしもあの「好き」という言葉が、真実だとしたら?
自分はどう答えるだろうか。
沖田を、どう思っているのだろう。
完全に仕事を中断し、筆を置いて腕を組む。
空いている襖の隙間から少し雲の多い空を見つめた。
以前、思いつくままに句集に書きとめた句を思い出した。


知れば迷ひ 知なければ迷はぬ 恋の道





確かあれは没にした。
鬼副長と平隊士から恐れられる自分が、恋などと…と後から可笑しくなったため。
だが今まさにその状態だと心のどこかで思う。
自分の気持ちに迷うことはない。
沖田が知らないうちから、ずっと気にかけていた。
だからあの句を書き、実らぬ恋だと塗り潰した。

(…なのに総司の奴、あんなあっさりと言いやがって――)

想いを寄せていたのはきっと自分が先だ。
それなのにその想いを告げるのが後になろうとは。

(いや、まだあの言葉が本当かどうかわかっちゃいねえ)

空を、小鳥が数羽の群れをなして飛んでいく。
本人に直接聞きに行ってやる、と腰を上げた。
自室を出てすぐに見かけた斎藤に沖田の居場所を聞けば、道場で永倉と稽古をしていると。
礼を告げて斎藤と別れ、一度大きく息を吸い込む。
意を決して、道場へ向かった。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -