鍵を失った扉が現れた瞬間だった




いつからか見続けている夢を、今日も見た。
そしてその夢を繰り返し見ているうち、わかってきたことがある。
寺に立ちつくすのはやはり自分で。
周りに誰もいないのではなく、見ていなかったということ。
覚えていないだけで、そこには斎藤や土方…他にもたくさんの人がいるはず。
全て大切な仲間、だった。

(でも…なんの仲間なんだろう)

朝早く起きて、ぼんやりと天井や窓の外を見ながら考えを巡らせた。
夢の中の自分が現実の自分ではないと思っている。
あくまで他人事のように記憶を探る。
お伽話を夢に見ているような心地。
だけど、なぜか。
もう少しで大切な何かを思い出せるような気がして。

(――ダメだ…肝心な部分が思い出せない)

いつも途中で霧がかかったように見えなくなっていく。
夢の内容を思い出しているだけなのに、まるで過去を思い出そうとしているかのような――










不意に、何かが振動する音が聞こえてきてテーブルへと目を向ける。
目を向けた先で携帯が着信を知らせていた。
手を伸ばしてそれを取り、画面を見れば「斎藤」という文字が表示されていて。
すぐに受話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

「もしもし?」

『――総司』

機械の向こうから届いた声は、どこかほっとしたような響きを感じさせた。
夢のことを考えていたせいなのか、先日図書館で聞いた話のせいなのかは定かではないが。
どうしたの、と問いかけるとしばらくしてから短い相槌が返ってきて。

『…今日は何か予定があるか?』

と、そう問いかけてきた。
今日は日曜日だが、特にこれといった予定はない。
一日中空いていると答えようとして咳き込む。
瞬間、嫌な予感がした。
携帯の向こうの斎藤もまたそれを感じ取ったようで、訝しげな声で名前を呼ばれる。
次第に咳が酷くなって息が苦しくなり、持っていた携帯を落とす。
声を荒げて斎藤が何度も名前を呼んでくるが、答える余裕などない。
やがて通話が切れ、ほどなくして自分の意識も失われた。






























◇   ◇   ◇





次に目が覚めた時、傍らに斎藤がいた。
どうやって家に入ってきたのかわからない。
聞けば窓が開いていたと説明された。
近くに置いてあった携帯で時間を確認すると、あれから半日が過ぎている。
午後八時七分。
しかし自分はもっと長い時間を眠っていたように感じていた。
…なぜなら。

「――…ねえ、一くん」

自分が目覚めたことによって安堵の表情を浮かべていた斎藤に声をかける。
彼は飲み物をもらうと言って部屋を出ようとしていたが、名前を呼ばれて足を止めた。
振り返り、不思議そうな顔で言葉を待つ。

「…みんな、知ってたんだね」

遠回しにそう呟く。
だが斎藤は何かを察したようで、顔をしかめてこちらに近寄ってくる。

「何をだ」

「何を?――わかってるくせに」

厳しい口調の斎藤に、負けじと鋭い言い方をして返す。
キッと睨むようにして彼を見つめる。
彼も目を細めてこちらを見つめていた。
おそらく先の言葉を紡がなくとも彼にはわかっているのだろう。
なんとなくそれが悔しいが、そんなことを言っている場合ではない。

「新選組三番組組長、斎藤一。……君は、生まれ変わっても土方さんの犬なんだ」

嫌味をたっぷりと込めて彼にぶつける。
斎藤は大きくため息をついた。
そして諦めたように口を開く。

「…思い出したのか?」

「少しだけね」

短い問いかけに同じく短く返し、ベッドから離れて立ち上がる。
窓に歩み寄ってカーテンを閉めながら、斎藤の脇を通り過ぎた。

「――総司、これだけはわかっていてほしい」

部屋を出る間際、背中に声をかけられて立ち止まる。

「俺や土方さん…他のみんなも、総司に記憶を取り戻してほしくないと思っていた訳ではない。
忘れていたままでいられるのなら、その方がいいと考えたまでのことだと」

続けられた言葉は、言われなくともなんとなく理解していたものだった。
理由など知ろうとは思わない。
だが斎藤や土方なら考えそうなことだ。
空腹を感じていたため、今度こそ部屋を出る。
すぐに斎藤が後を追ってこないことを、不思議にも思わずに。





「……ただ一人…風間千景を除いては」





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