貴方は何処にいますか






最近になって時々見る夢。
それはとても悲しくて寂しいもので、起きると必ず泣いていた。
内容は、と聞かれて最初は答えられなかった。
起きた時にはよく覚えていないというのもあったが、だからと言ってぼんやりとしたイメージを口にしようとしただけで胸が締めつけられたからだ。
言葉にした瞬間に泣き出してしまいそうで、それが恥ずかしくて何も言えなくなる。
けれど、誰かに聞いてほしいという衝動はずっとある。でも。
…言いたいけど言えないという気持ちの悪いまま、しばらく時が過ぎていった。

月日が流れると次第に夢の内容を覚えていられるようになっていったが、同時にその夢がどういうものなのかを知ってしまった。





――…そう、あれは戦国の世に生きていた頃の"自分"。
すなわち前世の記憶、だった。
しかも夢の質は悪いもので、一番思い出したくない"あの日"のことばかりを夢に見る。自分にとっての全てを失った、あの日を。
初めて夢を見るようになってから数ヶ月。
今となってはまるで昨日体験したことのように当時の感覚がはっきりと残っていて、言いようのない悲しみを与えてくるのだ。
だから、わからなくなる。
今を生きている自分と、戦国の世を駆けた自分が。
果たして、どこからが"今"の自分なのだろうか…?















「――…政宗殿!!」

名前を間近で呼ばれてはっとする。
急に現実に戻されて酷く驚いた。
――いや、考えが現実から離れていたことにすら気づいていなかった。
心配そうな顔といつもと変わらずにいる顔の二つに見つめられて、慌てて手元のノートと教科書へ視線を戻す。
そういえば、テスト勉強の途中だった。
机の上の状況を見て、それまでやっていた教科が終わっていることを思い出す。

「S…Sorry, 次は古典だったよな」

「ざーんねん、化学だよ。――というか、どうしたの伊達ちゃん?最近考えごとしてることが多いみたいだけど」

曖昧な記憶で次の教科の一式を取り出そうとして声をかけられる。
いつもと変わらないこの軽々しい口調は、同じクラスの佐助だ。
問われて、少しドキリとする。
周りの人にわかってしまうほど、考えごとばかりしていただろうか。

「ぬ、悩みごとでござるか?某でよければいつでも相談に乗りまするぞ!」

返答に困っていると、佐助の横に座っていた隣のクラスの幸村から明るくそう言われた。
彼なりの気遣いを感じ取る。
とりあえず古典のではなくて化学の教科書やノートを取り出して机に置くと、口を開く。

「Thanks. …けど、Don't worry. 別にたいしたことじゃねぇ」

苦笑して、なんでもないのだと二人に告げる。
夢の話をしたところで信じてもらえないのはわかっていた。
これがもし、自分が明かされる側だとしたら、とてもではないが信じられない。
…だから、この二人に話すのもためらわれた。
心配するなと言ったあとで、もう学校ではあの夢のことを考えないようにしようと決める。
今みたいに問われた時、どう答えていいのかわからないから。

「ふーん?まぁ、伊達ちゃんがそう言うならいいけどね」

間をおいて、やや納得しきれてないような佐助の声が届いた。
幸村の方はすでに興味をなくしてノートへと目を移している。
ほっと胸を撫で下ろして勉強を再開しようと教科書を手に取った。
今だけは夢のことを頭から追いやらなければ。


(――…どうあっても"俺"は"俺"だ。それ以外のなにものでも、ねぇ…)


もう過ぎ去ってしまった時に縛られたくはない。
けれど考えてしまうのだ。
あの日失ってしまった"彼"が…同じ"今"という時を生きてどこかにいるのではないか、と。

























(小十郎…お前は今、どこにいる……?)





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初出:2009/09/16





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