2週目歌仙

色を楽しみ、香を食い、あっさりした淡味を深く味わう、という日本料理の特徴をいかすには、三拍子揃った海藻が非常に適していると僕は思う。

焼きたてのご飯の上にほんのちょっと醤油をつけた海苔を乗せる。ほのかな磯の香り、香ばしい味わい、日本人のDNAが反応している。

日本料理は気候風土の関係から、米を中心として魚介類、野菜や海草、大豆とその加工品が多く用いられている。
四季の季節感と新鮮な素材の持ち味を生かした淡白な味、包丁さばきといわれる繊細なワザ、形や色彩の美しさを重んじる盛り付け、器の多様性と芸術性が特徴で、目で楽しむ料理といわれている。

蛤のしん薯の白に人参の朱と木の実の緑が添えられて、目を楽しませる。料理もデザインが大事、このキメ細やかさは洋食にはない。

和食は魚でも野菜でも、素材の新鮮さを生かす自然さと、味の淡泊さを楽しむ繊細さがあるのだ。

新しい食堂でも妖精たちの腕が健在なうちは、厨房にたつ気が微塵も起きない僕である。

隣の小夜も和食を食べていた。洋食を食べるやつもいるが、僕はうすたあそうすみたいな濃い味はどうも好きになれないでいる。

「おはよう、和泉守兼定。隣いいか?」

そんなことを考えながら朝食を食べていると主が向こうのテーブルにやってきた。本殿にも厨房や食事処はあるのだが2人だけだと寂しいのか、物吉貞宗と一緒である。物吉貞宗はお茶を取りに行っていて、主は場所取りをするつもりのようだ。

「ちょーっと待った」

「ん?どうした。誰か待ち合わせか?」

「違う、違う。それだ、和泉守兼定」

「うん?」

「だーかーら、なんでオレは和泉守兼定なんだよ、あんた」

「いきなりどうした。顕現してからずっとそうだろ」

「いや、だってよー......之定はいいぜ?初期刀だし、元1番隊長様だし、本丸の運営にだって関わってるし。評価の高い二代目兼定が打った刀だし。之定以外はオレみたいに呼んでたから、まあそんなもんかと思ってたんだよ。新しい1番隊長さまは物吉貞宗呼びだし?」

「それで?」

「だから、なんでわかんねーかな!なんで新入りのくせに長谷部はへし切長谷部じゃなくて長谷部なんだよ」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことかじゃないぜ、主。之定以外にそのまま呼ばない刀剣男士は長谷部が二人目だ。みんなそわそわしてるぜ?」

「そんなに変か?たしかに75振りもいるから早く名前と顔を一致させるために基本はそのまま呼んでるが」

「だろう!」

「いやだって、本人が自己申告で前の主の狼藉からきてるから呼ぶなっていってる以上、わざわざ呼んだら嫌がらせにしかならんだろう」

「そういう理由?え、じゃあオレが和泉守兼定は嫌だっていったらオレも呼んでくれるのか?」

「なんだ、嫌だったのか?それならそうと早く言え」

「お、おおう......なんだよ、マジでその程度の理由だったのかよ......心配して損した」

「なんかしらんが不快な思いをさせたみたいで悪かったな。で、なんて呼べばいい?和泉守とかか?」

「えーっとだな......」

「なんだ、嫌だなとは思ってたが呼び方変えてくれるとは思わなかったのか?俺はそこまで薄情じゃないぞ」

「そういわれても和泉守兼定ってそもそも刀工だしな......之定みたいに前の主に名前を賜ったわけでもねえし......ううん......」

「之定はたしか2代目のことだったな」

「11代目の和泉守兼定に異名があるなんて聞いたことねえしな......」

「じゃあ11代目か?」

「11代目」

「お前は歌仙を之定と呼んでるだろう。じゃあ、11代目と呼ばれるのもかまわんのじゃないのか?」

「11代目か、まあ意味合いは一緒だが......11代目か」

「お前が嫌じゃないならしばらくそう呼ぶが」

「そうだな、順番的に主にとって兼定は之定のことだし、わざわざ呼んでも違和感しかないよな。俺が国広といやあ堀川国広のことだが、主にとっては何人もいる。いいぜ、しばらくそう呼んでくれ。慣れなかったらやっぱなしってことで」

「ああ、わかった」

「よおーし!聞いてたか、之定!そう言うわけだからよろしくな」

いきなり話題を振られた僕は目を丸くした。

「なんだい、なんの脈略もなく。朝っぱらから落ち着いてご飯も食べられないのか、兼定の後代は」

「んだと」

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえているよ。ただでさえ食堂は声がよく通るのだから」

「だって、オレは之定って呼んでるのに、お前も主と同じでそのままじゃねーか。不公平だろ」

「なにをいってるんだ」

君が言い出したことじゃないか、といいかけた言葉は土壇場でしまわれた。あぶない、あぶない。この本丸の和泉守兼定に言われたわけじゃなかった。

オレの方が先に顕現したんだから、オレの方が刀剣男士としては先輩だろ!なら和泉守兼定って名はこの本丸ではオレの事なんだから、いくら之定といえどもオレのことら和泉守兼定って呼ぶべきだ。

脳裏にかつての和泉守兼定がよぎる。

最初と最後に顕現するタイミングが違うだけでこれだけいうことが違うんだから面白いものだ。

「なにわらってんだよ」

「いや、すまない、口を開けて笑っては失礼だな......くくく、ふふふっ、あははっ!」

「だからなにわらってんだよ、てめ!」

「なんて子供じみた嫉妬だとおもっ......ふふふっ。ダメだな、僕がうるさいと世話ないな。わかった、わかった。わかったから座ってくれ、11代目。今の君を見ていると笑いが止まらなくなってしまう」

「勝手に笑い始めたのはあんただろー!?」

「ふふふっ」

「うるさいよ、歌仙」

小夜にジト目で睨まれたがすっかりツボに入ってしまった僕は笑いが止められないのだった。


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