診療棟を出て廊下を真っ直ぐ進むと見えてくる突き当たりの建物。僕達刀剣男士の主な生活拠点となる宿坊と旅館をふたつたして割ったような外観の宿舎棟だとこんのすけが教えてくれた。この建物を突き進んでいくと主の拠点である本殿に続いているそうだ。
今までは本殿の裏側にある主の生活拠点である民家のような建物にある部屋で部隊ごとに共同生活をしていた訳だが、本格的に本殿側の民家には近侍と主しか住まなくなるということだろう。
僕達は一度部隊の部屋に戻り、私物を集めて掃除をした。そしてどこの部屋にするか、近侍の仕事をしていた通りがかりの物吉貞宗を捕まえて部屋割りを決めることにした。
「とはいえさ、アタシ達が1番隊なのは池田屋攻略までは変わらない訳だろう?活動すんのも一緒なわけだし、バラバラになるのもめんどくさいよねえ。新入り来る前にアタシらでどっかの部屋固めてとっちまおう。どうだい、隊長さま」
「主様は僕達に一任してくださるそうなので、大丈夫だと思います。でも、厚さんや前田さんはご兄弟が今回ようやく顕現されますよね?距離が遠くなるかもしれませんが、構いませんか?」
「俺は別にいいぜー、本丸ん中にいるのは変わらねえんだからさ。会おうと思えばいつでも会えるし」
「僕も構いません。主君の手を煩わせる訳にはいきませんから」
「そうですか、なら大丈夫ですね。ええと部屋割りは僕と次郎さん、歌仙さんと小夜さん、厚さんと前田さん。お部屋はどうしましょうか」
「本殿に近い部屋でいいんじゃないかい?物吉貞宗、きみは本殿にいる時の方が多いとはいえ、近侍でもある訳だ。なにかあれば主のところに一番にかけつけられるところの方がいいと僕は思うね」
「アタシはどこでもいいけどさ、外に早く出られる方が酒取りに行きやすいよねえ。今回から中庭通らなきゃ食堂に行けなくなっちまったから、歌仙に賛成だよ」
「共同キッチンはついてると聞いてますけど」
「やだよー、冷蔵庫ちっさいんだもんあそこのやつ。妖精さんたちに頼めばすぐだし」
「僕も主君のところにいち早く駆けつけられる部屋がいいです。僕達は1番隊な訳ですから」
「だよなー。兄弟たちには悪いけど、みんなのためにここまで本丸デカくしたんだから、先にいい部屋決めてもいいと思うぜ」
僕達の意見を取りまとめた物吉貞宗がさしだしてきた電子端末には、新しい宿舎棟の内部構造が表示されていた。本殿に続く通路は1階と2階にあり、どちらでもいいそうだ。
「あ、でも2階の方は主君の部屋、近侍の部屋と通じています。2階の方がいいのでは?」
「なら2階の一番奥の、3部屋だねえ。どうする?中庭がみえるか、漆喰の壁が見えるかの違いだけど」
「僕は中庭が見えた方がいいな、1番隊の仕事がない今は久しぶりに歌が詠みたくてね。題材を探して本丸を歩き回っているから、風景がよく見える方がいい」
「僕はどちらでも......本殿に近い部屋だし......」
「アタシはどっちでもいいけど、物吉のこと考えるなら歌仙に相談もあるだろうし真向かいでいいんじゃない?」
「ああ、そうだね。それもあるか」
「ありがとうございます、次郎さん。歌仙さん。よろしくお願いします」
「うーん、じゃあ俺達はどっちも好きな方選べるんだ!?迷うな、どうする?」
「そうですね......僕達の部屋はどのみち真向かいも隣も別の隊員になりますから、後からでもいいのでは?」
「あー、様子見ってことか。なあなあ、予約ってできる?」
「希望者が重なった場合は、話し合いか抽選にするか決めなくてはいけないので大丈夫ですよ」
「よし、じゃあ歌仙たちの隣か、物吉たちの隣だな!」
「あ、2番隊のみなさん、僕達が登録したことに気づいて予約いれてきましたね。1階の本殿側が全部埋まりました」
「あっぶなかったねー、ぼーっとしてたら1階も2階もあやうくいい部屋とられるとこだったよ」
「3番隊と4番隊のみなさんは、新入りさんたちが激しく入れ替わることも考えてか、岩融さんと巴形薙刀さんは3階みたいですね。隊員さんたちはバラバラみたいです」
「あ、秋田たち登録したの物吉たち側だ。こっちにするか?」
「そうですね、その方が部屋も近い」
「決まりですね、ありがとうございます。僕、このまま主様のところに1度戻りますね」
「忙しいところ捕まえて悪かったね。きみの荷物どうしようか、運んだ方がいいかい?」
「あ、大丈夫です!僕、ほとんどの荷物近侍部屋に移動させてありますから!みなさんはお先にどうぞ!」
物吉貞宗はそういって慌ただしく去っていった。僕達は私物をかかえて本殿側の通路から宿舎棟に入ったのだった。
真新しい旅館のような宿舎棟は天井が高い。次郎太刀が頭をぶつけないですむと喜んでいる。そして僕は中庭と本殿、五重塔がよく見える部屋に小夜と入ったのだった。
「これはこれは......想像以上だな」
「2人でも広い......もったいないくらい......」
「頑張れば3人でも行けそうな広さだ」
僕は障子を開けた。
「これはいいな、本殿と五重塔がよく見える。夕方になると尚のこと綺麗だろう。庭の景色がよくみえる」
「......ほんとだ。主が1番好きだっていってる景色、よく見えるね」
「そうだね」
僕達は窓を開けたまま、部屋を一望した。
「一応聞くが間仕切りは?」
「いい......歌仙は?」
「僕も小夜ならいいさ」
「うん」
「さて、私物を片付けてしまおうか。今夜は新入りを歓迎するのに妖精たちが総動員だ。僕達も手伝わなくてはね」
「それもあるけど、まだ本丸の中ちゃんとみてないし、迷子になったらかっこ悪い」
「1番隊が迷子か、たしかに笑えないね」
そんな軽口を叩きながら部屋の収納や宛てがわれているものがちゃんと使われているか検分していた僕達はほぼ同時に無言になった。そして目を合わせる。
「ふたつになったけど、返す?」
「......いや、きっとどこの部屋に誰が入るかわからないから全ての部屋に置いてあるはずだ」
「宿舎棟120振り分あるのに?」
「さすがに刀装備まではないか、よかった」
「主、大丈夫なの?」
「僕が聞きたいくらいだ。極のお守りだってタダではないんだぞ」
「歌仙、部屋の片付けは僕がやっておく。主のところに行くんでしょ?行ってきたら?」
「ああ、ありがとう、小夜。すぐ戻る」
僕は障子を閉めた。
「......今夜新入りの歓迎会だけど、そんなにすぐ終わる?」