2週目歌仙
特別任務を終えた僕達を待っていたのは、一回りも二回りも敷地が広くなったことを示すほど高い壁に囲われている本丸の立派な門構えだった。

「ここが僕達の本丸だって?任務から帰ってくるまでのあいだに随分と様変わりしたものだね。山の中の古寺が総本山並の規模になっているじゃないか」

「主様から聞いていましたが、本当に目にすると壮観ですね!」

「おー、本丸の工事がやっと終わったんだね!長いことかかったじゃないか」

「これで兄弟たちをいつ迎えてもいい環境が整ったわけですね」

「はやく池田屋が攻略できるようにがんばらねーといけねえなあ」

「やっと本丸の中覚えたのにな......また迷子になりそう......」

それぞれ考えることはバラバラだが、はやく帰りたいのはみんな同じだ。花火玉を積んだ滑車は兵士たちによって別の入口に運ばれていき、僕達は門番たちに促されて正面の門からそのまま敷地内に入ることができた。

「おかえりなさいませ、第一部隊のみなさま!主さまが診療棟でお待ちです。こんのすけがご案内いたしますのでついてきてください!」

「わかりました!お出迎えありがとうございます、こんのすけ。でも先に報告したとおり、みなさん軽傷すらおわなかったんですけど......。刀装が若干はげたくらいで」

「承知しております。それでも全くの無傷ではないだろうと主さまが仰せですのでお越しくださいませ」

「あいかわらずの過保護だねぇ、うちの主は。池田屋攻略したが最後、もう二度と立ち入らないんじゃないかい?これじゃあ」

ちょっとした笑いが起きた。

おそらく報告したとおりの怪我しかおっていないのか、被害がないのか自分の目で確かめないと落ち着かないからだろうなと思う。僕達は出陣している間、主とは念話や電子端末越しでしか会話をすることが出来ない。誤魔化そうと思えばいくらでもできる。

前科者がこの部隊にいるから尚更だろうなとぼんやり思った。

馬たちは今日の内番をしている短刀たちが連れて行ってくれて、僕達はすぐ近くに建てられている和風の建築物の中に通された。どうやら手当部屋を62振りがいつどんな活動をしても大丈夫な規模まで拡充したらとんでもない広さになってしまったらしい、無理もないが。今までは開業医ひとりが回している個人病院くらいの規模だったのに、今は小さな町の診療所ほどの規模になっていた。

「おかえり、無事に帰って来れたみたいだな。お疲れ様」

「はい、ただいま戻りました!主様、ボク幸運を運んできましたよー!あとで鍛刀部屋にいきましょう」

「お、花火玉以外にもなんか持って帰って来てくれたのか?わかった、期待しとく。とりあえず刀装とか見せてくれ」

僕達は主に言われていつもの様に万全の体制になるまで治療部屋に滞在することになった。ついでに今回の特別任務についてわかったことを報告してしまうことにする。これもいつものことだ。主は誰かしら帰ってきたと報告を受けたら手当部屋にいる。だから執務室にも手当部屋にもいないと驚くことになるのだ。

「なるほど......ランクアップして連結が終わってれば余裕か......。っつーことはあれだな、新入りがこれから一気に48振りも来るわけだし、薙刀たちの育成が終わってからの初任務に向いてるかもしれんな」

「ということは、第一部隊は当初の予定通り池田屋を攻略するということですか?」

「いや、演武や出陣でもう少し実践を積んでからのがいいだろ、そう急ぐこともないしな。今回はかなり難易度が低いとわかったのはいいが、刀装の消耗が思ったより大きい。ほかのエリアあたりで修行した方が......いや、それなら今回の特別任務のがいいな。刀装は今回の方が消耗は少ないようだし」

「みんなで花火玉集めをするということですか?」

「そうだな、報酬が弾んでるし。第一部隊で先に調査を終えてしまおう。そして他の部隊も投入して花火玉を回収する。2万発集める頃にはみんなそれなりに強くはなってるだろう。そのための事前調査も兼ねることになるな」

「わかりました!引き続き調査をがんばります!」

「それが夜戦の連携にも繋がってくると思うしな、無駄にはならない」

「はい!」

「そういう訳だから、しばらくは演武のあとに特別任務にあたることになる。よろしく頼む」

僕達はうなずいたのだった。

「でだ、となるといよいよ48振りを顕現させることになる訳だが......時の政府が今回の工事をすべての本丸に行ったらしいんだが、120振りが余裕で生活できる広さの本丸が出来上がったわけだ。おれは24振りの本丸しか運営したことがない。だからこっからはほんとに未知の世界だ、正直手探り状態になる。色々相談させてもらうことも多くなるからよろしくな」

「じゃあ、先に提案なんだけど」

「ん?」

「ここまで本丸が広くなると主を探すのも一苦労だ。すぐに何処にいるのかわかるようにして欲しいな」

「あー、たしかにそうだな。じゃあ、すぐに調べられるように、遠征や出陣の時に使ってる端末に、俺の予定入れることにするよ。どうせなら部隊の予定も見れるようにしとくか」

「そうでございますね。刀剣男士のみなさまには端末の操作を覚えてもらう必要が出てきますが、便利になると思います。それくらいでしたら、担当課に導入を申請すればすぐかと」

「じゃあこんのすけよろしく」

「はい、わかりました」

「はいはーい、アタシからも提案!今まではほら、部隊ごとに寝る部屋決まってたじゃん?でもうちらって戦況次第で部隊編成ころころ変わるから部屋の移動がぶっちゃけめんどくさいんだよねえ。120振りも生活できるってどんな部屋だい?個室でもいけるんなら個室がいいなあって」

「見た感じだと和室二間だったから2人部屋を想定してる感じはしたな。うちにいる刀剣男士は全部で74振りになる予定だから、要相談てとこだ。襖で間仕切りして一人部屋で我慢するか、和室二間を独占するかは任せる。ただ、全部占領すんのは勘弁してくれ。来るか来ないかはしらんが、今刀剣男士は90振りいるらしいからな」

「ああ、それなら74じゃなきて75になると思うよ」

「え?ああ、さっきいってたやつの話か?」

「今回のボスを倒した後、物吉貞宗が歴史修正主義者たちの武器を探してくれてね。頼まれて鑑定したらとんでもない名刀だった。状態も良さそうだったら持ち帰ってきたんだ」

「へえー、歌仙がいうなら期待できるな。さすがは物吉貞宗、幸福を運ぶ刀だけはあるな」

「えへへ、ボクがんばっちゃいましたよー!」

「よし、わかった。それじゃあ部屋はどうするか相談しといてくれ。わりふりはあとで物吉貞宗から聞くことにする。荷物運びとかあるだろうから今日は自由行動にしていいぞ」

「主様、刀鍛部屋にいきましょう!」

「わかった、いこうか」

「はい!」

こうして僕達は物吉貞宗に手をひかれて去っていった主を見届けた。どの部屋を誰と住むことにしようか考えるまでもなく、小夜が袖を引いてきた。

「一緒の部屋にしよ、歌仙」

「おや、いいのかい?ほかの男士と親睦を深めなくても」

「別に......今はいいよ。それに」

「それに?」

「歌仙も僕との方がいいでしょ?ものすごく人見知りなんだから」

「おいおい、お小夜......いつの話をしているんだい?」

「ふはっ、聞いたかい、みんな!我らが元第一部隊長さまがものすごい人見知りだってさ!意外にも程があんじゃないか!なんだいなんだい、詳しく聞かせなよ!」

「次郎太刀、なにを笑ってるんだ。そんな昔の話!」

「昔でもないでしょ。この間だって主に......」

「やめないか!!」

僕は慌てて小夜の口を塞ぐことにしたのだった。


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