2週目歌仙
「最初こそなかなかに新鮮な体験ではあったけど、さすがに固定されるともはや内番じゃなくて担当だよな」

「本当だよ。たしかに僕はね、料理を作るのは得意だが、これは部隊長である僕の仕事ではないだろう……!だいたい近衛に畑当番までさせるとか主はなにをかんがえているんだ......。僕だけ負担が大きすぎやしないか」

「なら近衛変わってやろうか?」

「ははっ、面白い冗談だ。まさか本気でいっているんじゃないだろうね?一番隊長は近衛をやるのがうちの決まりだっていったはずだが?普通は畑当番をやるだろう?」

「一人でこれはさすがに俺も無理だって」

「やろうと思えばできるものだよ」

「......えっ、ほんとにこの広さを一人でやったことあるのかよ!?もはや懲罰の域じゃねーか」

「......懲罰だから間違ってはいないね」

「なにしたんだよ、歌仙......」

「どうしても倒せない敵がいてね、あと少しというところまで追い詰めたんだがうちの主は軽傷撤退が信条だろう?この先、刀装が意味をなさない厄介な敵が出てくるんだが、このままではいけないと嘘をついて挑んだのさ」

「あんだけ口うるさく後追いするなって止める部隊長様が?」

「あの時は僕もはやく武功を稼ぎたくて仕方なかったんだ。そして主に認めてもらいたくて仕方なかった」

ソハヤノツルキは不思議そうな顔をする。

「あんたはこの本丸の初期刀なんだろ、歌仙。なんでまたそんな無茶をする必要があったんだよ?一番隊長として相応しい采配をいつもしてるじゃねーか」

「今はそうだね、そうだとも。自信を持っていえるよ、今の僕ならば。でもあの時の僕はそうじゃなかった。主にとってもそうじゃないからね。前にも話したが主が本丸を構えるのはこれで2度目だ」

「ああ、故郷が未曾有の災禍に見舞われて消息不明になってたっていうあれだろ?」

「前の本丸の初期刀も歌仙兼定だったのさ」

「......それはまた大変だな、前の自分が敵とか」

「しかも前の僕は主の采配ミスで戦いのさなかに破壊されている。主のトラウマなんだ、あんまり茶化さないでやってくれよ」

「......あの主が?冗談だろ?刀装が想定より剥がれただけですぐ撤退命じるあの過保護すぎる主が?へえ、人って見かけによらないな」

「主はその反省から今の方針に変わったのさ。今の本丸の刀剣男士たちは幸運だと思うよ」

「......ほんとに人ってのは変わるもんなんだな。いっちゃ悪いけど前の歌仙に感謝だよ」

「まあね、否定はしないさ」

僕はクワを振り上げた。盛土の列がようやく終わろうとしている。次は主が種から育てた苗をプランターからこの盛土の列に植え替えていく作業が待っているのだ。無駄口を叩きすぎると終わるものも終わらなくなってしまう。プランターだって洗わなければならない。監査役でも気取っているのか姑じみた細さでこんのすけのチェックが入るのだ。それをクリアしないとこんのすけが主のところに畑当番が終わったと報告してくれない。

「霊格があがったのはいいけど、せっかくのステータス上昇までなくなるのはなんでだろうなあ、歌仙。人間の体ってめんどくせー」

「ほんとにそうだよ、それさえ無ければ畑当番はとっくの昔に免除なはずなんだ。3週間しか猶予がないせいで、はやくにランクアップしていく。おかげでいつまでたっても畑当番から抜け出せない」

「毎日こんだけ頑張ってんのに偵察ばっかあがるしな。主は生存あげてくれっていってんのにさあ!だいたいなんで連結で生存と偵察が上がんないんだよ、おかしいって」

「ほかの刀剣男士の霊格を取り込むんだから真っ先に生存は上がるべきだと前から僕も常々考えているところだよ。まったく、毎度の事ながら着物が台無しだ」

僕とソハヤノツルキはためいきをついた。

「霊力が満ちてるから野菜の育ちが早いのはありがたいが、毎日の作業量を考えたら地獄だな......」

「や、やっぱそこ関係あるんだ?」

「いつもの主の霊力考えたら、絶対にここまでいい野菜がこんな短期間でとれる訳がないんだ。いや、ありがたいんだけども」

「なあ、歌仙。ほんと2人でこの作業量は無謀だって。せめて担当時間を減らせないか主に提案できないかあ?」

「そうだね......さすがに僕も疲れてきたよ。そろそろ短刀の生存も上げるべきだって主に伝えてみよう」

「それいいな、短刀たちが活躍できるエリアがあるんだろ、この先?短刀たちの生存、俺たちより低いし。はやく上げるべきだよな」

プランターを盛土のあいだに、ひたすらにおいていく。あとはもう移し替えていくだけだ。そして添え木をして黒いシートをかけて......もう考えるのはやめた方がいいな、気が滅入ってきた。ここまで頑張ったのに肝心の生存じゃなくて偵察が上がるのは本当にどうかしていると思う。今回の僕の実体はどうかしているんじゃないだろうか。

だいたい偵察が低くても歴史修正主義者たちの霊力を見ればだいたいの編成が把握出来る。編成さえわかれば相手が取るであろう陣形なんて手をとるようにわかるんだから今の僕には必要ないんだが。なんて気が利かない体なんだろうか、今回の僕の実体は。

そんな不満を抱きながら僕たちが畑当番を終える頃には、すっかりあたりは暗くなり、夕暮れがまじかに迫って来ていたのだった。

「はっはっはっは!今日も畑当番だったな、2人とも!刈り入れ時が楽しみだのう!ほれ、持ち帰ってきたぞ!」

騒がしいやつらが帰ってきた。どうやら短刀たちと遠征に出ていた岩融が帰ってきたようだ。短刀たちを滑車に載せて一人でひいているあたり物凄い怪力の持ち主である。

「おやおや、あんなに急いで帰ってこなくてもいいのに。せわしないなあ」

「すげえ力持ちだなあ、岩融」

「ほんとにそうだね。さて、こんのすを呼んでこようか、ソハヤノツルキ」
 
「そうだな、ここまてやれば今日の畑当番は終わりって主に報告してくれるだろうし」

「お疲れ様」

「ほんとにな」


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bkm
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