「さあ……新たな刀を目利きしようか」
僕達の目の前には、新たな刀剣男士が顕現していた。
「いや、これ時の政府から賞与された一振だからな、歌仙」
「わかってるよ、きみの霊力じゃまず鍛刀すら無理だってことくらいはね。何年の付き合いだと思ってるんだ」
「余計なこというな、バカタレ」
僕達の軽口の応酬についていけないのか、新入りは困った顔をしたまま頬をかいた。
「えーっと、挨拶した方がいいんだよな、これ?あんたがここの主で、そちらさんが近衛してる先輩の刀剣男士でいいんだよな?」
「おう、ここの審神者をしてるんだ。よろしくな。こっちは歌仙兼定。うちの初期刀であんたが入る部隊長でもある」
「守り刀って言っても、写しだから将の器じゃないってか」
イラッとした僕は無意識のうちに本体に手をかけていた。
「それは関係ないから安心してくれ。僕は隊長を譲る気はない」
「いや任命権は俺にあるからな、歌仙」
「主」
「なんかさっきから機嫌悪いな、歌仙。どうしたお前」
「なんか俺部隊長に嫌われてんだけど主......ほんとに大丈夫なのかよ?物置生活になったりしない?」
「それもないから安心してくれ」
「本体持ったまま言わないでくれよ」
両手を上げて降参のポーズをとる。オレンジ色の髪をした青年が苦笑いした。胴の紐を緩め着崩して身に着けるというラフなスタイルが特徴的で、紋の七芒の図形は、光の字をそのまま意匠化したものを思わせる。その下には徳川葵が配されている。黒地に白抜きだ。
身長は僕と主より3センチほど高い。
「ソハヤノツルキ ウツスナリ……。
坂上宝剣の写しだ。よろしく頼むぜ」
「待ってたぜ、ソハヤノツルキ!俺の霊力じゃまずお目にかかることすら許されなかった太刀だもんな!ようこそ、本丸へ」
「へえ、いいのか?俺は坂上の宝剣そのものじゃないんだぜ?」
「そんなこというもんじゃないよ。どれにしようかなで選ばれた僕とは違ってきみは4年も前から望まれていたんだ。誇るといいよ。今の主の方針からして、初期刀の思い出補正がなかったら、きっとここにいるのは蜂須賀に決まっているんだから」
「お、おう......?なんか悪かった......」
「わかればいいんだよ」
「なんか当たりが強くないか......?」
「気のせいだよ、気のせい」
「絶対嘘だ」
「気のせい。それはそうとだね、ソハヤノツルキ。顕現したばかりのところ悪いんだけれど、うちの本丸は残りの48振りを迎えるために環境の整備が急務でね。ゆえに今行けるエリアを全て3週間以内に踏破しなければならない。いかんせん猶予がないんだ。もちろんきみにも頑張ってもらうからね」
「さ、3週間!?たったの3週間!?いや、事情はわかるぜ?顕現したときにその辺の情報は入ってきたから。しかし、そ、そりゃ大変だな......えらい本丸に顕現しちまったな......物置になる暇もないってか」
「ゆえに生存が高い連中ばかり顕現しているからね、きみと僕くらいだよ。例外は」
「......3週間でだもんな、生存の高さが大事なのはわかるぜ。あんたが初期刀なら当然だろうけど、ほんとに何で俺、こんなに大歓迎されてるんだ?」
「ソハヤノツルキが顕現可能になってから、ずっと頑張ってきたんだよ、俺。鍛刀も報酬任務も歴史修正主義者の置き土産も全部駄目だったからな」
「主の運のなさと霊力の貧相さは筋金入りだからね」
「......そんなに?なんでまた」
「俺の御先祖さんが坂上田村麻呂だからさ」
「?!?」
ソハヤノツルキは凍りついてしまった。無理もないなと僕は思う。
無銘であるが三池典太光世作と伝わる太刀、ソハヤノツルキは、まさしく主の御先祖様にあたる坂上田村麻呂の佩刀であった「ソハヤの剣」(坂上宝剣)の写しにあたるのだ。徳川家康が所持し、死後霊刀として一緒に葬られたと言われている。
時の政府の提供してくれたデータによれば、天正12年前後に織田信雄から家康に贈られたものである。家康は行光の脇差と大小でソハヤノツルキを愛刀とした。臨終の際には大坂の陣より後にも不穏な動向を見せる西国に対してソハヤノツルキの切っ先を西に向ける様に遺言したと伝わる。徳川将軍家にとってソハヤノツルキは久能山東照宮の御神体同様に扱われている。
なお本人は強い霊力を持つために長く仕舞われていたことを少々根に持っているようだ。
「とはいっても、蝦夷を討伐するために北へ遠征する過程で地元の有力な豪族の娘と婚姻関係になり、繋がりを作りながら進んでいったうちのひとつに過ぎないけどな。本家ではないさ。日本を探せば腐るほどあるだろうよ」
「いや、いや、いやいやいやそんな軽く流せるようなことじゃないだろ!?むしろなんでそんな家系なのに霊力死んでるんだよ!?」
「それは僕も不思議でならないんだけど、未だに答えは出ないんだよね」
「所詮は末裔だからな、今じゃただの人ってことだろ」
「......なんかとんでもねえところに顕現しちまったな......プレッシャーが半端ない......」
ソハヤノツルキが冷や汗を流すのを見ながら、僕は4年越しの悲願を叶えることができて感無量な主に声をかけた。
「で、もう一振の太刀はどうするんだい?生存の高さで決めるなら数珠丸恒次あたりになるけれど」
「そうだよ、そこが悩みどころなんだよな。たしか日蓮宗だよな、あいつ。うち曹洞宗なんだが顕現拒否られないか?」
「さすがにそれはないと思うけど気になるなら、次点の小鳥丸か大典太光世になるね」
「うーん、あ、そういや大典太光世ってソハヤノツルキの兄弟刀だったよな?」
「えっ、あ、お、おう。たしかに俺とあいつは兄弟だぜ。でもそんな理由で決めていいのか?」
「うちはまだ部隊がふたつしか編成出来ないからな、片方が短刀部隊だから歌仙率いる部隊に入ってもらうことになる。いかんせん時間との勝負だから少しでも連携とるためにもその方がいいかと思ったんだよ」
「まあ、顕現させるのはあんただし、俺は従うつもりだけどさ。......ありがとうな」