「時の政府は何を考えているんだろうね。主のような審神者経験者ならともかく新入り審神者も含めて全ての審神者に62振りも刀剣男士を賞与するなんて。霊力の供給強化はこのためだったのか」
「前の本丸でも最高24振りだったんだけどな......正直本丸を回せる気がせん」
「まあ、環境が整備出来たらでいいんじゃないかい?部隊だって今の状況だとせいぜい2つだし、手当部屋だって足りない。手持ち無沙汰になる刀剣男士が多すぎる」
「でも時の政府が指定した受け取り期間が3週間しかないんだが」
「刀剣の状態で保管してはどうかな」
「それがな、今の霊力供給を考えると封を開けた段階で顕現しちまうんだよ」
「それはまた......つまりは猶予はたったの3週間という訳だね。......僕たちが走り抜けた1年間を3週間でこなさなきゃ行けない訳だ。たしか部隊の解放条件には遠征なんかもあったはずだ」
「本来は本丸の実力に応じた部隊数の解放なはずなんだがな......時の政府もちょっとは考えて欲しいもんだ」
「まあ、歴史修正主義者の最大勢力はもうちりじりなんだ。残党がりと考えるならまだ荷は軽いね」
「やれるか、歌仙?」
「やるしかないだろう?このままじゃあ部隊に12人、内番に6人しか出来ない。なにもかもが足りない。せめて62振り全員がまともな生活ができるまでに環境を整えないと」
「前途多難だな......」
「まあ、やるしかないさ。本来のきみの霊力じゃ、一生お目にかかることはないはずだった刀剣男士もいるようだからね」
「どうせ俺はクズ運だよ......」
「しばらくは鍛刀する必要はなさそうだ、よかったじゃないか」
「良かねーよ......こっから誰を先に顕現させて部隊組んで回すか考えねーと行けないんだぞ?」
「まあまあ、僕も手伝ってあげるから安心してくれ。伊達に4年も近衛としてきみの留守を預かっていた訳じゃないからね」
「歌仙......!」
「とりあえず近衛と第1部隊長は予約しておくよ」
「ちゃっかりしてんなァ、おい。まあ、とりあえず作戦会議といくか」
「そうだね、僕も全ての刀剣男士のステータスや特徴を把握している訳では無いから。さすがに鍛刀はできなかったからね、会ったことない刀剣男士もたくさんいる」
「今俺は4年分のブランクを感じざるを得ない訳だが」
「奇遇だね、僕もだよ。参ったな、計算は苦手なんだが......」
「文系だろうが理系だろうが計算は生きていく上で必須だバカタレ、審神者は事務屋だ、近衛なら付き合えよ」
「わかったよ......」
僕はため息をつくしかない。
「ホントならもっときみとゆっくり話がしたかったんだが、どうにもそうもいってられないようだね」
「俺も残念だよ、歌仙。ま、今度は最後まで付き合うからよろしくな」
「もちろん、そうでなくてはこまるよ」
「はは。つーか時の政府め、どうあがいても赤字必須じゃねえかよこれ!これはあれか、あれなのか、足りない分は金払えってことか?!財政難なのはわかるけど新人審神者になんつーえげつないことしやがる!先輩方のが負担少ないじゃねーか!!」
「なんかしらの救済措置はあるんじゃないのかい?」
「まあ、たしかにしばらくは刀剣男士が強くなるための支援は手厚くしてくれるみてーだな。でも違う、そうじゃない、俺の本丸に欲しいのはこれじゃない」
グチグチいいながら主はパソコンを開いた。2200年は全てがデジタル化しており、アナログはコストが掛かるから贅沢品なのだといっていたことを思い出す。Excelを開くなりたくさんの桐箱と同封されていた封筒に入っている刀剣男士のデータをぶち込み、分かりやすく可視化する。
「前の本丸みたいな状況にだけならないようにね、主」
「わかってる、わかってる。今思えば無茶苦茶な運営してたよな、俺」
「ほんとにね。全てのエリアに検非違使が出現済みで僕は時の政府からたまに依頼される任務にしか出られなかった」
「仕方ねえだろ、最初はほんとに必死だったんだよ。今みたいにそれぞれのエリアごとに情報が共有されてなくて、特攻しては本丸同士で情報交換するしかなかったんだよ」
「それでも軽症重傷が多発して手当部屋が一杯になるし、すぐ手伝い札が尽きてしまったじゃないか。資材もいつも足りなくなるし、戦力強化だっておぼつかなかった。きみの霊力だとまともな刀装はろくにできなかったから、札が必須だったし」
「だから手当の方法だって覚えたし、少しでも運気を上げるためにエリアごとに寺参りだってしてたじゃねーか」
「よくぞまあ、前の僕だけで被害が済んだよね」
「軽傷撤退だけは徹底してたからな」
「だから軽傷者ですぐ手当部屋がいっぱいになったんだ。途中から歴史修正主義者にも検非違使にも槍が出てくるんだから無謀だったんだよ、奴らに刀装は意味をなさないんだ、そもそも」
「そうだけど、俺はお前の無茶を許す気はないからな」
「ごめんていったじゃないか」
「ごめんで済むなら破壊はないんだよ」
「だからごめんて」
主は眉を寄せる。僕はひたすら謝った。
どの刀剣男士から顕現させようか、なんて贅沢すぎるながらも切実な悩みの末に大太刀3振りと薙刀2振り、をまず顕現させることになった。
そして短刀4振りと脇差1振りを数日以内に顕現させることになった。薙刀はある程度強くなったらただちに短刀たちの育成に入り、薙刀の空き分に太刀を入れる方針になった。
「さて、俺が審神者家業を休んでる間に新設された極ってのはなんだ」
パソコンで呟く主の後ろを覗き込んだ僕は教えてやるのだ。
「うちの本丸だと1人が限界だろうけど、強さに限界を感じた刀剣男士のために時の政府が新設した階級だよ。人間の姿になって前の主のところに会いに行き、自分について見つめ直す修行の旅に出るのさ」
「へえ、なるほど。池田屋を攻略できた頃にはうちの本丸に62振りを迎えてやれる環境が整うだろうしな、その時に考えるかね」
「えっ、僕じゃないのかい?」
「えっ」
「えっ」