黒咲と白フクロウ
黒咲は白いフクロウを飼っている。シロと名付けられたそのフクロウは、ハートランドにおいては絶滅危惧種に指定されているほど珍しい種類のフクロウだった。このフクロウは、アカスズメフクロウの亜種である。大きい個体でも20p未満で平均的なサイズだと16〜17pくらいが平均的なサイズであり、黒咲が飼い始めたときもすでに成鳥だったのだが、体重も60〜70gと非常に小型なフクロウのため、子供かと思ったくらいだ。

手のひらに乗せても乗りそうなサイズだが、普通は素手で乗せてしまうと小型とは言え立派な鉤爪を持っていて、ケガの恐れがあるらしいが、このフクロウは爪が抜かれ、脚が硬化していた。本来寒い地域で生息する種類である、こんな街中に迷い込んだときに野生生物にでも襲われたのかもしれなかった。こんな脚では狩りができないだろう、と思いきや
草食らしい。

いつもハートランド校デュエルスペースや大会会場にあらわれる白いフクロウは、あまりに目立つため生徒たちの視線をひいていた。特にRRのデュエルの時には興奮したように飛び回ったりしていたことから、面白がった生徒たちが黒咲瑠璃を焚きつけて捕獲したのだ。あまりに人馴れしたフクロウだった。ペットショップか飼い主から逃げ出したのではないか、と獣医に見せてみたらこういわれたのだ。

「どうやらRRたちを仲間だと勘違いしてるようだね。そして、その使い手である君をボスと見ていて、仲間に入れて欲しがっているみたいだよ」

ぽかんとしている黒咲に獣医はいうのだ。

「さっき言ってたのは、人馴れしてるんじゃなくて求愛行動だよ。どうやら捕まえてしまったから応じてくれたと勘違いして、パートナーになったと思い込んでるみたいだ。まあ、鳥を飼う時にはよくあることだよ。気にしないでいい。仲良くね」

獣医に見せにきた時点で飼うつもりなのだろうと言われた黒咲はため息をついた。隣ではすっかりその気になっている瑠璃がいるのだ。

「ちなみにオスだよ」

「オスなのに俺に求愛したのか、馬鹿じゃないのかこいつ」

「あはは、よくあることだよ気にしないで」

いよいよ道を塞がれてしまった黒咲はため息をついた。

獣医がいうには、この種類のフクロウは、通常草食で、自生している多種多様な植物を食べる。果実、種、花粉、樹液さえ食べる。特に木の果実を好み、たくさん実っているときはシーズンをとおして食べ続ける。時折昆虫を食べるから、たまに与えると喜ぶだろうとのこと。

フクロウの種類の中では珍しく夜行性では無く昼行性。国内に流通している個体は野生で捕獲した個体が流通しているので人馴れしにくいが、すでに懐いているから問題ないだろうとのこと。

小型サイズとは言え、ケージも小さい物でいいわけではなく、狭すぎるとストレスを与える形になってしまうので目安としてW60〜90pに高さもそれなりに高い物がいい。置き場所に関しては、部屋の隅で出来るだけ人の目線より少し上くらいが理想。四方から見える環境に置いてしまうと落ち着けなくなりストレスが溜まってしまうため。

果物などを与える際にピンセットか割り箸が必要。割りばしなら使い捨て出来るから衛生的。

「かわいそうに、誰にやられたんだろうね。歩行に問題はなさそうだが、硬い果実は処理できない。柔らかいのを与えるといいよ」

痛がる様子もないことから、怪我してから随分時間が経っているらしい脚を見て獣医はいう。もう2度と爪は生えてこないそうだ。

他に必要なものとしては体重計。毎日の体重を管理する為に必要になるらしい。過度なストレスにより急激に体重を落としてしまう事もあるようだ。元々、小型で軽量なので少し体重を落とすとかなり痩せこけてしまうため、毎日体重を計ってあげて健康状態を把握してあげること。


もう飼う気満々の瑠璃は黒咲を置いてきぼりにして質問をしまくっている。


マイペースなのか、なんなのか、すでに疲れて眠っている白いフクロウをみて黒咲は眉を寄せた。こうなったら飼うしかないだろうが、大丈夫だろうか。不安しかない。


「そうそう、このフクロウ、オウムやインコみたいに言葉を覚えるからたくさん話しかけてあげてね」

「ほんとですか!」

瑠璃の目が輝いた。

「うん、知能が高くて声を出すことができるように器官が発達しているんだ。それに本来は身を守るために集団で行動するから構ってあげるといいよ、寂しがりやだからね」

「わかりました!がんばろうね、兄さん!」

にっこり笑った瑠璃に、黒咲は長い長い沈黙の後、ああ、とボヤいたのだった。

「るり!」

この一言に瑠璃は舞い上がった。たくさん話しかければそれだけ言葉を覚えると言われたのだ、ますます熱がはいる。これはペットとして人気がでるのもうなずける、だから乱獲されて急速に数を減らしたのだろうと黒咲は思った。

「るり、でゅえ!」

あははっと弾けたように瑠璃は笑った。

「RRたち追いかけてるうちに、覚えちゃったみたい。でゅえ!だって!」

RRの仲間だと思っているせいか、ソリッドビジョンで召喚してやるとえらく喜ぶシロである。20センチにも満たない体のくせになぜRRと自分を思い込めるのか不思議だが、デュエル動画をみて喜ぶのだから筋金入りだ。そのうち瑠璃のテーマデッキも仲間だと思い始めたようで、瑠璃のデュエル動画をみても喜ぶようになった、そんな矢先事件は起こった。

「るり、ゆーと、にいさん」

黒咲は思わず目が点になった。だがよくよく考えてみれば当然だ。瑠璃が言葉を教えている、しかも世話を焼いている、つまり一番近くにいる人の言葉を真似るのだ。兄さんになる。

「にいさん、でゅえ!」

「兄さんのデュエルみたいのね、わかったわ」

瑠璃は面白がって訂正してくれない。さすがに黒咲は焦った。まずい、非常にまずい。このままだと完全に定着してしまう。瑠璃以外に兄さんと呼ばれる筋合いはない。にいさん、にいさん、とやたらまとわりついてくる白フクロウのことがユートたちにバレたら、いじられるのは目に見えていた。

「シロ」

「くるる?」

「……隼だ」

「しゅんだ?」

「隼」

「しゅん」

「隼」

「しゅん」

白い小さなフクロウに向かってひたすら名前を言い続ける奇妙なかけあいをまさか撮られているとはつゆ知らず、黒咲の根気強い訂正は始まった。

「しゅんにーさん、でゅえ!」

「でゅえにーさん、でゅえ!」

「しゅん、でゅえにーさん!」

黒咲は眉を寄せた。瑠璃がいう言葉と黒咲のいう言葉がごちゃごちゃになってしまうらしい。

「違うだろ、シロ。しゅんだ」

「しゅん?」

「そう、しゅん。しゅんだ、わかったか?」

「しゅんしゅん?」

「なんでそうなる……」

やはり瑠璃に世話を任せているのが問題なのかもしれない。一日で訂正しても瑠璃が隼と呼ばない以上また変な形で上書きされてしまう。しばらく考えた末、黒咲はシロの世話をかって出ることにしたのだった。

「しゅんー!しゅんー!」

その結果、なんとか名前を訂正することに成功したのだが、今度は懐きすぎた。もともとパートナーと勘違いしている故に求愛行動が多かったのだが、悪化した。瑠璃はずるいとむくれるが、黒咲に世話してもらえたシロはすっかり愛情表現が報われたと勘違いしたのか、姿が見えないと怒ったように鳴くのだ。そしていないとわかると悲しそうに鳴く。

「しゅんんー!」

姿を見ると飛んでくる白フクロウに黒咲はもう諦めた。絆されたともいう。頭を撫でると目を細める。手に乗って餌を食べる。飼い主の指をくちばしで甘噛みする。名前を呼ばなくても反応する。普通フクロウはここまで懐かないらしい。雛から育ててやっとだというのだから、やはり人懐こい白フクロウは実に無害だった。絶滅危惧種になるのも当然だ。一応逃げないように足枷はするが、白フクロウは逃げるそぶりすらみせない。

「……また拾ってきたのか」

得意げなシロに黒咲は肩をすくめた。普通フクロウの愛情表現にはネズミを口に運ぶといったものがあるらしいが、シロは拾ってきたものを渡そうとするのだ。デュエルモンスターズのカードとか、アクションカードとか、そういったものを。相当変わりものなのは間違いないが撫でてやるとシロは満足そうに笑う。

相当知能が高いのは間違いない。


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