「おいおいおいおい頭いかれてんのか、本体様よ」
「そりゃあ俺もえーとは思ったけどさあ、遊作ちゃんはそう考えてんだもん。仕方ねーだろ」
「HALの気持ちもわかるがな、鴻上聖は死んだ。しかも意識をグレイ・コード幹部に乗っ取られていて、どこまで本人の意識かわからなかった。ここまでくれば鴻上了見を異様に敵視する必要はないと思うが」
「俺様たちから手を引くってんなら話は別だが、なんも変わってねえじゃねえか。しかも逃げやがった。環境が変わらねえと人間簡単に変われねえよ」
「ううむ、たしかにそれもあるな」
「でもなあ、ロスト事件に直接関わってないからなあ、あいつ。むしろ遊作元気付けてたし。記憶ない遊作にとっては10年心の支えだったからさあ」
「まだ8歳だしな」
「ロスト事件にゃかかわってねえがハノイの騎士の活動の中心で実質指揮官だったじゃねーか。帳消しにできるかよ」
「……鴻上博士のしでかしたことを親子だからと庇っているのは正直私も擁護できないが」
不霊夢は言葉を濁した。
尊はロスト事件で両親も失っているのだ、鴻上博士の罪は重い。
「またハノイプロジェクトのせいで犠牲者が」
「ハノイの騎士が出てきてないのに凶悪度が上がっちゃったなあ」
「三騎士も共犯者だから絶対に許されねーだろ。尊の父親、母親だろ?息子が消えてどうなるか、どうなったかわからないまま絶望して死んでいったとか考えると辛すぎてやべぇだろーが。もうこれ博士絶対に許しちゃいけない悪だ」
「被害者の子供は両親がいない子だけかと思ったら、尊みたいに両親に愛されていた子もいたというのが本当にショックなんだけど、俺」
「もし親殺しが誰かの手によるものだったとしたらそっちはハノイじゃなくてsolの可能性があるがな。もちろんハノイも許せんが」
「だいたいよ、鴻上博士は最後いい感じに死んでいったけど、クソみたいな理由で子供拉致った挙句にその結果が世界滅亡、それも勝手な予測だったから息子達に尻ぬぐいさせてただけってこと忘れんなよ。尊の両親は鴻上博士が思考データの多様性求めて孤児から普通の家族まで様々なサンプル集めた結果からの不幸だろうマジで戦犯どころじゃねえだろあのマッド博士は。ロスト事件で複数の家族を不幸にして、生み出したイグニスが危険だからと文明滅ぼすレベルのテロを息子に実行させて…鴻上博士が積み重ねた罪がもうどうしようもないじゃねーか、死んでもなお評価が下がるしかねーぜ鴻上博士はよ。父親っぽい事してなんか満足げに死んでるのが最低すぎて笑えてくるぜ」
「だがな、HAL。お前はその憎しみのぶつけ先がなくて鴻上了見に向けているようにしか見えん。少しは落ち着いたらどうだ」
「そーそー、そこだけが心配なんだよ俺さ」
「んだよ、二人して」
「まあそう拗ねるな。議論に感情を持ち込んじゃいけない。もちろんHALの憤りは私たちも感じているさ、ただわけているだけだ」
「けっ、そーかよ。んだよガキ扱いしやがって」
HALはおもしろくなさそうにぼやいた。
子供たちを誘拐してAIを作る。AIが危険だと分かって消そうとする。そしてネット全体を破壊してでもAIを消そうとする。そして子供たちの人生をめちゃくちゃにする。やってること全部ひどすぎるのは事実だし、今後イグニスたちが敵対するような流れになっても鴻上のせいだし特に何もしなくても鴻上博士は普通に犯罪者だし許される道があるとは思えないのは不霊夢も同じだった。ただそれをそのまま鴻上了見にぶつけるのは違う気がするのだ。他者との交流がまだまだ浅いHALもそのうち学んでくれるだろうと思った。
スペクター以外の発覚しているロスト事件被害者達の人生狂わして、その上被害者を元に作ったAIを危険だからサイバーテロ起こして消す、終いには息子に自分の十字架背負わせる。リメンバーミーじゃないが、博士に二度目の死が来ても割りが合わんとは思うのだ。
「むしろ博士は生きていてもらわないと困るけどね」
「まだいってるよ、HALのやつう」
「そもそも自分の狂気の研究で息子含めた大勢の人生狂わせて更には間接的に死人まで出して、そうやって生み出したイグニスを今度は勝手な思い込みで敵視して大勢の人命とネットワークを道連れに消そうとして、SOL社の暗部が絡んでることを考慮しても擁護の余地なしな博士だぜ。退場が早すぎるんだよ。実は生きてましたとかありうるだろ」
「うーん、私は悪くない!全て人類の未来の為だ!そのための犠牲など大したことない!っていいきっちゃったしなあ。被害者への謝罪も反省の描写もなかったし、大義の為には仕方ない的な事もなかったし、しかめた拉致監禁の話題を一言もせずイグニスは危険と息子スマンだけ言って死んでいったしなー。それは俺もどうかとは思ったよ」
「この手の人物はやったことが良い結果になれば周囲から見境なくもてはやされて、悪い結果になれば袋叩き不回避だな」
「たまったもんじゃねーがな。絶対電脳世界で意識だけ生きてるだろーよ。復活して負けたあと世界滅亡レベルのラスボス生み出してから消滅するくらい振り切ってほしいぜ」
「いってること無茶苦茶だぜ、HAL」
「うるせえ、一回死んだだけで許されねーっていってんだよ」
HALは息を荒げた。たしかに鴻上博士は大義そのものが自分で蒔いた種でしかも悪事を行って産み出したものだから始末が悪い。勝手に意思を持つAI作って使命感に駆られて拉致監禁の犯罪を犯した鴻上博士はおかしい。その上で自分は正しいことをしてるとか思い込んだまま死んでそうで後悔も改心もない。三騎士はロスト事件後も集団昏睡事件であるアナザーもやらかしたし擁護不可能だ。
HALはそう主張していた。
「味方とか絶対にやめてくれ。その時点で俺は手をきるからな。playmakerの正義感を煽るために関係ない市民を次々昏睡状態にしたのも忘れるなよ。手を下してたのは三騎士にリボルバーだ。擁護する理由になんねえだろうが」
「擁護はしてないんだが。相手を負かすんじゃなくて意見を出し合って妥協点を探るのが議論だぞ、HAL」
「へーへー」
「うーん、イグニスを作ったことでSOL経由でデンシティの技術力が大幅に発展したことぐらいかな、功績は。でもそれも結局はロスト事件ありきだしなぁ」
「人類に対する脅威を産み出した事への反省はあっても、被害者への反省が一切無かったわけか……アイたちじゃないとわからないこともあるんだな。素直に反省してたり逆に開き直ってればいいものを何も無いからただのサイコパスに見える」
「魂が電脳世界に囚われて永遠に拷問され続けるくらいやるべきだろ。掲げる大義が具体的な事が決定的な違いだ。経験した事実から導き出されたもんじゃねーだろうが。鴻上博士は理屈はあっても人類を継ぐ者然りAIの脅威化然りあくまで予測、しかもその予測も合っているかどうかかなり不透明だからこういう訳なんだと言われてもは?ってなるだろーよ。例え自分が悪いことしてる自覚があろうと世界のために仕方ないよねで終わり、息子に対しても悪かったと謝りながら結局のところそのまま勝ってサイバース世界と一緒に心中しろだし、既に自覚してる上でクズ行為してるから改心しようが無ねーだろ」
「HALのハノイプロジェクト関係者への憎悪は異常だな」
「俺のバックアップから生まれたとは思えないなあ」
「うるせえ。誘拐事件もsolから強要されたとか、利用されてたとかじゃなくて完全に自分の意識な上に全く反省してないのが最悪じゃねえか。その上で何かいい人風にリボルバー庇って一人だけ気持ちよく死んでいったのがなお最悪だ。マジでもう一回蘇った上で死ぬほど苦しんでから消滅してほしいぜ」
「まあ確かに優秀なAIを作るために人選も含め、なんで子供を誘拐したのかが謎だな。明るい未来を作るため、あなたの子供を力を貸してください!とか言って、家族と施設の人から了承を得られれば、多少はマシになったんじゃないか?」
「そうだぜ。人類を破滅させるかもしれないからイグニスは危険って言っても、イグニスたちが人類の敵になる可能性を生んだのは博士本人って言うのがな。誠也が言ったとおり博士にシュミレーションになにか細工をしてたとしても、それはそれで博士が間抜けって感じなんだが」
どうせ俺はバグだよ、と自重めいた笑みが浮かぶ。
「まあまあ、HALは議論がはじめてなんだ。ゆっくり学んで行けばいいさ」
「どうだかな」
「とかなんとかいっちゃって、仲間に入れてもらえるってわかったときめっちゃ嬉しそうだったじゃん」
「うるせえ、黙ってろ」