お題箱よりお花見(遊作と草薙と夢主)



和波が草薙たちを連れてきたのはデンシティの中心にある広大な公園だ。そこここに手つかずの自然を残しつつ、人工的に造られている。毎年3500万人の人が訪れるこの公園はデンシティの心臓だ。バラエティに富む見どころとアクティビティがあり、冬でも夏でも、いつも何かしらすることがある。とにかく広大だ。徒歩でまわることもできるが、たくさん観たいのであれば、レンタサイクルをするのが主流だ。そうすれば数時間で公園をぐるりと一周し、主要なハイライトを観ることができる。


広場の中心には大きな原っぱがあり、野球場、バスケットボールコートその他多数のスポーツができるスペースがある。夏には無料のコンサートが催されている。


他にも広大な貯水池があり、周りをジョギングする人々で賑わっている。現在でもジョギングコースとして、特に木々に美しく花が咲く春に人気の場所だ。ちなみにジョギングコースは約2.4kmある。


その先には動物園がある。ライオン、サル、ペンギンにホッキョクグマのほかに、子どもたちがヤギ、羊、牛、ミニブタなどにさわれたり近くで見ることができたりする、特別な子ども動物園もある。


あとは城だろうか。この公園内の天然の石のひとつに19世紀に建てられた城がある。1960年代まで気象台の気象観測のために使用されていたという。


西側にはシックなレストランがある。地元産の季節の食材に焦点をあてたメニューを提供しており、広場の眺めが楽しめるクラシカルなセッティングのレストランで、ランチまたはディナーを楽しめる。


そして、庭園も有名だ。シェイクスピアの作品に出てくる花や植物のいくつかも植えられている庭園として知られており、シェイクスピア自身が1602年に植えたものの分枝といわれている桑の木もある。庭園は劇場のそばにあり、この劇場では5月から8月に開かれるシェイクスピアインザパークの期間中、シェイクスピアの作品が上演されている。これは演劇の大人気シリーズで、アル・パチーノ、メリル・ストリープ、ナタリー・ポートマンなどの有名俳優も長年演じていたもので、無料チケットが毎日、劇場またはオンラインで入手可能だ。


デンシティの桜は、まず4月の中旬くらいまでに淡いピンク色のソメイヨシノやシダレザクラなどを楽しむことができるようになり、さらにその二週間後くらいあとの4月後半くらいからは濃いピンク色の八重桜系の寒山桜が楽しめるようになる。デンシティは美しい桜を楽しめるスポットがいっぱいある。


和波が案内したのは有名どころである。今ちょうど日本庭園の池の周りのシダレザクラが満開のピークを迎え、ソメイヨシノも咲き始めていた。デンシティとは思えない風情に日本庭園は人気のお花見スポットのようだ。八重桜の桜並木がとにかくゴージャスで美しく、その木の下でお花見を楽しむ人々でいっぱいである。太鼓や舞踊などの日本文化のショーも見られ、お茶席を設けたお茶会も開かれている。どうやら春祭りをしているようだ。コスプレの人々が大集合し、綺麗な桜と一緒に記念撮影をしようと浴衣や着物を着てくる外国人も見られ、とにかくにぎやかで、そんな様子を見ているだけでも楽しんでいた。


「デンシティって宴会してる人いないんですねー。日本だとみんなシート広げて場所取りして、そこでお酒とか料理とか持ち寄って食べるんですけど」

「お花見ってやつだな。残念ながらデンシティは公共の場だと飲食が禁止されてるんだ。こっそり飲む分には問題ないんだけどな」

「そうなんですか」

「そ、ピクニックとかバーベキューしたりするやつもいるけど、見つかったら怒られるしな」

「そっかあ。そんなに厳しいんですね」

「そうそう、室外での公共の場での飲食は相当厳しく規制されててなあ。おかげで許可証はほんとに大事なんだ。取り消されでもしたらほんとにやばいからな」

「なるほど、だからこんなに人が多いのに草薙さん、ホットドック屋しなかったんだな」

「あたりまえだろ、ここはデンシティの中心だぜ?こんなところで無許可で商売してみろ、苦労して手に入れた販売許可証が一瞬でおじゃんだ。しかも高い罰金まで取られちまう。いいことなんざひとつもないからな。っつーわけで、俺たちだけで楽しもうか」

「はーい」

「ああ、わかった」

草薙が渡してくれたホットドックを受け取り、満開の桜の下、和波と遊作はジュースで喉を潤しながらホットドックを食べ始めた。

「チーズドックもあるからな、たくさん食えよ」

「ポテトは?」

「もちろんあるぜ。お代とらないんだからな、食い残し禁止」

「はーい」

「するわけないだろ」

和波はうれしそうに笑いながらホットドックをほう張っている。

「和波、ケチャップついてる」

「え、どっちです?」

「右」

「ここ?」

「そう、そこ。あ、こんどはマスタード」

「え゛」

「ははっ、ちょっとは落ち着け、和波君。そんな慌てなくったって、誰もとらないって」

「ご、ごめんなさい、つい」

えへへ、と笑いながら草薙からティッシュを受け取った和波は、乱暴に口元をぬぐった。ずこーっと氷をならしながらジュースをすする。草薙もちょっと遅れて食べ始める。

「しっかし、見事なもんだな」

「でしょう!僕、ここに来るのいつも楽しみにしてるんですよ!え、もしかして二人とも来るのはじめてだったりします?」

「近すぎる観光地はいつでもいけるからってなかなか行かないだろ?それと一緒だ。商売になるならともかく、だめなところだしな」

「俺はそもそも興味がなかった」

「今は?」

「ん?まあ、案外悪くないなとは思ってるけど」

「それならよかったです」

和波はうれしそうに笑う。

「来年も来ましょうね、二人とも」


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