IN TO THE MAIAMI
カフェナギから一歩出た遊作を待っていたのは体の芯から冷めてしまいそうな寒さの夜だった。白い息がとけていく。あまりの寒さに遊作は首を縮こめてポケットに両手をつっこんだ。草薙さんからもらったコーヒーが底冷えする寒さから遊作を守ってくれる。高台から眺める夜の街並みは美しい。大通り公園のイルミネーションとライブビューイングに投影される映像が重なり、幻想的な風景となっている。


「……!」


いつかのように、頭の中を違和感がかけぬけていく。


「なんだ?」

『遊作も気づいたか?』

「ああ」

『リンクヴレインズになにかあったのかね』

「ああ、それもある。でも……」

『でも?』

「それ以上に違和感があるんだ。アイ、さっきまでそこに建物はあったか?」


遊作が指差し先には、先程までなかったはずの建物だ。初めからあったかのように素知らぬ顔でたっている。高台から見下ろしているとはいえイルミネーションから離れたところにあるがゆえに黒々とした影は威圧感があった。遊作は身の毛もよだつようなおぞましさを感じた。


『んんー、おっかしいなあ。なかったはずなのに、あるぜー?調べてみるか?』

「ああ」


遊作はあわててカフェナギに戻る。


「あ、あれ、遊作じゃないか。どうしたんだ、忘れ物か?」


きょとんとしている草薙は一息ついていたのかコーヒー片手にぼんやりとしているところだった。


「草薙さん、ちょっと調べたいことがあるんだ、いいか」

「お、おう?」


疑問符を飛ばしながら草薙はどいてくれた。遊作はたくさんのモニタを起動し、デンシティの地図を表示する。そしてあのビルや建物について調べはじめた。


「デュエルモンスターズ資料館……?」


眉を寄せる遊作に草薙はいよいよ不思議そうな顔をする。


「なに言ってるんだよ、遊作」

「え?」

「ワンキル館だろ?まさか知らないのか?」


遊作は鳥肌がたった。さも当然といった様子で草薙はあの建物について受け入れているのだ。遊作はもちろんアイも知らないというのに。


「ワンキル館?」

「おいおい、寝ぼけてるのか遊作」


草薙は苦笑いしながら教えてくれた。


デュエルモンスターズはインダストリアル・イリュージョン社、通称I2社の社長であるペガサス・J・クロフォードが作ったことで知られるカードゲームだ。主にデザイン・作成・販売を請け負っている。 デュエルディスクに搭載されているソリッドビジョンシステムは海馬コーポレーションの製品であり、カードデザインコンクールを開き、優秀なデザイナーをスカウトしたりと、KCと密接な係わり合いを続けている。


SOLテクノロジー社は後から参入した会社である。どうあがいてもコネがない。そこで協力体制をつくったのがI2社の系列に属するデュエルモンスターズ資料館、通称ワンキル館である。世界中のデュエルモンスターズのカードを収集、研究、保管する世界で唯一の私的資料館というわけだ。この会社が保有するデータバンクはデジタルアーカイブとして公開されており、デュエリストたちはデュエルログを公開することを条件に裁定などを閲覧することができるのだ。

リンクヴレインズはワンキル館のデータバンクなしには成り立たないのである。



「それを知らないって遊作、さすがに寝ぼけてないか?たしかに意識しないとあのビルや建物がワンキル館のものだって知らないかもしれないけど」


遊作はなんと返していいのか分からず途方にくれる。


「今日は帰って寝ろ、な?」


疲れてるんだ、と流されてしまうくらい当たり前の存在だと認識されている恐怖である。わけがわからない。ただ間違いなく言えるのはさっきまであんな建物なかったという事実だけだ。


『なあ、遊作ちゃん。ひとついいか?』

「なんだ」

『一瞬にしてできたのはワンキル館だけじゃないぜ、見てみろよ』

「リンクヴレインズに街が……?!」


まるでデンシティがまるまるひとち再現されてしまったかのような広大なエリアである。MAIAMI市という新しいエリアだ。いきなり出現したエリアに遊作たちはいよいよ言葉に詰まってしまう。草薙は心配そうだ。


「ほんとに大丈夫か、遊作?」


どうやらこれも初めからあったことになってるらしい。


「ごめん、草薙さん。寝ぼけてたみたいだ」

「だよな。ここんとこピリピリしてたし、頭が回ってないんだよ。おやすみ」

「……ああ、おやすみ」


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bkm
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