ベクトル[完] | ナノ

『さあ、今日も始まりました!
雷門中学昼休み恒例番組・イナズマ魂の時間がやってきましたよ!
本日の放送担当は二年の澤部とー?』
『三年のみょうじがお届けしまーす!』


イェーイ!


みょうじなまえは周りに媚を売らない人間で、目立ちたがりではない性格なのだが、所属する放送部の活動には燃える人間であった。



『いやー、久しぶりっすねえ、みょうじセンパイとやるの!』
『そーだね!
まあ、三年は受験勉強重視だから、あんまりシフト入れてもらえないしねー』
『なんか最後のしねーが違う発音に聞こえた気が……』
『え?なんだって?』
『な、なんでもないっすー!』



なまえ達放送部は、主に昼休みの放送が活動時間である。

担当者によっては、音楽を流しっぱなしの時もあるが、なまえや二年の澤部だかなんかが担当の時は、必ず喋りっぱなし。

それが面白いと話題なので実は人気なのだが、教師側からするとあまり好評ではないらしいので、なまえと二年の澤部がセットで組まれることは珍しいらしい。



南沢も、最初はなまえがあんなに喋る人間だとは思っていなくて、驚いた。

ギャップというか、なんというか。

おとなしい、という南沢によって勝手に作り上げられたイメージではあったが。



『久しぶりっていうことなんですけど…みょうじセンパイ、何か話題ないっすか?
正直俺、何も浮かばないんすけど』
『えーっと、まあ今日は原稿も何もないからねー
いつもはちゃんと考えたヤツがあった上でやるから、時間足りなくなるくらいなんだけどね』
『……』
『……黙ってちゃわかんないよ、ちゃんと自分の口で言いなさい?』
『原稿忘れましたすみません!』
『よろしい』



『まあ、原稿があったらあったで、絶対時間ギリギリになるから結構怒られるんだけどね……』
『俺たち、結構頑張ってるんですけどね…いつまでやってるんだって』
『ん?
ちょ、ちょっと澤ちゃん、一回真剣に真似してみて?似てるかも…』
『え?
「おい澤部!いつまでやってるんだ!!」…どーっすか?』
『お、宮下先生じゃん!
超似てる!!』
『まじすか?!
やった、俺のモノマネレパートリー、新しくゲットだぜ!』



おめでとう、と機械越しに聞こえてくるなまえの嬉しそうな声に、南沢は自身の頬が緩むのが分かった。

やっぱりあいつは、これが一番合ってるんだな。

照れくさそうに友達と話しているときのなまえも、俺と話すときに若干嫌そうな顔をするなまえも。

どんなときのなまえも好きだけど、やっぱり一番、この時がイキイキとしている。



『俺たちは俺たちなりに、真剣にやってるんすよ!
ね!みょうじセンパイ!』
『うん、
澤部くんはともかく、わたしはね』
『え…?』
『受験近いしね、そんないちいち先生に叱られるような馬鹿なことなんて、するわけないし』
『え?
なんかさりげなく、俺省かれたような……』



教室内からも笑いが起こる。

放送で流れてくる内容は、特別面白い話をしている訳ではないが、なまえの絶妙なツッコミや切り返し、澤部の大袈裟な程のリアクションが目に浮かぶようで。

さすがだな、と感心する一方、「今日もみょうじおもしれーな!」というクラスメイトの声に、南沢は自然と眉間に皺を作っていた。



「あれー?南沢くん、もしかして不機嫌?」
「……」
「まあまあ、あの子が一番好きなものがアレなんだからさ、黙って応援してあげなよ」
「…分かってる」



なまえの友人が、一応周りを見渡しながら、話し掛けてきた。

なまえだって、直接応援しに来てはくれないが、部活の試合の前などはメールをくれたりもする。

極々稀に、だが。

その時顔を上げた際に、南沢の視界に見慣れた何かが映り込んだ。

ああ、嫌な予感がした。










空想ロマンチカ



嫌な予感によって当たるのは、何故だろう。











お題:ポピーを抱いて


12_06_27





- ナノ -