「……やべっ!!」 ベッドから飛び起きて、クローゼットから制服を取り出すと、パジャマ代わりのジャージをベッドに放り出して着替える。 やばいやばい。寝過ごした。 幸い今日は朝練がないからいいけど。 くそ、昨日社会科の課題に時間がかかりすぎた。 おまけに塾の課題も多かったし。 はあ、受験とかマジありえねえ。 文句をブチブチ言いながら支度を済ませた南沢がリビングへ降りていくと、ラップのかかった朝食と弁当の包みが置いてあった。 そっか、今日母さんも朝からだったっけ。 通りで起こされないから寝過ごす訳だ。 壁にかかった時計を確認しながら、コーヒーで朝食を流し込むように食べると、南沢は洗面所へ向かった。 そして絶句した。 「マジかよ……」 寝癖が治らない。 くそ、急いでるからワックスでも誤魔化しきれねえし。 コンタクトはもう学校でするか。 行くだけなら眼鏡でいいだろ。 若干毛先が跳ねたままの髪を揺らして、南沢は学校へ駆け出した。 学校へ行く途中で逢った倉間には、格好から寝坊だとばれるし、学校のトイレで奮闘しても、寝癖は治らないし。 言うまでもなく、南沢は不機嫌であった。 もう面倒くせえ。 コンタクトももういい、眼鏡でいいだろ。 溜息を吐きながら、教室へ戻ろうとしたときだった。 「………みょうじ、」 「お、おはよう……南沢くん、だよね‥‥?」 「おう……?」 廊下で出くわしたなまえに、南沢は首を傾げられた。 え、なんで。 南沢の方を見つめてくるなまえに、耐え切れなくなった南沢は、顔を赤くしたまま歩き出した。 普段、まともに顔を見て話すことも少ないのに、そんなに見られたら困る。 ほら、左胸辺りが騒がしくなってきた。 そんな南沢のことなんて知る由もないなまえは、また首を傾げた。 「目、悪かったんだ…?」 「……普段、コンタクトなんだよ」 「あー、なるほど ………ごめんね、知らなかったから、すっごい見ちゃった」 一瞬誰かと思ったの。 そう告げられて、南沢は少なからずショックを受けた。 「…次から絶対、コンタクトつけてくる」 「え?」 「なまえに気付かれないなんて、俺生きてる意味ない」 「ちょ、今名前で?!」 大丈夫だ、誰も見てねえよ。 そんなの分かんないじゃん! さっきまで食い入るように南沢を見つめていたなまえだったが、プイッと不機嫌に顔を反らすと、一人でスタスタと教室へ向かって歩き出した。 でも、すれ違い様に 「格好良すぎて見惚れてたなんて、言えるはずない…!」 となまえが赤い顔で呟いていたのを、南沢は見逃さなかった。 「あれ、南沢さんまだ眼鏡してんすか?」 「まあな」 「…朝あんなに機嫌悪かったのに、なんであんなに機嫌いいんだろ」 「ああ、南沢か 今日はみょうじと朝教室に入って来てから、機嫌いいぞ」 「ぜったい、のろけだな、ありゃあ」 「……悪いか」 「えー!南沢さんが開き直ったー?!」 うるせえ鬼太郎、と倉間の頭を叩いた南沢。 それでも、マジでリア充とかないわー、と涙目で文句を言ってくる倉間をもう一度叩いた南沢は、ユニフォームに着替え始めた。 その姿を見て、三国と車田は呆れたように肩を落とした。 やれやれ、また始まったか、と顔に書いてあった。 「ほんと、南沢はみょうじのことになると、性格変わるよなあ」 「まあ、一年の時よりかはマシになったけどな」 「…うるせえ」 「いった! なんでいちいち俺を殴るんすか!」 「お前の頭が殴りやすい位置にあるからに決まってんだろ?」 「南沢さんだって小さいくせに!」 「はっ、お前よりかはマシだ」 安売りしていた流れ星 なまえの発言を見逃さなかった南沢は、見せ付けるようにその日一日を眼鏡で過ごしたのは、言うまでもない。 お題:ポピーを抱いて 12_06_23 |