「なまえ、」 「…………」 「‥‥‥みょうじ、」 「なに?」 はあ、と分かりやすく溜息をついた南沢になまえは少し罪悪感を感じたが、どこかへ吹き飛ばした。 溜息つかれたって、誰のせいだと思ってるの。 口に出しはしないが、なまえだって溜息をつきたいくらいだ。 「………どうしたの?」 「今日、一緒に帰れるか?」 「…分かった」 南沢となまえは、俗に言う恋人関係である。 告白は予想外に南沢からで、最初は何かのイタズラかと思って、なまえは受け流していた。 結局は南沢の積極的なアプローチに負けて、付き合うことにしたのだが、南沢は学年一のモテ男であった。 女子の嫉妬とか非難とか、なまえにとっては迷惑以外のナニモノでもないのだが、真剣な南沢の想いを断る訳にはいかず、受け入れたのだが。 「教室で待ってろよ」 「うん、分かった」 学校で名前呼びはしない。 恋人らしい行動、発言は禁止。 これはなまえが出した付き合う為の条件のようなもので、何だかんだ言って優しい南沢は、律儀に守っている。 今くらいの会話なら、誤解されるようなこともないだろう。 なまえはなまえで毎日必死なので、生きた心地がしないのである。 ことを知っているのはなまえの友人と、南沢の部活の仲間の一部のみ。 公にする気は全くないなまえに対し、南沢は反対のようで。 絡んでくる頻度が増えた。 付き合っているのだから、当たり前? いやいやいや、ただのクラスメイトAくらいのポジションだったなまえが、いきなり人気者の南沢と仲良くなるなんて疑われるに違いないのだから。 なまえの必死な説得により、南沢は少しは我慢しているようだが。 「なまえー、」 「うん?」 「あんまり素っ気ないと、そのうち愛想つかされるよ?」 「…………分かってる」 南沢が去った後、なまえの友人が意味ありげな笑みを浮かべて、なまえに近寄って来た。 毎度ながら、南沢絡みの話は小声でしてくれるのは有難いが、内容には聞き飽きていた。 友人曰く、なまえと南沢は仲よさげな雰囲気がしないらしい。 それは当たり前だ、禁止してるのだから。 なまえの態度が素っ気なすぎるというのがメインなのだが、なまえはなまえでよくわからなかった。 面倒事がなければいい人だとは思うけど、所詮いい人止まり。 そう言えば、友人は南沢がかわいそうだと言う。 「よくわかんないなぁ」 「よくわかんないなぁ」 自分が去った後、近寄って来たなまえとなまえの友人との会話にそっと聞き耳を立てた。 みょうじなまえは、色恋に少し疎いクラスメイトである。 そして、最近やっと交際にまで発展した相手でもある。 自分で言うのもなんだが、なまえは全くと言っていいほど周りに媚を売らない人間だった。 よく言えば大人びていて、悪く言えば冷めている、そんな感じである。 南沢がなまえに思いを寄せていたのは、実は一年の時からであって、受験を控えたこの年に漸く打ち明けたのも、卒業と同時に諦められる気がしなかったからである。 あの生意気な鬼太郎曰く、南沢さんって意外に一途なんすね。 当たり前だ。 告白をされたことはあるが、今まで一度たりともいい返事をした覚えはない。 一切ブレずにここまで来たからこそ、なまえと付き合えてると思ってるし。 でも、なまえからのベクトルが自分に向いていないのは分かっていた。 元々、彼女は恋愛事に疎いのは知っていたし、自分のことを面倒くさそうに見ているのも知っていた。 でも、諦められない。 女々しいかもしれないが、なまえがいる、いないでは南沢のコンディションは大きく変わる。 部活でも、授業中でも、ただ何気なく過ごす休み時間でも。 「はぁ……」 「頑張って、」 「ん? ……………ああ、」 ぼーっと突っ立っていると、話が終わったらしいなまえの友人が声を掛けてきた。 彼女はいつも、何かしらなまえに対してアドバイスをくれる。 応援してくれているらしいから、素直に返事をしておいた。 銀河に足掛け これは、そんな苦労人南沢篤志が、彼女みょうじなまえを振り向かせようと健闘するお話である。 お題:ポピーを抱いて 12_06_21 |