中編 | ナノ

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ふいに力を入れて握り締めた紙が―――――ぐしゃり、と音を立てた。

その小さいはずの音は、授業に集中している教室内には妙に響いた。

怒られた訳ではないが、すみませんと小さな声で謝り、再び目の前の机上に向かう。

今、明らかに不機嫌な彼女は―――――安形なまえという。

この開盟学園の生徒会長を務めているというのは、紛れもない事実である。

凄まじいIQを持ち、生徒からの圧倒的な支持を持つ彼女だが、世間体の持つ人気者のイメージとは少しだけ違う人柄だった。

人気者と言われて思い付くものといえば、誰とでも分け隔てなく話す、優しい、リーダーシップがある等が一般的だ。

そして彼女の場合、誰とでも分け隔てなく話すはクリアである。

本人曰く博愛主義であり、悪く言えば警戒心が薄いと言えるくらい、相手関係なく会話が成り立つのである。

優しい、リーダーシップがあるもクリアである。

それが無ければ、生徒会長なんて務められるわけがない。

では何故、違うと言われるのか。

それは彼女自身の、性格にあった。



「なんだ安形、もう解けたのか」
「あー…はい、まあ」
「じゃあ黒板に書け」
「………はい、」



よっこらしょ、っと年寄り臭い掛け声を呟いて席から立ち上がった彼女は、ゆっくりとした足取りで黒板へ向かった。

その時の彼女の表情は、かなり不機嫌だと眉間に寄せられた皺が語っていた。

何故ならば、先程まで彼女は握り締めた紙のことを考えていて、授業なんて聞いていなかったのである。

しかし、問題が分からないとかそんな心配はいらない。

考え事を邪魔されたことに、苛ついているのである。

彼女は黒板の前へ辿り着くと、白いチョークを探すと思いきや、すぐ傍にあった緑のチョークを見つけると、何の迷いもなくそれを掴み、何も言わずに黒板に滑らせていった。

緑って、見にくいのに。

そんなクラスメイト達の心知らず、だって白で書けって言われてないしと彼女は淡々と数式を繋げていく。

教師への軽い八つ当たりである。

やがて結論に辿り着くと、彼女はまた無関心だと語るように、帰りはスタスタと席へ歩いていった。

その姿を見て、教師が不機嫌な顔をしていたのは言うまでもない。

だって、これから教師が説明しようとしていた別の解き方まで、やってしまってあるのだから。

出来すぎる生徒は、困りモノでもあるのだ。



席に戻った彼女は、先程まで睨み付けるように見ていた紙を、再び目の前に広げた。

一番上に「生徒総会資料」と書かれたプリントは、まだまだ沢山の空欄がある。

はあ、これを埋めなければ。

基本的に面倒な事が嫌いな彼女は、溜息を吐いた。

ちょうどその時チャイムが鳴り、ガタガタと生徒が席を立ち上がっていく。

あ、授業終わった。










爪隠し

そうだ、道流にでも書いてもらおう。