中編 | ナノ

▽ 13







俯きがちに歩いている背中から、悲しい雰囲気がなまえにも伝染してきそうで。

珍しいなあ、彼が元気ないなんて。



「どうしたの?」



なまえは特に取り繕う訳でもなく、普通のトーンで尋ねてみた。

すると、お互いにゆっくりと立ち止まって、視線が合う。



「なまえ先輩、」
「元気ないね、松風くん」
「……はい」



大丈夫?と続けると、松風は困った表情で弱々しく笑った。

ああ、やっぱり彼には眩しいくらいの笑顔が似合うのになあ。



松風の元気のなさは分かっている。

神童の代わりにキャプテンを任されたことである。

光栄なことであり、任されたという嬉しさもある。

でも、その気持ちよりも、神童のようにゲームメイクが出来ない腑甲斐なさと、チームを上手く纏められないもどかしさが上回っているのだ。



「わたし、松風くんと同じくらいに入部したから、松風くんよりもチームのことを知ってるわけじゃないけどさ
みんなひとりひとりのことは、誰よりも知ってる自信があるよ」
「え?」



だって、マネージャーだもの。


なまえは少しだけ胸を張って言ってみた。

どや顔になってしまったのはちょっとやりすぎだと思ったけど。



「わたしたちマネージャーは、選手のサポートが仕事だもの」
「……」
「だからさ、身体以外も心もケアしなきゃっていうか
松風くんがすっきりするまでとことん聞いてあげるよ?」
「!なまえ、せんぱい……」
「まあわたしは選手じゃないから、選手の気持ちはわからないけど
フィールドに立ってない分、みんなのことがよく見えるから」



松風くんが無理してることくらい、分かるよ?



びくり、と松風の肩が揺れた。

顔には明らかな動揺が現れていた。



「わ、わかってるんです……俺は神童キャプテンみたいに上手く指示も出せないこと」
「神童くんと松風くんは違うよ」
「で、でも!」



―――――みんなは、神童キャプテンがしてきたことが出来て当然だと思ってるに決まってるんですよ。



「たとえ、そうだとしても……」



―――――神童くんは、言葉だけの人じゃなかったよ?



「!」
「指示は言葉じゃなきゃ出来ないわけじゃないよ?
神童くんは、いつも一生懸命だったから、みんなが信じて着いてきてくれてた
だから、松風くんも大丈夫だよ」



―――――すぐには上手くいかないかもしれないけど、松風くんだっていつも一生懸命だもの!



松風の頬に、一筋の水が流れた。



「み、みんなには内緒にしてください…!」
「分かりました、キャプテン」










SUCCESS!


(よかったね、天馬!)
(やっぱり、なまえ先輩はすごいね…!)

(ちょっとみょうじー、最近一年にばっか絡んで…付き合い悪いぞー)
(え?そう?)
(((なんか優越感が…半端ない…!)))