中編 | ナノ

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「あ、みょうじさん来ましたよ!」
「ちょっとちょっと、なまえ早くこっちこい」
「うん?どうしたの、水鳥…?」



なまえは委員会の仕事で少し部活に遅れていくと、休憩をしていたのか、めいめいに話している部員達が居た。

その中で一際目立つ人だかりの中心に居た水鳥に呼ばれ、なまえは輪の中に加わった。

なんだなんだ。



「こいつらがさぁ、あたしらの出会い話しろってうるさいんだよ」
「出会い話?」



どうしてそんなことが気になるんだろう。

少し首を傾げたなまえに、水鳥は困り顔で肩を叩いた。

え、何?



「だ、だって…意外じゃないですか」
「意外?」
「学年首席と女番長が親友って、何か特別な理由がないとありえなくね?」
「あー、そういうことね」
「幼馴染み、とかか…?」
「ううん、違うよ」
「あたしらは去年からの付き合いだ」
「尚更、気になるんだけどー」



まだ時間は大丈夫なのか心配になって、辺りを見渡したなまえに、神童がまだ大丈夫だと声をかけた。

え、真面目な神童くんまでいるの?

改めて輪を見渡せば…………おお、いつの間にかマネージャー以外全員居ますね、はい。

全員の注目を浴びて、水鳥は照れ臭そうに腕を頭の後ろで組む。

なまえは水鳥に視線をやると、楽しそうに笑っている。

見るからに仲が良さそうである。



「別に大したことじゃねーよな?」
「うん、」





「分かった、話すよ
うーんとね、ちょっと長くなるんだけど………」










―――――みょうじなまえ、中学一年生の春。



入学したてで特別目立っていた訳でも無かったが、なまえはクラスの学級委員になっていた。

入学テストで一番をとったからなのか、担任からの推薦が入り、そのまま流れで引き受けたようなものだった。

仕事は集会の際の点呼や授業の号令。

学級での話し合いで司会をするのが一番緊張して辛かったのだけど、男子の学級委員に助けて貰いながらこなしていた。



入学から一ヶ月経ったくらいだったと思う。

なまえの中で、少し気になることが出てきていた。

それは、いつも決まった席が空いていることだった。

その席に座る筈の生徒の名前は、瀬戸水鳥。

少し背の高い女子生徒で、学校には来ているものの、授業には出ていない―――――俗に言う不良というヤツだった。

いじめられているとかではなくて、皆が彼女を恐れているから、彼女は教室に居ても、輪の中には居なかった。

それに気が付いていたなまえだったが、水鳥に話し掛ける勇気が無かった。

そう、今とは違って当時はかなり臆病な性格だったのである。

その判断は周りからすれば至って普通のことであるから、なまえだけが悩むことではなかったのだが、恐らく学級委員という役職が責任感を持たせていたのだろう。



「瀬戸と話してやってくれないか」



水鳥を気にしているなまえに感付いたのか、担任がそう提案してきた。

なまえにとって、それがどれだけ大変なことだなんて、知る由もないのだから。





ある日の昼休み。

水鳥の目撃談が一番多い屋上へとなまえが脚を運ぶと、水鳥の姿が見当たらなかった。

もしかして、今日は来ていないのかな。

諦めて教室へと戻ろうとしていた時だった。



「誰、探してんだ?」



声がした方を振り向くと、タンクの上から見えたリボン―――――それは、水鳥がいつも頭の上にしているそれに間違いなかった。

あ、見つけた。

嬉しい反面、なまえは少なからず水鳥に恐怖を抱いていたのだから、若干身構えてしまった。



ストン、と音がして顔を上げると、水鳥がタンクから降りてなまえの近くへと歩み寄って来ていた。

え、何だろう。

わたし怒らせちゃった…?



「あ、お前…確か学級委員の、」
「あ、はい……みょうじなまえって言います」
「ふーん…」



品定めでもしているのか、頭から爪先まで一通りなまえを見て、何を思ったのか、水鳥はヒトのよさそうな笑みを浮かべた。



「あたし、お前のこと気に入った」



―――――なまえは何を言われたのか、分からなかった。



気に入った?何が?

え、瀬戸さんが…わたしを?

パニックになっているなまえを見て、水鳥は首を傾げたが、途端に真剣な表情になった。

え、やっぱり怒らせちゃったのかも。

いいや、絶対そうだ。

早く謝らないと。



「あたしさぁ、人に媚び売ってるヤツが一番嫌いなんだよね」
「?」
「あと、影でこそこそ言ってるヤツとかさぁ」
「そ、そうなんだ……」



「お前は、全然そーいうのなさそうだし」



褒められたのか、よく分からなかったなまえだったが、水鳥が嬉しそうな顔をしているのでそう受け取ることにした。

あ、瀬戸さんて、笑うとかわいい。



「で、委員長は誰探してたんだ?」
「委員長って……」



わたしのこと、だよね。

あなたを探してましたなんて、いきなり言ったら変に思われるかな。

一人考え込んだなまえに、水鳥が覗き込むように見ていた。





「やっぱり、あたしが怖いか?」
「え、………?」



真剣な眼差しで訴えてくる水鳥に、顔を上げたなまえは目を逸らすことが出来なかった。

自分が急に黙ったから、怖がっているように見えたのだろうか。

この人、怯えてるのかな。

何が怖いんだろう。



「どうして?
どうして、そんなこと言うの……?」
「どうしてって、……だってあたしは、こんななりしてるからさ」
「……」
「喧嘩っ早いし、」
「……」
「それに、」
「………わたしは、怖くないって言ったら、嘘になるかもしれない」



震える声が情けなくて、なまえはスカートの裾ごと握り締めた自分の拳を見た。

わたし、何やってんだろう。

なんで、怯えてるんだろう。



「…けど、わたしは、もっと瀬戸さんのことが知りたいかな」
「…!」
「知りもしない人のこと悪く言う人って、一番嫌いなの、わたし」
「……」
「だから、……また、来てもいいかな……?
もっと、瀬戸さんとお話したい……です、」
「……くっ、」



あはははは、



水鳥の笑い声が屋上にこだました。

あれ、わたし変なこと言ったかなぁ。

緊張のあまりに途中から敬語が混ざったなまえは、恥ずかしくて顔を赤く染めたが、言いたいことはちゃんと言えたと自己解決。

自己解決はこの頃からなまえのステータスであった。



「またって、まだ全然しゃべってもいねぇのに、なんで次の話すんだよ」
「……」
「あたしさぁ、人にはとやかく言うくせに、嫌われるのが一番嫌なんだ
自分に正直に生きてきたつもりだからさ、後悔はないけど
まあ、それのせいで嫌われてんだから、自業自得だよな」
「……そ、そんなことないよ!
瀬戸さんは、いい人だよ!」



必死すぎんだよ、ばーか。



「!」
「お前程他人にお節介焼けるヤツ、見たことねぇよ
やっぱりお前、最高だわ!」
「…あ、ありがと‥‥?」



瀬戸さんが楽しそうだし。

褒められたみたいだから、いっかと、また自己解決。



「なあ、委員長
勉強、…教えてくれよ」



ここで。



それは、また来てもいいというサインだと。

なまえは嬉しくて大きく頷いた。

瀬戸さん、いい人だった!

勇気出してよかった、わたし頑張った!










「……みたいな感じでして」
「それから、なまえとよく話すようになって
連れられて徐々に教室にも行くようになってさ」
「水鳥頑固だから、時間は結構かかったんだけどね」
「なんだと?
………まあ、あたしが勝手にみんなに壁作ってたから、浮いてたんだけどさ
なまえのお陰で溶け込めたんだよ」
「わたしは全然、お節介以外何もしてないってば」
「……で、今に至るわけだ」



はしょりすぎたかな?

首を傾げているなまえ。

水鳥は何故かどや顔であった。



「へー……みょうじはその頃からすごかったわけね」
「え?何が?」
「……お人好しの塊だな」
「そ、それって褒めてるのか貶してるのか、よくわかんないんですけど……」



なまえはいまいち分かっていないようだったが、部員達は満足気に笑っていた。

水鳥が一番どや顔だったのだが。

その真意はなまえだけ知らなかった。



(さっすが俺たちのマネージャー!)
(みょうじさん、やっぱり凄いです…)
(そーいやあ、急に番長が丸くなったって、学年で騒いでたよな)
(ああ、まさかみょうじの手柄だったとはな)
(てか担任の推薦で学級委員とか、……どんだけ頭いいんだよ)
((((確かに…))))

(みょうじセンパイ、やっぱり優しいね!)
(あんなこと言われちゃったら、水鳥センパイが過保護になるのも分かるなあ)
(いいなぁ、わたしもあれくらい仲のいい友達欲しいなぁ)










SUCCESS!


(わたしたち、最強コンビです!!)










遅くなってしまってすみませんカメさま!
リクエスト、ありがとうございます。

何れかは二人の出会い話を書くつもりではいたんですが
まさかこんなに早く来るとは…!
今考えたら、中一で既にスケバンて、最強じゃん水鳥。
ちなみにSUCCESS主のコンセプトは お節介、ポジティブ、姉御肌です。
あ、今関係ないですね。

出来るだけみんながしゃべるように頑張ってみたんですが
三年生、見事にいない…あ、南沢さんは一言しゃべりました。
自己満足ですね(; ・`д・´)

前サイトの3周年企画:カメさまのみフリーでした。


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