※虎丸成り代わり・女主
「サッカーしてる人なら、みんな知ってますよ!」
何日か前に、わたし宛てに届いた手紙に導かれるように、スポーツバックに大好きなサッカーをするための道具を入れて、雷門中を目指して家を飛び出した。
出前でこの辺りのことはよく知っているはずなのに、行ったこともない雷門中への道は、必然と分からないはずで。
(どうしよう…)
(約束の時間、過ぎちゃうよ……)
路頭に迷ったわたしの目の前に、憧れの円堂さんが歩いているのが見えた。
FFで優勝した雷門中サッカー部のキャプテンで、守護神の円堂さん。
ついこの間まで、日本を救ったサッカーチームとしても、毎日のようにテレビ越しに見ていた人だ。
夢中になって話し掛ければ、円堂さんも嬉しそうに答えてくれる。
迷子になったけど、なんか得した気分だ。
「わたし、雷門中に行きたいんですけど…」
恥ずかしいけれど、わたしは正直に道に迷ってしまったと打ち明ける。
すると、なんと円堂さんも雷門中へ向かっている途中だったらしく、一緒に連れていってくれるらしい。
(今日は、なんてついてる日なんだろう…!)
まるで神様が助けの手を差し伸べてくれたようだった。
わたしは円堂さんに連れられて、雷門中の体育館に入っていくと、思わず目を疑ってしまった。
だって、ついこの間までテレビ越しでしか見れない人たちが、勢揃いしていたのだ。
(雷門イレブンに、帝国学園のストライカー…)
(あれ、エイリア学園の、選手まで…!?)
(なんで、こんな凄い人たちが集まってるところに、わたしが…?)
急な展開に疑問を膨らませていると、円堂さんが手招きをした。
わ、わたし?
よく聞けば、「さっき一緒に来たんだ」なんて言っているのが聞こえてくる。
絶対、わたしのことだ…。
(じ、自己紹介、しなきゃ、だよね…?)
「わ、わたし!
宇都宮なまえです!
なまえって呼んでください!」
思わず力んで言ってしまったから、恥ずかしくなって顔を伏せた。
(うわあ、絶対ひかれた…)
もう、せっかく凄い人たちに会えたのに…。
何やってるの、わたし。
耳まで赤くなっているであろうわたしは、それからなかなか顔を上げられず、1人でわたわたしていた。
「かわいいね、なまえちゃん」
「え?!」
そんなわたしの頭を楽しそうに撫でてきた吹雪さんに、わたしはまた顔が熱くなる。
(か、かわいいだなんて…)
(初めて言われた…!)
男の子に混ざってサッカーばっかりしてて、私服だって動きやすいジャージしかないわたしだから、かわいいだなんて、今まで言われたことがなかった。
顔がどんどん熱くなるのがわかる。
ど、どうしたらいいの。
さらに顔が上げ辛くなったわたしは、結局響木さんが説明を始めるまで、顔を上げられなかった。
15歳以下の選手が出場する少年サッカー世界大会・フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIという大会が、今年から行われるらしく、今回集められた選手は、その大会の日本代表候補らしい。
わたしは、なぜかその候補に入っていた。
「なまえちゃん、マネージャーじゃないの?」
「あ、はい……たぶん、」
緊張のあまり、ジャージの裾を握りしめていたわたしは、質問をしてきた基山さんに答えた。
「一応、ライセンスは持ってるので……」
「なまえ、すげーな!」
「あ、ありがとうございます!」
円堂さんに背中をばしんと叩かれる。
円堂さんに褒められた…!
なんか、すっごく嬉しい。
今まで頑張ってきた甲斐があったなぁ。
「チーム分けを発表する」
わたしが名前を呼ばれたのは、天才ゲームメーカーと名高い鬼道さん率いるBチームだった。
円堂さんには、違うチームだったのにも関わらず「一緒に頑張ろうな!」なんて言われてしまって、嬉しすぎて頬が緩んでしまう。
「なまえ!」と呼ばれて振り向くと、名前を呼ばれた順にずらりと並んだ、一度は目にしたことのある顔触れに、思わず息を飲んだ。
あ、集合してるんだ。
やばい、急がなきゃ。
「お前のポジションだけ分からないんだ」
鬼道さんが、作戦やこれからのチームプレーについて考えてくれるらしい。
凄いなあ、本当にみんな有名な人たちだ。
わたし以外の人たちは、みんな有名な中学のサッカー部の人たちで、鬼道さんの言葉に頷いている。
あ、そうか。
わたし、FFにさえ出てないもんなぁ。
「一応、GK以外なら、どこでも大丈夫です!」
「今までで主にやっていたのはどこだ?」
「FW、です」
「FWなら、豪炎寺と2トップだな」
鬼道さんの言葉に、わたしは耳を疑った。
今、豪炎寺って言った?
あ、憧れの豪炎寺さんが、同じチームにいるの?
(や、やばいよ)
(緊張して、サッカーどころじゃないかも…!)
やっと顔の熱がおさまってきたのに、また顔が熱くなってきた気がする。
うわあ、どうしよう…。
「おい、」
自己紹介、またしたほうがいいかなぁ。
やっぱり、最初が肝心だと思うし…。
「おい、なまえ」
「! は、はい!」
「この選抜試合は個々のプレーをどのように生かすかで決まってくる
遠慮せずに、どんどん点を狙っていけよ」
「はい!」
アドバイスをしてもらえたことへの嬉しさと、名前を呼んでもらえたことへの嬉しさ。
どちらが勝っていたかなんて、分からなかった。
せかいでいちばんきらめく背中(長年追い掛けて来たその背中は)
(誰にも勝らない輝きで溢れていた)
虎丸が女の子になると
豪炎寺への感情は一体どっちなんでしょうね…
続くかもしれない
お題:alkalismさまより
11_04_25
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