成代 | ナノ









※研磨成り代わり・女主





「…あ、翔陽からメールだ」
「…お前ら本当に仲いいよな」
「…?
トラ、何か言った?」
「…気にすんな」



部活帰り、他ならぬ黒尾キャプテンが用事があるとか何とかで、代わりになまえを家まで送ることになった音駒高校男子バレー部一行は、相変わらずのマイペース加減に溜息をついた。

皆が口を揃えていう、この大事な「音駒のセッター」は、バレーや人間関係において優れた観察力を持っているのに―――――ある種の“好意”に関するベクトルには疎いという、厄介な性質を持っている。

本能に忠実というか、目先のことにしか興味がないため、本人が無意識に出す発言がたまに波乱を呼ぶことになっているだなんて気がついていないのだ。



例えば、ふと人をじーっと見つめてみたりとか(ただ髪型や見た目が特殊な人がいれば、どうなってるのかなーと見ているだけで、上目遣いとか本人は計算を全くしていないのだけど)
突然、「すき、…………………アップルパイが」と、倒置が起こったりとか。



猫のように気紛れで、誰一人として彼女を完全に理解できる人はいないのだけど―――――悪い意味でドキドキさせられることが多い反面、素直に好意を伝えてくる時の反動が凄まじいのが、彼女から周りが離れていかない原因だろう。

現に、幼馴染みである黒尾はキャプテンという立場を利用して、彼女の周りを常にバレー部で固めているという徹底ぶりである。

バレー部員達も嫌なわけではないので素直に従っているが、少々キャプテンは過保護過ぎなのではとは思っているらしいが。



「なまえ、」
「……?
あ、赤だった」
「先輩!危ないッス!」
「せ、せっかくみんなで帰ってるんですから、おしゃべりしましょーよー!」
「…ん、分かった」



ごめん、と申し訳なさげに俯いたなまえの頭をぽんぽんと優しく撫でるのは、いつもは黒尾の役割だが、今は居ないのでさり気なく夜久が受け持った。

隣歩いてたからだ!ずるい!

後輩の嫉妬は笑顔で黙らせます。

さすが夜久さん!カッコイー!

そんなやり取りにもよく分かってないようで、なまえは首を傾げながらもスマホをポケットにしまった。

ごめんね、翔陽。



「それにしても黒尾さん、今日どうしたんすかね…?
いっつも俺らに対してもかなり警戒心むき出しなのに…」
「…警戒?」
「山本!」「先輩!」
「え、あ、け、け…ケーキ食いたくなった!
なまえ、そこのコンビニ寄ってくか?!」
「…トラが行きたいなら行く、よ?」
「おお!!あ、ありがとな!」



何だこの子かわいい!天使がいる!

ああなまえか、マジで天使かと思ったわー。

でも、全然気づかないなまえもなまえですげえわ。



「(ケーキか…きらいじゃないけど、冷たいよね
あったかいもの、たべたいかも…
コンビニなら何かあるかな…)」
「…行くよ、なまえ」
「ん、ありがと…福」



信号機が青を知らせると同時に動き出す人波にのまれないように、なまえを囲うように歩き出した音駒男子バレー部員は至って真面目な顔をしているが―――――内心、スマホではなく前を向いて歩き出したなまえが気になってしょうがなかった。

だ、だって普段から口数少ないし!

話せてもキャプテンが絶対邪魔してくるし!

ゲームばっかりしてて気づかれないこともあるし!

何話そう、何の話なら笑ってくれるだろうか。

さながら恋する乙女のようだが、顔には出さないのが彼らのステータス。

場慣れしすぎである。



「…あ、」
「ん?なまえどうかした?」
「…海さん、脚ちゃんとみてもらいましたか?」
「!
あ、うん、大丈夫ってコーチに言われたし
心配してくれてありがとな、なまえ」
「…はい」
「え?!海さん、怪我したんすか?!!」
「捻っただけだけどね
なまえが気がついてくれてさ」
「さすがなまえ先輩ッス!」
「当たり前だろ!
音駒の大事な、偉大なるセッターさまだからな!」
「うるさい犬岡、山本」
「あ、キャプテン…?!」



猫のように自分の縄張りがあって、他人が無闇に入ってくるのをなまえはわかりやすく嫌がる。

しかし仲間として認められれば、常に気にかけてくれる。

元々人の目に敏感で、我が身を守るためにおとなしい性格になったらしいが、なまえにとって相手が他人ならば見られるだけで―――――気にかけてくれるわけではないのだ。

些細なことだが、なまえも自分達を気にかけてくれているのだと分かるのだから、顔がにやけるのは見逃して欲しい。

そんな海を羨ましそうに見つめる後輩達。

黒尾からは特別重たく鋭い視線を頂いた。

マジ勘弁。



「クロ…用事は?」
「ん?
ああ、もう終わったから心配すんな」



ぽふ、となまえの頭に置かれた黒尾の手が、さも当たり前かのように優しく撫でると、なまえは嬉しそうに目を瞑る。

マジでなまえって猫みてえだなあ。

音駒の要塞のようなガードを簡単にくぐり抜け、さり気なくなまえの隣を歩いていた黒尾に部員達は驚いた。

さすがクロさん、なまえに関しては桁違いなハイスペック。



「じゃあ…一緒に帰る?」
「おう、そうだな」
「……」
「どうした?」



第三者からの意見だが、なまえは黒尾と一緒にいる時が一番感情が豊かに出ると言われていて―――――現に今も、何かいいたそうな顔で視線を黒尾と地面にさまよわせていた。

しかし黒尾もエスパーではない。

正確なことまでは分からないので、なまえが言葉に出すまでゆっくり待ってやることにしていた。

もちろんそんな黒尾の優しさはなまえ限定である。

するとなまえがようやく口を開く。



「……トラ、」
「(俺?!)
お、おう?なんだ?」



自分に対してではなかったことに不満そうな視線を向けてくる黒尾にビビりながら、山本が答える。

あれ、なんで俺?



「…ケーキ、今日じゃなきゃ、ダメ?」
「え?!
あ、そそういうわけじゃねえ、よ?」
「じゃあ…マックいこ」



やっぱりなまえは優しい。

場を乗り切るためについた嘘を忘れていた山本だったが、今回は咄嗟にそれを思いついた自分を褒めてやりたかった。

おっしゃあ!よくやったぞあのときの俺!

それになまえから誘われるなんてめっちゃレア!

うかれる山本を見ていた黒尾は珍しくポーカーフェイスを保っていた。

あれ、一番嫉妬しそうなのになんでだ?

もちろん幼馴染である黒尾にはこの後の展開が読めているからである。



「…みんなで」



―――――出た!倒置法!



がっくりと項垂れる山本の肩を福永が叩く。

どんまい、トラ。

しかし思わぬ幸運を得た部員達は生き生きとしていた。



「なまえ?
珍しいな、寄り道してくの?」
「…ダメ、ですか?」
「いや、ダメじゃないけどさ」
「いつも早く帰りたがるなまえがそんなこと言い出すなんて珍しいなーって思ってさ」
「どうしたなまえ?」










綺羅星フラグメント

「もうちょっと、みんなと居たいから…」

「なんなのこの子かわいすぎでしょ!」
「天使か?!天使なのか?」
「違うっスよ先輩!なまえ先輩ッス!」
「いや、あってるぞ夜久、海
なまえは天使だ」
「「知ってた!」」
「(…ちょっと、アップルパイが食べたくなったのもあったんだけど……言わない方がよさそう、)」







20万打企画、雨音さまへ

毎度素敵なリクエストをありがとうございます!
スガさんか研磨か、結構長く悩んだんですが
烏野だとどの学年ベースに書くかかなり悩んだので音駒にしました!
実はハイキュー!!は借りて読んでる派なので手元に無くて…
みんなの呼び方とか一人称とか分からなくて不安要素たくさんあるんですけど
書いていてかなり楽しかったです!

他のサイトさまだとか、ウィキさまだとか巡ったんですが
そのおかげで音駒好きになりました!(笑)
烏野一筋!のつもりだったんですけどね…
いや、みんな素敵だからしょうがない!
音駒の外人?ハーフ?の子とか、烏野の女子マネ?の子とかまだ、知らないので
ちょっとハイキュー!!で短編をいくつかリベンジしたいと思いました!

これからもよろしくお願い致します!

20万打企画:雨音さまのみフリーでした!

お題:カカリアさま


13_12_01


21_09_20
Pixivへ移動完了しました。






《戻る》

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -