※ヤムライハ成り代わり・女主
「今夜は謝肉祭(マハラガーン)だー!」
「シャルルカンさまが二匹も仕留められたそうだぞ!」
どこからともなく聞こえてきた嬉しそうな声に、他人事のようにそうなのかと思ったなまえは、自分の書き留めた書類から頭を上げた。
また、だ。
今回も呼んでもらえなかった。
シャルさんかあ…きっと綺麗なお造りとか、こんがり焼けた丸焼きが並ぶのだろう。
寂しさを含んだ溜息が出た。
「なまえさま、今お時間よろしいでしょうか?」
「…はい、」
扉越し、控えめに声を掛けてきた自分の従者に返事をし、なまえは視線を机の上に位置する窓へと向け、意識を海岸へと馳せた。
また控えめに音を立て、開かれる扉から顔を覗かせた従者は、なまえの背中から何処か哀愁を感じ取った。
「今夜は謝肉祭だそうです。
なまえさまも、お召し物の御準備を」
「…ええ、分かりました」
ゆっくりと立ち上がったなまえは、振り返ると何処か悲しげな表情をしている従者に気がつくと、ごめんなさいと謝った。
わたしのせいでそんな顔をさせてしまっているのでしょう?
感情は移るというのは強ち間違ってはいないのだから。
「なまえさまには研究のお仕事がごさいますから、その点を王さまが配慮してくださっているのです」
「それは分かってはいるのだけど…頼ってくれさえしないのは、少しさみしいですよ…」
謝肉祭では女性は華やかに着飾るのが定番である。
反対に男性は奇妙な仮面を付け、呑み喰いに忙しい。
毎回思うのだが、これだから人を探すのは一苦労だ。
それなのにいつも率先して食事を取りに行ってくれる従者が何故自分をいとも簡単に見つけてくれるのかは未だに謎である。
今日は少し遅い気もするが、やってもらっているのだから文句は出て来なかった。
唯一顔を覆っていない王が、とても嬉しそうに女性に囲まれているのだけは嫌でも目に入るのだが。
「いくら南国でも、夜は冷えるから嫌だわ…」
なまえは謝肉祭の会場に出てくることは出てくるのだが、いつも祝いの言葉を王に述べるとそそくさとその場を去ってしまう。
元々なまえは人が多い場所を得意としないのだから、仕方がない。
しかしただでさえ王や八人将に寵愛され、籠の中の鳥のように育てられてきたなまえという魔導士は、シンドリアでは一つのお伽話のように伝わっている面もある。
魔導士故に弱い身体が、何処か守ってあげたくなるように愛らしいとか。
閉じ込められた小さな世界でしか生きられない、姫君のように真っ白な素肌とか。
時折見せる哀愁を漂わせた瞳に誰もが魅せられてしまうのだとか。
この時くらいしかお目にかかれないというのに、すぐに帰られてはたまらない、と国民は訴えるのだが、その意思が汲み取られたことはない。
「体調が優れないのですか?」
「あ、いえ、そういうわけでは…」
気配を感じて食事を取りに行っている従者かと思い振り返ったなまえだったが、予想だにしない来客に驚いた。
広場から少し離れた、王宮近くの水汲み場にある小さな椅子に腰掛けていたなまえは、当然のように立ち上がると席を譲った。
そういうつもりで声を掛けたわけじゃないと伝えるジャーファルだが、断固として譲らないなまえは、女性は男性をたてるものだという古い教えを未だに守っている故に、言葉巧みにジャーファルを言いくるめて座らせた。
「無理はしてはいけませんよ
あなたは八人将といえど、女性なんですから」
「…ありがとうございます
でも、これ以上甘えるわけにはいきません
体質や性格以前に、わたしがやらなくてはいけない仕事はまだあるんですから」
「本当に…あなたの仕事に向かう姿勢は素晴らしいですね
あのだらしない王にも見習ってほしいくらいだ」
「…ジャーファルさんは、王さまに厳しいですよね」
あんなに寛大な心で受け止めてくださるお方なのに。
「それと、仕事をこなす、こなさないは別問題ですよ」
たいして普段と変わらない官服で腕を組みながら溜息をこぼすジャーファルに、なまえは頭の中で王を思い浮かべる。
年齢にそぐわない若々しい、眩しい笑顔が特徴的で、国民だけでなく周辺諸国からの信頼も厚い偉大なる“七海の覇王”。
閉じ込められているなまえが知らないだけだが、この王にはサボり癖というものがあり、ジャーファルを悩ませているというのは周知の話だ。
そんな噂をされているとは知らず、近づいてくる足音にジャーファルの眉が少し上がる。
普段は探すのに一苦労しているが、今は別に呼んでいない。
盛大に顔をしかめて振り返れば、呑気にシンドバッドは言う。
「ジャーファル、君も居たのか」
「…居てはいけないのですか?」
「いや、せっかくの謝肉祭だ
皆で楽しもうじゃないか」
ほら、なまえもこんなに離れたところにいないで、皆と一緒に呑もう。
「…あの、わたしはやはり、」
「なまえは人混みが苦手なのですよ
あんた、知ってて何言ってんだ?」
「じゃあ人払いすればいい」
「王が国民を追い払ってどうする
それにさり気なくなまえの肩を抱くな」
「…ジャーファルさん、いつになく辛辣」
「疲れているんだろう、そっとしておきなさい」
王さまがそうおっしゃるなら、と頷きかけたなまえに再び近づいてくる足音。
今度は複数。
「いたー!あだ名ー!
今日こそ一緒に呑もうよー!」
「王もジャーファルも、抜け駆けかな」
ピスティが必死な顔で、ドラコーンが冷やかすように声をかけると、なまえは苦笑した。
開き直っているシンドバッド、未だ気に入らないと睨みを効かせているジャーファル、皆口では喧嘩をしているが、声も顔もどこか楽しそうで。
なまえはこのような祭りごとは嫌いではないのだけど、あまり大勢の中に居るのは慣れていないから、手持ち無沙汰になってしまうのが分かって嫌な気持ちになる。
ああ、またわたしはみんなに気をつかわせてしまう。
少しなまえの目線が下がったとき、くいっと片腕を引かれ、驚いて顔を上げると―――――
「っと、やーっと見つけたぜ!
俺たちの魔導師さま!」
「あー!ずるいぞシャル!」
「もう!シャル!!
まだなまえとお話するんだから放しなさい!」
「えー!今日仕留めてきたのは俺なんすから、主役は俺!
いくら王さまでも譲りませんよー!」
「珍しくシャルが強気だな」
「危ないからやめなさい剣術バカあんたはともかくなまえに傷でもついたらどうすんだ」
「ジャーファルさん、一息でいうのやめてください…怖いっす」
「あ、マスルール?!」
「もうみんなしてずるーい!」
うつくしきはミルフィーユの毛並み嫌いではないが得意でもない。
分かってますよ、となまえを救い出してくれたのは大きくなりすぎた後輩だった。
一応、ネタにあげていた子です。
少し勘違いされてます。
なにがしたいのか分からなくなって、継ぎ足し継ぎ足しでつくったので投げやりですすみません。
周りはこの子の実力を認めていますが
本人はまだまだ探究心が途絶えなく、半人前だと自分を追い詰めています。
そんな前向きな姿勢を尊敬しつつ、
ただ魔法にしか興味がない子なので
すこしは構ってほしい!という気持ちもあって
周りはちょっかいも出すようです。
そして最後はマスルールくんの姫抱きで退場したようです。
マジでなにがしたいんだろうかわたしは…
シャルがニセモノですみません…
リハビリでした。
お題:alkalismさまより
2013_11_25
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