※天馬成り代わり・女主
「なまえ、明日どっか行かない?」
ことの始まりは葵の一言である。
ちょうどなまえが昼休みの有意義な過ごし方として―――――俗に言う昼寝をしていたときであった。
葵に起こされて、欠伸を一つ。
実はまだ目は覚めていない。
「明日…って、」
「土曜日だから休みだよ」
「土曜日…!
サッカー、し」
「ません!
今週は部活休みだよ
なんか監督もコーチも用事があるんだって」
学生にとって、休日はなにものにもかえがたい、大事なもの。
しかし世界がサッカーを中心に回っているなまえにとって、休日は一日中サッカーができる、素晴らしい日なのである。
今もほら、寝起き故に片言であったなまえだったがぱっちり目を開けて、嬉しそうに話したのだ。
それがない、だって?
じゃあ自主練する…
「ダーメ!
そうやって前も断ったでしょ!?」
そういえばそうだった、となまえは以前の自分を恨んだ。
ううん、懲りもせずに誘ってくる葵には申し訳ないけど―――――
「やっぱりム」
「リとかなしだからね!」
「…頑固」
「なまえもでしょ」
どうしても譲る気がないらしい葵に、なまえは分かりやすく溜め息をついたが意味がなかったようで。
葵はじゃあ何時にどこで…と勝手に決め始めた。
長年幼馴染みをやっているから分かってはいるけど、本当に葵には敵わない、となまえは涙目である。
わたしこれでもキャプテンなんだけど…!
おいこら、ヘタレって言うな!
そんなところに、
「どうしたのなまえー?」
「な、なんか凄い涙目だけど…」
「あ!また葵が何かしたんでしょー!?」
「もう信助!いきなりひどいよ
今回はどっちかって言うとわたしが被害者なんだからね!」
大きな声で訴える葵に、信助はなまえにどうなのと視線を送った。
その隣で狩屋も首を傾げる。
もちろん葵は有無を言わせない表情である。
はい、
「わたしが悪かったです」
「よろしい」
「……やっぱり葵、頑固」
なまえが捨て台詞のように放った言葉に、話の区切りがついたと思ったのか、それで何があったの?と尋ねてきた信助。
既に近くの席に腰を下ろしていた葵が、眉間に皺を寄せた。
え、なんで?
「別に、なんでもないよ」
「ふーん…
ねえなまえちゃん、明日空いてない?
信助くんと輝くんと、出来れば剣城くんも誘って―――――」
狩屋が口に出したのは、最近稲妻町の隣町に出来た新しいスポーツ用具専門の店だった。
もちろん、なまえの表情がぱっと明るくなり、それに頷こうとしていたなまえの肩を掴む―――――
「葵、さん…」
「ダーメ!
さっきわたしと約束したでしょ?!」
「で、でも開店セールは大」
「事だけど、わたしだって先週から我慢してたんだからね!」
「え?もしかしてなまえ、葵と出かけるの?」
「…そうみたいです」
「(なんか滅茶苦茶嫌そうじゃん…)」
「あ、信助くん、狩屋くん!
話ってなんだった?」
「あ、輝!
あのね、明日サッカー部一年メンバーで…」
隣のクラスから、丁寧に失礼しますと言ってから入ってきた輝は、首を傾げた。
だって葵は怒ってるし、なまえは涙目だし、信助は狼狽えてるし、狩屋は呆れている。
なんだこの状況、カオス。
おどおどしつつも説明を終えた信助。
輝は―――――
「えー、せっかくならみんなで行きたかったなー」
「わたしも…!」
「こら、なまえ!
輝に抱きつかないの!困ってるでしょ!寧ろ羨ましい!」
「葵ちゃん、本音漏れてるよ」
そんなこんなでうだうだと話が進まない状態が続いていた。
すると、どうやら購買に行っていたらしい剣城が、パンとオレンジジュースを引っ提げて登場。
オレンジジュースって、なにそれかわいい!
思っても誰も口には出しませんでした。
だって後が怖いもの。
そして剣城は一目見ただけで状況を察したのか、ピシャリと一言言い放った。
「全部やればいいだろ、」
わたしは着せ替え人形じゃない!となまえは心の中で叫びながら秋に着替えさせられて早30分。
なんか某着せ替え人形の気持ちが分かった気がする。
小さい頃に遊んだことはないけど。
うーわー、めっちゃ不機嫌じゃんと周りに引かれていることにも気付かずに、なまえは待ち合わせの駅前で一人ケータイを弄っていた。
「暇なう」と。
「あ、なまえちゃん早いね!」
「おはよう、輝」
正直な話、「私服のセンスがいい子ってカッコいいよね〜」とかなんとか言っている女子とは違って、大して興味がないなまえだったが、友達ということを贔屓目に見ても輝の服のセンスは良かった。
なんだこの子、できる…!
説明が出来る程なまえに知識がなかったので割愛します。
「なまえー!輝ー!」
「信助くん!」
「おはよう信助…と狩屋」
「な、なんか付け足された感じが…俺おまけ扱いなわけ?
輝くんに至っては気づいてなかったよね?!」
「あ、ごめん…!」
狩屋と信助もやってきたところで、なまえはケータイをしまった。
だってなんか、マナー的に、ね。
人と話している時にケータイを触るなんて、木枯らし荘だと秋のお玉かお箸が飛んできます。
投げる方のマナーとかはツっこんではいけない。
だって大家さんの言うことはー?ぜったーい!!
「もう少し静かに待てねえのかよ」
「あ、剣城くん」
「…ちゃんと来たんだね」
「あ?」
「え…だ、だって誘った時滅茶苦茶嫌そうだったから…」
「…うるさくなければいいんだよ」
「ふーん…?」
相変わらず手はポケットに突っ込んで登場した剣城は、初っぱなから眉間に皺が寄っております。
まあまあ、大人数なんだから、騒がしくなるのはしょうがないでしょ。
どうどうと剣城を宥めたなまえだったが、鼻で笑われた。
何なのこの子。
わ、わたしキャプテン!
「あれー?葵は?」
「葵は遊ぶときとか、いつも遅いから…気長に待とう?」
「なまえちゃん、一緒に来てないの?」
「うん…家近い訳じゃないし」
「ふーん…言い出しっぺなのに、遅刻ねぇ?」
「まぁ、ね」
あー、ボール持ってこればよかったなあと呟いたなまえは、ちらりとケータイで時間を確認した。
約束の時間より、もう15分経っていた。
まあ、文句を言っても相手は葵。
敵わないのは目に見えている。
そう呟いたなまえに、理解できないのか首を傾げる他の面子。
「おまたせ〜!
みんな早いね!!」
「「「「(謝らないんだ…!)」」」」
葵本人の登場により、なんとなく理解したようだ。
わたしがヘタレなわけじゃないんだからね!
「まず…スポーツショップ行こっか!」
当たり前のように主導権を握って、なまえ達を引き連れるように歩き出した葵。
しかしすぐになまえ達を振り返って尋ねる。
「何駅までだっけ?」
「分かってないのかよ!」
ナイスツッコミ、狩屋。
スマートフォンを取り出して調べ始めた輝を覗き込むように見ている葵に、なまえは相変わらずだと溜め息を吐いた。
しっかりしているようで、微妙に抜けてるんだよなあ。
というか輝、中一でスマートフォンって…!
わたしガラケーなのになあ、と一人勝手に落ち込んでいるなまえに信助が近寄ってきた。
別に泣いてないってば!
「あ、分かったよ!
ここまで駅で行って、あとはちょっと歩くけど…みんな大丈夫?」
「ありがとう輝…全然大丈夫」
じゃあ今度こそ行こうか、と言い出すのも先を歩き出すのも―――――やっぱり葵だった。
その後はお分かりのとおり、主導権は葵にあり、スポーツショップでの買い物は早々に打ち切られた。
「みんな、そんなに疲れた?」
「…葵が買い物、急かすから」
「え?そう?」
「……無自覚、」
あれこれ見てまわるみんなに、はっきりと高いだの違うメーカーの方がいいだの横槍を入れてくる葵。
あの、みんなメンタルがボロボロなんですが。
満足に買い物が出来たのは、そんな状況に慣れているなまえだけだった。
さあ次はショッピングモールで買い物だよ!苦情は受け付けません!
「ちなみに何するの?」
「わたしとなまえは服とか見てくるつもりだよ?」
「(わたしとなまえは…?)…ってことは、…俺たちは別行動ってこと?」
「もちろん!」
「「「「(こんなに振り回された挙げ句、まさかの放置…!?)」」」」
「…わたし、みんなで楽しめるとこがいい」
葵に敵うわけがないと分かってはいたが、なまえは珍しく譲らずに葵に訴えた。
ヘ、ヘタレだけど、キャプテンなんだからね!
なまえに残っていたのは意地だけだったが、必死に訴えた。
もうやけくそだけど、悪いかこのやろう!
「………分かったよ、」
結局のところ、キャプテンの言うことが、ぜったーい!!周りから見れば、某CMのチワワが瞳を潤ませて見上げてきているようにしか見えていなかったと、後に狩屋が語った。
2012夏企画、煉架さまへ
応援していただいて、凄く励みになりました!
天馬はずっと書きたかったのですが、どうせなら他のサイトさまにはないような子にしたいと思っていまして…
どういった子にするかで凄く悩んだ結果、こんな年末になってしまいました(;^ω^)
一年組で…ほのぼのしてないですよね、
なんとなく葵は最強な気がしたので、気が付いたら何故か天馬がヘタレになっていました!
基本単語で喋る…というよりは皆に遮られてしまう→ヘタレ、みたいな。
ちゃんと強い意志があることについては文でしゃべります。
だから余計に、普段のギャップ的な感じで皆言うこと聞くみたいな。
葵は天馬の言うことを遮るけど、いいたいことは分かっていて
天馬は大抵葵に黙って従います。
同性ゆえに遠慮がないんでしょう、という誰得わたし得!な設定がたくさん出来上がりました。
長いけど全く内容がなくて…本当にいろいろとすみません!
天馬よりわたしがヘタレですよね…!
年末なので…来年もよろしくお願いします!
2012夏企画:煉架さまのみフリーでした!
12_12_30
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