成代 | ナノ









※立向居成り代わり・女主





グローブを付けたままの手を見つめながら、首を傾げたまま部室に入ってきた立向居は、当たり前のように部室に鎮座している古いテレビの前に座って、慣れた手付きでビデオデッキを操作した。
確か、円堂さんがマジン・ザ・ハンドを出したのは、この辺だったはず…。

お目当ての場面を見つけ、食い入るように画面を見つめ始めた立向居は、そーっと後ろに立った人影に気付いてはいない。


「…ッ、ここで構えるのか!
そっか、だからタイミングが…!!」
「「たーちむーかいっ!」」
「!
び、びっくりしましたよ!笠山先輩、松林先輩!」
「あったりまえだ、びっくりさせてんだから!」
「それに、こんなくらいに驚いてちゃ…」


―――――驚いてちゃ、明日心臓がもたないぞ!


驚いて振り返った立向居の後ろで、ゴールを守った円堂守の声が流れた。
普段の立向居ならば、もう一回見る、と直ぐにビデオを巻き戻してまた画面に食い付くのだが、企み顔で未だに立向居の方を見ている笠山と松林が気になってしまう。


「…明日、何かあるんですか?」


耐え切れなかった立向居が笠山に問い掛けると、その隣で待ってましたとでも言わんばかりに、松林が身を乗り出して口を開こうとした。


「ちょっと待ったー!
俺が言おうと思ってたのに!邪魔するなよ松林!」
「…はいはい、戸田キャプテン、すみませんでしたー」


丁度のタイミングで、部室に入ってきた戸田雄一郎―――――もとい陽花戸中サッカー部キャプテンは、走ってきたようで息を切らせていたが、運動部パワーで直ぐに立て直して立向居の方を向いた。


「よく聞けよみんな、特に立向居!」
「は、はい!…?」















「明日、あのFF優勝の雷門中サッカー部が、陽花戸中に来るんだよ!」


戸田が昨日そう告げてから、翌日に至る今。
立向居は未だに緊張がおさまらないのか、挙動不審な行動ばかりしていた。
円堂さんに会いたいと言ったら会いたい。
でも憧れの人がいざ目の前にやってくると思うと―――――


「ど、どどどどどどうしよう…!」
「立向居ィー!
いい加減、落ち着けェ!」
「すみませんんんンン!」


練習はいつも通り行う、という指示の元、立向居はFWのシュート練習に付き合っていたのだが、手は震えるし奇声を発するし。
周りは見ていられない、と肩を落としていた。
その姿は、一見恋する乙女のように見えたりして、若干周りは苛ついていたりするのだけど。
誰にって、もちろん相手にである。
立向居はそれはそれで、顔を赤くしてかわいいのだけど、本心は純粋に相手を尊敬しているのだから、皆は苛立ちを堪えていた。


「あ、そろそろじゃないか…?」


グラウンドから見える校舎の時計を見て、筑紫が呟いた。
その内容に、立向居の肩がぴくりと上がった。


「俺、見てこよー!」
「勝手に行くなよ松林!俺の仕事だろ!」


ガヤガヤと騒がしくなる陽花戸グラウンド。
その様子を知る由もない雷門中サッカー部は、既に校長室にいたりするのだけど。


「あ、」


戸田の周りで、部員それぞれがもめ始めたことで、シュート練習が一時中止になったため、何かすることはないかと辺りを見渡した立向居だったが、運が悪いのか―――――話題の雷門イレブンが、グラウンドに向かって来ているのを見てしまった。
あわわ、あれは、本物の円堂さん…!
どうしようどうしよう、まだ心の準備が出来てない!


「あれ?
雷門イレブンじゃん!」
「俺が………いや、行け戸田キャプテン!」
「分かってるよ!」


「ようこそ、陽花戸中へ!」


陽花戸イレブンが雷門イレブンに気付いた時には―――――


「紹介したいヤツがいるんだ…………あれ?立向居は?」


立向居は姿を眩ませていた。
実は咄嗟に黒田の影に隠れていたのだけど、嫌々と首を振る立向居に甘い黒田は、戸田の問い掛けをスルーした。
しかしその姿を見つけた松林は、新しい玩具を見つけた時のように嬉しそうな、否企んだ顔をして、立向居の腕を引いた。
ま、待ってくださいよ先輩…!
ひゅー〜!
松林は立向居を華麗にスルーである。


松林によって、戸田と話していた円堂の前に引っ張り出された立向居は、ロボットのような足取りで、さらにはもじもじと手を後ろに組んで、いかにも恥ずかしがっている様子だ。
何あの子かわいいんだけど…!
咄嗟にカメラを構えた音無と、目を輝かせた雷門イレブンに反応した陽花戸イレブンは、ギロリと雷門イレブンを睨み付けた。
俗に言う、ガンを飛ばしたのである。
それに気が付いて、目金と1年メンバーはひーっと声を上げた。


「どうしたんだ、円堂さんに会えたらわたし感激ですとか言ってたのに」
「は、はい…!」


戸田にも腕を引かれて円堂の目の前に連れて来られた立向居は、始終下を向いていた。


「え、円堂さん…!
わ、わたし…よ、陽花戸中1年、立向居なまえです!」


顔の熱を自覚していた立向居だったが、さらに全身が緊張からくる熱さを伝えて、もう何が何だか分からなかった。
つまり、周りから見れば恋する乙女モード全開である。
円堂を直視出来ずに、下へ下へと下がっていく視界に、突如小麦色の何かが飛び込んで来た。
よく見てみようとした立向居は、気が付いた。
こ、これは…円堂さんの手?!
手をさし伸ばされたということは、その目的は握手しかない。
立向居は驚きながらも控えめに尋ねてみると、太陽のように眩しい笑顔で肯定された。
その時、立向居は凄い勢いで円堂の手を掴んだ。
離さないとでも言わんばかりに、両手で。
それもがっちりと。


「円堂さん、感激です…!
わたし、もうこの手一生洗いません!」


何言ってんだコイツ、くらいに思われているだろうとは自覚していた立向居だったが、それほどまでに―――――嬉しいことだった。
尻尾があれば、振り千切れんばかり振っていたであろうし、それはもう満面の笑顔を浮かべていた立向居に、周囲に和やかな雰囲気が流れ始めた。
しかし、その雰囲気は―――――


「いや、ご飯の前には洗った方がいいぞ」
「で、ですよね…」


事の発端である円堂によって、いとも簡単に壊されたのだが。


「立向居、あれを見せるんじゃなかったのか」


何とも微妙な雰囲気が周囲を取り巻いた頃、立向居に向かって戸田からの助け船が出された。
キャプテンありがとうございます!だいすき!
立向居の目がそう言っていたので、戸田の背後に控えていた陽花戸イレブンから、戸田は半端ない威圧感を感じた。


あれとは何だと興味を持った円堂に促されて、準備運動を始めた立向居は、楽しそうにかつ緊張感半端ねえとでも言いたそうな顔で、ゴール前に立った。


「え?あの子キーパーなの?」
「ああ、陽花戸イレブンの大事な一員だよ」


戸田の後ろからも賛同の声が響いたが、雷門イレブンはその中に含まれていた「立向居に怪我でもさせたらぶっ殺す」という威圧感を、確かに感じていた。
もちろん、円堂以外。


「お願いします!」


ゴール前で大きく一回深呼吸をした立向居は、真っ直ぐに前を見た。
頭の中には何度も目に焼き付けた円堂の姿が浮かぶ。


「ゴッドハンド!」


立向居が叫んだと同時に、空色の大きな手がしっかりとサッカーボールを包んでいた。
立向居は思わず飛び上がって、ガッツポーズをしていた。
ひゅー〜!よかったじゃん立向居ー!
おいこら松林、抜け駆けするな!
……へいへい戸田キャプテーン!


「すごいよ立向居!
お前、やるじゃないか!」
「あ、ありがとうございます」


立向居の直ぐ近くで騒ぎだした陽花戸イレブンだったが、今の立向居には円堂しか見えていないので―――――華麗にスルーされていた。
もちろん、円堂には悪気はない……はず。


「立向居、手を見せてくれないか?」
「は、はい…?」
「やっぱりな
相当特訓したな!」
「いえ、それほどでも…」


立向居の手にはたくさん傷があり、それだけ練習の多さを物語っていた。
円堂は今まであまりキーパー仲間がいなかったからなのか、同士を見つけた嬉しさを堪えるように、ただただ顔を赤くしていた。
何あれ、手を取り合って二人して赤くなってるんだけど。
半端ない勘違いが周りでおこっているだろうとは知らない二人は―――――


「努力は必ず結果につながる!」
「はい!」


背中を合わせて、


「いくぞ」
「はい!」


「「ゴッドハンド!」」


「ちょ、何やってんのー?!」
「立向居ィー!」
「ちょ、やっぱり円堂くんでも許せないよ?!」


どのような流れでそのような結論に至ったのかは分からないが、お互いに必殺技を打ち合っていた。
二人を包む砂埃に、周りが騒然とする中―――――


「すごいよ立向居!
お前のゴッドハンドは本物だ!」
「あ、ありがとうございます!
わ、わたしもっともっと強くなります!」
「ああ、そのためにはもっともっと特訓だ!」
「はい!」


やはり勝手に二人の世界に入っていて。
立向居は純粋に円堂に憧れて常に興奮状態。
その様子に感化されたのか、円堂も何故か興奮状態で。
怪我をしてないか心配していたり、男女二人で仲良くするなんてけしからんとか、わーわー騒いでいる周りのことが全く見えていないようだが、二人に悪気は無さそうだし。
ああ、これがサッカーバカの状態か。


「よかったな、立向居!」
「はい!」


諦めた戸田が立向居に声をかけると、眩しいくらいの笑顔で答えられた訳だから、まあ立向居が嬉しそうだからいいかと納得してしまった。










百色睫毛










遅くなってしまって、申し訳ありません!

元々たちむー成はやりたかったので、やりたかったことを詰め込み過ぎた結果、
キャラと恐ろしいくらい絡んでいないし、陽花戸イレブンの名前も曖昧!
そして全然逆ハーじゃない!
間違ってたらすみません…(;^ω^)
なんかこの子ひたすらわあわあ言ってるだけじゃんとか思ったら負けです(笑)
虎南(虎丸成)よりも周りが見えていないみたいですね、この子。
あんまり変わらない気もしますが…うわあ、本当にごめんなさい。

相互記念:雨音さまへのフリーでした!
これから、末永くよろしくお願いします!

お題:alkalismさまより


12_05_04






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