※虎丸成り代わり4・女主
確か、毎日頑張ってくれているマネージャーさん達を労ろうという話になったからだったと思う。
わたしは今、宿福の台所に立って、久し振りに握る包丁の感触を感じていた。
この、なんかしっくりくる感じが、なんとも言えない。
「そんなに包丁見つめてっと、自殺願望あるヤツに見えるぜ?」
「え?
ち、違いますよ…!」
洗濯、掃除、料理の三つに別れて、メンバーそれぞれが仕事を担っている。
わたしは言うまでもない―――――料理担当になった。
結局は皆でやればいいとか何とかで、マネージャーさん達も参加しちゃってるわけだけど、これはこれで良かったんじゃないかと思う。
皆でやった方が楽しいし。
わたしが担当する料理のメンバーは、飛鷹さんと不動さん、染岡さんという、見た目がかなり怖い人が揃っていた。
唯一、土方さんだけは他の三人と同じ分類には入るけど、母性というか何と言うか。
安心出来る何かがあって、少しだけ安堵した。
それでも見た目だけで判断するのは申し訳ないと、積極的に話し掛けると、意外にも優しくて器用な人達だと分かった。
ほら、現に不動さんはわたしの隣で時折話しながら桂剥きをしているし、飛鷹さんは人数分の鍋を混ぜるのは大変だからとずっとやってくれているし。
染岡さんと土方さんは、何処か手慣れた手付きで、何でも手際よくこなしている。
何て言うんだろう、皆さんオトメンってヤツなのかな。
「おいチビ、手ェ止まってんぞ」
「あ、すすみません!」
「おーい、包丁握ってんだから、考え事なんてしてたら危ないぞー」
「はい…」
今考えれば、毎日毎日サッカーのことばかりで、こうやってゆっくり皆さんとお話しながらサッカー以外のことをやる機会なんて、今まで無かったからなあ。
何だか普段とは違う一面を見れた気がして、嬉しいのか何だか―――――自然と笑顔になってしまう。
「それにしても、上手いななまえ」
「え?あ、ありがとうございます…!」
「いい嫁になるな」
「(よ、よめ………?!)」
「ちょっと気が早いんじゃないか、豪炎寺?
それに、お前になまえはやらん」
「あれ?鬼道クン達、料理担当じゃなかったよなあ?」
「ふん、お前のような野蛮なヤツがいるところになまえを残しておける訳がないだろう」
土方さんに褒められて、嬉しくなって少しだけ顔を振り返ってみると、あれ?
豪炎寺さんと鬼道さんが、何故か台所に居た。
確か二人は掃除の担当だったはずなのに。
どうして、と首を傾げていると、目が合った豪炎寺さんに微笑まれてしまった。
え、今の今までに面白い要素あったっけ。
「料理が出来る女はモテるからな」
「その点なまえは完璧だな」
会話の内容がいまいち理解出来ていないわたしは、さらに首を傾げた。
「そういえば、なまえは家事全般出来るんだったな」
「え?何で知って…?」
「…春奈から聞いた」
「な、なるほど
‥‥確かに料理以外も、家事なら出来ますけど…?」
「へえー!じゃあなまえは良い嫁さんになるな!」
「(また嫁?!)」
豪炎寺さんや鬼道さんがいつのまにか居たことに対して、気にしているのはわたしと不動さんだけみたいで。
飛鷹さんとは時折目が合うのにそらされてしまうし、土方さんは豪快に笑っているだけ。
染岡さんには頑張れと言われた。
え、何が…?
わたしは豪炎寺さんと鬼道さんが話している意味が分からないから、ツッコミにしては厳し過ぎる切り返しをしている不動さんに会話は任せて、とりあえず具材を切ろう。
再び包丁を握り締めて作業に向かえば、何ていうんだろう―――――夢中になってしまって、周りの音が聞こえなくなった。
「おいチビ、切れたヤツこっちによこせ」
「あ、はい
…わたし、次何したらいいですか?」
ちょうど全ての具材を切り終わった頃に、フライパンを片手に炒め始めていた不動さんに慌て具材を渡した。
あれ、なんか不動さん、疲れているような…。
「じゃあ残りの……」
「お魚も切っちゃえばいいですか?」
「おい待てチビ、やっぱりいいわ」
代わりに、と不動さんに指をさされた方向を振り返る。
え?どういうこと?
「こいつらの相手してろ」
「………話し相手って事、ですか?
でも、わたしだけそんな休むみたいなこと……」
「いいから!
こいつらが居ちゃ、狭い仕事場じゃ邪魔なんだよ!
出来るだけ遠くに連れてけ」
連れてけって、犬や猫じゃないんだし。
そう思わず口に出すと、不動さんは似たようなものだと言う。
へ?どういうこと?
「だぁー!
とにかく、お前が行きゃあついてくるから!
さっさとグラウンドにでも言ってこい!」
**********
不動さんの言うことがよく分からなかったけど、言われた通りにグラウンドへ向かって歩き出すと
「なまえは何をしたい?」
本当に豪炎寺さんと鬼道さんがついてきた。
え、なんだこれ。
「わ、わたしは別に…特に何も、」
「そうなのか?
遠慮しなくていいぞ?」
遠慮はしてないし、別にやりたいことも―――――いや、それはある。
料理、料理したい。
だから戻りたいけど、不動さんにはしばらく戻ってくるなと言われているし。
「はあ、」
「…どうしたんだ、なまえ
溜息なんてよくないぞ」
「心配事があるなら、聞いてやろう
話してみろ」
「いいいいいえ、大丈夫です……」
「「(怪しい…)」」
それにしても、いつもはサッカーのことでしか話したりしないからなのか、豪炎寺さんや鬼道さんとこんなに話したりすることが無かったから、何だか新鮮だ。
二人とも、何ていうんだろう―――――保護者みたいというか。
わたしのことを純粋に心配してくれてる感じがして、嬉しい。
でも、ちょっと自惚れすぎかなあ。
「あ、じゃあ…
お二人の話が聞きたいです」
「俺たちの?」
「はい!
サッカー…以外のことで!」
そう言ったなまえに、豪炎寺と鬼道は首を傾げたが―――――キラキラとした好奇心旺盛な子犬のような瞳で見つめられてしまえば、頷くしかなかった。
「そうだな……」
その時、二人がわたしはまだ誰にも嫁にやらんとか考えていたなんて、わたしはもちろん知らなかった。
星捕り(こうやって、他愛もない話が出来ることも
わたしの普通の人生の中では、すごいことなの)
桜飴様へ
特にご指定がなかったので、我が家の成主にしました
この子は…鈍感なので、VSにしてもあんまり面白くなかったですね(;^ω^)
遅くなってしまってすみません…
前サイトの3周年企画:桜飴様のみフリーでした!
お題:alkalismさまより
12_03_25
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