成代 | ナノ









※不動成り代わり・女主





「「わあー…」」
「凄いですね、なまえさん」
「ン?」



今日の夕食は和食だそうだ。

定番の味噌汁に、塩分控えめのお浸し、野菜炒め。

メインディッシュはおろしハンバーグ。

ちょ、ちょっとそこは焼き魚とかじゃないのと思わずなまえが突っ込むと、それじゃあ朝ご飯みたいじゃないですか!と音無から突っ込みで返された。

いつもより早めに終わった練習後、不動なまえは適当に宿泊棟内をふらついていた。

元々チーム唯一の女子選手だからなのか、チームの輪の中に溶け込めていないなんてことは―――――あった。

どうせこの後は食事なのだから、早めに行ってもいいだろうと(匂いに導かれた訳ではない、断じて)食堂に向かえば、危なっかしい手付きで野菜を切っていく音無が一番にはじめに見えた。

その奥で、鍋の湯を見ている久遠と、レシピでも書いてあるのか、メニュー表のようなものとにらめっこをしている木野も見える。

いつも手伝いやら何やらをしてくれている響木さんは、いないらしい。



そこは軽く戦場だった。

いくら生物学上女だとしても、普段からどれだけ台所に立っているかがよく分かる。

やっぱり彼女達は、所詮バレンタインとかくらいしか台所に立たない、まあ世間体では一番一般的な女子だったという訳だ。

なまえは見ていられないとは思ったが、手伝うと言う勇気も馴れ馴れしさも生憎持ち合わせていない。

なのに、現にこうして手伝っているのは、どうしてだろう。

視線が合ってしまった久遠に手を引かれて、木野にエプロンを付けられて、音無に包丁を握らされたのは―――――もうコンマ何秒かの世界だったような気がする。



「………人より台所に立つ回数が多かっただけだって」



呟くくらい、小さな声で漏らした言葉は、なまえが規則正しく発するリズムに打ち消された。

味噌汁の具だと言っているのに、音無がやっていたものは、明らかに大きい。

新しく皮を剥いた人参や大根等、大きさを揃えたものを新しく作り出していくなまえの手先を見つめながら、久遠が呟く。



「なまえさん、やっぱり優しい」
「は?」
「うん、手伝ってくれてありがとうね!」
「いやいやいや、あんたらが勝手に引っ張って来たんでしょうが…!」
「なまえさん、照れてますね!」


―――――カシャカシャッ


「ば、馬鹿なのかお前!
そんなことしてる暇があるなら、早く手を動かせよ!」
「はーい!
…………それで、わたしは何をすればいいですか?」
「あほー!」



ヤバイヤバイ。

只でさえ自分のやってきたことで、チームのメンバーによく思われていないことは分かっているから、あんまり関わらないようにしてきたのに。

一応、クールなキャラを目指してきたはずなのに。

ダメだこりゃ、どうしてもツッコミスキルが発動してしまう。

はあ、となまえから出た溜息に反応した木野が、嬉しそうな顔でなまえの方を見た。

なんだ、また何か企んでるのか。



「明日の朝ご飯のプチトマト、なまえちゃんの分だけ少なくしておくね」



な、なんだって。

素直に頷くと、音無のカメラが再び鳴った。

あ、ちょ、何やって…!



「なまえさんの照れ顔、二枚目ゲットです!」
「よくやったわ音無さん!」
「後で焼き増しお願いします」
「どあほー!」



はあ、こいつら本当に分からない。














**********





食事の手伝いをしていたなまえは、全員分の準備が終わった頃に、やっと食事にありついた。



「あ、なまえちゃん、隣いい?」



何でだ。

何でなんだ、今日は厄日か?!

ポーカーフェイスを保ちつつも、なまえは内心パニック状態だった。

はあ、調子狂うなあ。



「あれ?反応なし?」
「返事がないってことは肯定とみなしていいんじゃない?」
「勝手に話をすすめるな」
「お、やっと応えてくれた!」
「ヒロトがくどいからだよ
なまえちゃん、困ってるでしょ?」



「わたしからすればあんたら両方、迷惑だっての」



口には出さないが、不機嫌ですと身体中から漂わせて基山と緑川の方に視線を受けたなまえだったが、つれないなあの一言でスルーされた。

え、ウソだろ。



「じゃ、俺右側で」
「うん、じゃあ俺は左側かな」
「(何で間に挟んだ?!)」



その後、ことあるごとに話し掛けられながらもなまえは食事を続けていった。

あと、少し。

あと少しだと、無言を貫く。

元々会話をする気はないのだけど。

嫌でも聞こえてくる会話に、時折気になる言葉が聞こえたりしたけど、うん、何がツンデレだ。

あんたらに対して冷たくしているのは自覚しているが、わたしがいつデレたんだ。



「ねえねえなまえちゃん、聞いてる?」
「聞いてない」



やっと口を開いた頃には、



「聞こえてるじゃんかー!」
「………ごちそうさまでした」
「え?!早くない?!!」



なまえはすっかり空になった食器が並んだトレイを持って、席を立っていた。


はあ、このチーム、マネージャーといい、こいつらといい、話聞かないヤツばっかりだな。














**********





「……相手の意見は尊重するべきだと思うけど」
「ん?何か言ったかー?」
「……………別に」



足早に後にした食堂を出て、まだ入浴の時間までに空いている時間があるため、どう潰そうかのんびり考えながら歩いていたなまえは、ふいに腕を引かれて―――――毎日汗を流しているグラウンドへ連れてこられた。



誰にって



「不動、サッカーやろうぜ!」
「…昨日も今日も、散々やったでしょ?」
「いいじゃないか!
不動もサッカー好きだろ?楽しいだろ?」
「…それとこれとは、別」



はあ、と相手にも伝わるように溜息をついたなまえだったが、何せ相手が悪かった。

自他共に認めるサッカーバカには、本当にサッカーのことしか見えていないようだった。

はあ、キャプテンがこうだから、チームがみんな変なのか。

納得出来てしまったことが、なまえは少しだけ不満だった。



「不動ー」
「何だよ、だだっ子か」
「いいじゃないか、サッカーやろうぜ!」
「もう夜です」
「そ、そうだけどさあ」



円堂は自分のサッカーボールを持って、軽くリフティングをした。

そして、高く蹴りあげたボールは―――――なまえの方へ向かって降りてくる。



サッカーは一人では出来ない。

一緒にやろうぜ、と降りてくるサッカーボールが、なまえに対して話し掛けてくるようだった。

それを見て小さく溜息を吐いたなまえは、渋々ではあったが頷いた。

そして、降りてくるボールを自身の脚と脚の間を移動させるように操ると、



「わかった」



と返事でもするように、ボールをゴールへと蹴った。

その軌道が真っ直ぐではなく、カーブを描いていたのは、なまえが素直に認めたくなかったことを表しているに違いない。










牙は透明

「実は仲良くしたいんだ」ってね












お待たせしました紫苑様!
そして、ごめんなさい、管理人トリコのことは全く知らないんです(;´`)
期待にそえず、すみません(Тωヽ)

こんな低クオリティで本当にすみません!
お待たせしてしまいましたが、宜しければ貰ってやってください!

前サイトの3周年企画:紫苑さまのみフリーでした!

お題:alkalismさまより


12_03_19






《戻る》

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -