成代 | ナノ









※南沢成り代わり2・女主





倉間「南沢さん、」
「断る」
倉間「いや、まだ何も言って…」
「断る」
倉間「えぇええ…」



倉間が声を掛けると、それだけでミステリアスな雰囲気を醸し出している暗い紫色の髪をかきわけ、整った顔で彼女は振り返った。
素晴らしい容姿を持っている美少女もとい―――南沢なまえは、言うまでもなく不機嫌だった。



倉間「なんで出ていくんすか?
まだ部活、始まってすらいないのに…」
「………」
倉間「! 南沢さん、もしかして部活辞めるとか言いだすんじゃ…」
「ああ、そっか
その手があったね」
倉間「な?!」



―――内申書に響くでしょ。



南沢の口癖にもなっているあのフレーズを吐き捨てて、去っていきそうな雰囲気の南沢。
倉間は反射で南沢の腕を掴んだ。
だ、だめだ。
絶対に離しちゃだめなんだ。
この人は雷門に居なくちゃ…!



南沢は何をするにも内申書を気にする。
少々捻くれた性格をしているが、南沢の内面を知っていれば、そんなことは関係ない。
誰よりも努力家で、誰よりもかっこいい。
女にかっこいいはおかしい?
いやいや、雷門ではかっいい人と言えば、男子を差し置いて南沢の名前が上がる程なのだ。
性格も、態度も、男子顔負けな程男前なのだから。
無言なのだが必死な剣幕で何かを訴えてくる倉間に、南沢は少し申し訳なさげに眉を下げた。



「辞めるのは嘘だよ、冗談冗談」
倉間「………」
「だから倉間、
そんな泣きそうな顔しないで?」
倉間「はあ?!!だ、誰が泣きそうな顔…」



倉間を宥めるように―――――それこそ小さい子どもをあやすように、優しく倉間の頭を撫でた南沢。
恥ずかしいからやめろ、の意味で振り払おうと倉間が顔を上げると



倉間「泣きそうな顔してんの、南沢さんじゃないっすか」
「!」



溢れそうな涙を目尻に溜めている南沢がいた。
そういえばこの人のこんな顔、見たことなかった。
くそう、泣き顔も可愛いとか、この人一体何なんだよ。
線の細い身体で、対して大きい体型でもないのに、南沢から放たれるシュートの迫力は凄い。
テクニックもボールコントロールも、シュート力も、一体その身体の何処から放たれるのか、不思議でしょうがない。
南沢に魅せられて入部したとも言える倉間の、目指す先にはいつも南沢が、かっこいい南沢がいた。
だから、南沢の弱い姿なんて見たことが無いに等しかったのだ。



「あ、あの、さ…」
倉間「はい」
「………やっぱりわたし、暫く部活休むね」
倉間「はあ?!!さっきと言ってること違うじゃないっすか!
訳わかんねーっす!」
「……」



沈んだ表情で立ち去ろうとする南沢の腕をまだ掴んだままの倉間は、南沢の腕を握る力を少しだけ強めた。
理由も言わずに休むなんて、許さない。
受験生故に南沢が忙しいのは分かっている。
それでも、泣きそうになっている理由くらい、言えよ。
気になるじゃんかよ。
一方南沢は必死な倉間に犬耳が見えたような気がして、一瞬頬が緩みそうになったが、言ったらぶちギレされるのが分かっているので、心の中だけにしまった。



三国「あ、南沢」
「三国ゥウウッ!?!!」
車田「そんなに驚くなよ、」
「車田ァアーー!」
車田「なんだよ南沢、まだビビってんのか?」
「む、無理、ホント無理だって、助けて天城ッ!」
天城「南沢はまず倉間を助けてあげるべきだど」
倉間「え、ちょ、南沢さん、どうしたんすか」



サッカー棟の廊下にいた南沢と倉間。
ミーティングルームから出て来た三国と天城、車田に出くわすと、南沢が堪えていた涙をついに溢した。
必死な南沢は、さっきまで倉間が掴んでいたはずの腕で、倉間に抱き付いていた。
あ、どうりでなんか柔らかいと思ったわ。



「ま、まだいる…?」
天城「さっきから探してるけど、見つからないんだど」
「ちょ、マジで?!!
早く見つけてよ!」
車田「無理言うなよ、相手は小さいんだぜ?
そんな簡単に捕まえられるかよ」
「ガチで言ってんの?!!
男でしょ?早くアイツ仕留めてよ!!」
三国「はあ、南沢でも苦手なもの、あるんだな」
天城「意外だど」
車田「普段は男前の癖にな」
「それとこれとは関係ないし!!
てかわたし女だから!生物学上女に属してるから!!」



四人の話、というよりも言い合いに近いそれから推測してみよう。
どうやら、南沢が怯えて涙を流している理由は、ミーティングルームにありそうだ。
倉間が回想している間にも、南沢対三人の言い合いは続いていた。
あれ、なんで俺、間に挟まれてるんだろ。



倉間「あのー……」
三国「ん?ああ、倉間、お前も手伝ってくれるか?」
倉間「いや、要するに何があったんすか」
「出たの!!」
倉間「出た…って、何が?」





Gが!





倉間「ゴキブリか、」
「ちょ、ダイレクトに言わないでよ!寒気がする…!」
神童「南沢さんにも苦手なもの、あったんですね……」
「人間だもの!!」
霧野「南沢さん、テンパりすぎて、キャラ変わってますよ」
浜野「ちゅーか、取り乱した南沢さん、レアじゃねー?」
「……浜野、後で覚えとけよ?」
浜野「あ、もしかしてデートのお誘いっすか?」
「………」
速水「つ、ついに南沢さん、ツッコミを放棄しましたよ!」
霧野「これは一大事だな!」



ミーティングルームに集合していた部員の視線を浴びながら、抱き付いて離れない南沢を連れて、倉間はミーティングルームに入った。
ふん、羨ましいだろ。
どことなく倉間はどや顔である。



「わたしほんと虫だけは無理なの!!
決めたよ神童、わたし今日から休部する」
神童「えぇえ…」
「アイツらが居なくなるまで、絶対来ないから
じゃ、監督と音無先生に言っといて」
霧野「み、南沢さん、本気ですか…?」
「うん」
車田「南沢、あっさり何言ってんだよ
ダメに決まってるだろ」



車田の鬼ー!!と叫びながら、さらに倉間にきつく抱き付く南沢。
南沢の言うアイツらとは、無駄なくらい生命力が高い、黒光りするヤツのことである。
一匹いれば、あと何匹もいると言われるヤツらだから、アイツらなんだろう。



情けない顔で、今にも溢れそうな涙を浮かべている南沢を見て、部員達は罪悪感にかられた。
おかしいな、俺たちは何にもしてないのに。



剣城「………部活の合間に菓子食って、部室にゴミを置きっぱなしなんてするからですよ」
「………浜野ォオ…!!」
浜野「え、…バレました?」



いつの間にかミーティングルームの入り口で腕を組みながら立っていた剣城は、珍しく弱々しい南沢に驚いたが、会話を聞いているとムカつくくらいしょうもない。
まあ、この人も一応は女子ってことだな。
それに



剣城「そんなに嫌なら、早く退治すればいいじゃないですか」



剣城は正論を述べたはずなのだが、何故か不服そうな顔をした部員達。
え、なんで。



車田「それが出来たらやってるさ!!」
天城「………あ、そういえば今日、天馬はどうしたんだど?」



何故かキレた車田に、天城は話題を反らす始末。
他の部員はバツが悪そうに、顔を背けている。
はあ、あんたら何なんだよ。



明らかに話題を避けようとしている部員達に、さすがの南沢も感付いたのか、若干顔を引きつらせた。
まさかコイツら、虫ダメだとか言うんじゃ…?
南沢に抱きつかれている倉間も、同じことを考えていた。
悪い予感がする。



速水「……そういえば、信助くんも居ないですね」
剣城「………授業中寝てたので呼び出しらしいです」
「呼び出し?!
まーた内申書に響くようなことして……」
神童「あ、そういえば天馬は、沖縄出身だったよな……」
霧野「あー、沖縄のゴキブリはデカいって言うもんな」
神童「慣れてるかと思ったのに……」
浜野「役に立たないなー」



倉間「いや、だから自分たちで早くやればいいだろ」



ついに呆れ顔で叫んだのは倉間。
ドア付近ではすっかり剣城もいつものポーカーフェイスを崩し、溜息をついていた。
ああ、今なら俺、剣城と分かりあえる気がする。



浜野「…………ちゅーか、俺用事思い出しましたー」
神童「……今日は休みにしましょう、」
速水「………」
霧野「………」
「三年といい、二年といい、ホント役に立たねえなおまえら!!」



ツッコミを放棄していた南沢だったが、ついに抑え切れずに吐き出した。
蓄めていた分だけ毒が強かったようで、あまりの迫力に何人かが肩を上げた。



倉間「浜野、お前釣りんときに虫触ってるじゃねえか」
浜野「それとこれとは別っしょー?」
倉間「速水は?」
速水「僕も、別だと思います…!」
倉間「必死すぎんだよおめえは
で、………神童は見るからにダメそうだな」
神童「………否定出来ない」
霧野「倉間、スリッパ持ってきたぞ」
倉間「……やれってか?」
車田「…頼んだ」
倉間「わっけわかんねー…」



今まで黙って話を聞いていた倉間だったが、埒があかないと立ち上がった。
悪い予感的中だ。
南沢に目をつぶっておくように言い付けると、倉間は渡されたスリッパとティッシュを握り締めた。










躊躇なく一発で

その後、部員には勇者だと崇められた倉間だったが、
南沢には「アイツらを倒せるのはかっこいいと思うけど、汚いからしばらく近寄らないで」と言い放たれた。

え、俺一番頑張ったはずなんだけど。

(最初のどや顔が罰あたったんじゃね?)
(………うっせー、ヘタレ)







家庭的で慣れてるであろう三国センパイですか?
ああ、食事当番らしくて、先にお帰りになりました。
すみません、全然逆ハーじゃないですね。
時間枠とかももう気にしないでください。ごめんなさい。
みんなにしゃべってほしかった結果、ただのグダグダに…。
それに最初のくだり、いらないんじゃないかって?
ごもっともです、はい。
倉間の口が悪くてごめんなさい。

本当はナルシの子で書く予定だったんですが
前々からやりたかったゴキブリ騒動ネタが突発的にやりたくなってしまって。
普段かっこいい人が、虫とか雷とかで怯えてたら可愛いよねっていう話でした。

ごめんなさい、完全な管理人得ですね。


前サイトの2周年企画:凛さまのみフリーでした!


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