成代 | ナノ









※南沢成り代わり・女主





負けられない戦いが、今ここに―――!



「最初はグー!」
「じゃんけんっ――ぽんッ!」





「お、速水」
「み、南沢さん」
「相変わらず速いなあ、」
「ぜ、全然ですよ…」



雷門イレブンファーストチームの練習は、いつも壮絶なじゃんけんから始まる。
勝った者が、南沢なまえとストレッチのペアになれるというものである。


南沢なまえは、サッカーの名門・雷門サッカー部ファーストチームのエースストライカーである。
中世的な顔立ちに、線の細い身体。
身長は平均よりも少しだけ低いが、それは元々の大人びた美しい容姿を年相応に、寧ろそれ以下に見せる効果を持っているので、周りにはギャップがどうとかで好評であった。
内申書ばかり気にするという少しひねくれた性格だが、紳士的で、少しミステリアスな雰囲気を漂わせているからか、女子なのに女子によってファンクラブが作られた程―――――南沢は、学校中の注目の的だった。


つまり、部内での人気も他とは比ではない。
勝手に南沢を誘ってペアを作ろうとするものなら、全員からの阻止という攻撃が待っているのである。
へ、平和的にやらないか…!
こればかりはキャプテンの神童でさえ、涙目であった。



「どうした?
顔、赤いよ?」
「ち、ちかいですよ……!」



確信しているのに、わざと知らないフリをして、南沢は速水をからかうように顔を近付けた。
それに異様な程に反応してしまう速水は、もちろん南沢争奪戦の一員である。
先程から聞こえる浜野や倉間のやじは右から左へスルーした。
ぼ、僕だって話したいです!


速水は運が悪いのか、最近はことごとくじゃんけんに負けていた。
それでも諦めずにチャンスを狙っていると、どうやら南沢はアップだけは一人で行っていることが判明し、足の速い速水はじゃんけんの勝敗に関係なく、南沢の元へ走るのである。



「速水ぃいいい!!」
「こ、こわいですよ浜野くんンン?!!」
「おー…元気だなあ」
「み、南沢さん、それ、違います…」



霧野のツッコミを受けて、南沢は腑に落ちない顔で首を傾げた。










「はいきたー!俺の時代!」
「厨二っぽいよ、浜野」
「へへっ、そーっすか?」
「褒めてない褒めてない」



本日のじゃんけんの勝者は浜野海士。
彼はにこにこと始終笑顔を浮かべて、南沢と向き合っていた。
自分に向けて刺さるような視線を感じるが、無視無視。
勝者の余裕って感じ?



「んじゃ、押すよ」
「はーい……い、いだだだッ?!!」
「まだまだだね、浜野」
「み、南沢さん、容赦なっ!!」



浜野の背中を押した南沢は、容赦なく力を入れた。
いってー!
背中に柔らかい感触があるとか、顔が近いとか、余計なことを考えていた浜野に気付いていたのだろう。
先輩舐めんなよ?



「じゃ、じゃあ次俺が!」
「………」
「え?」
「わたし、結構柔らかいんだよね」
「ちぇー…」



じゃんけんには勝ったが、浜野には何も得が無かったようだ。
俺、かわいそう。










ポジションごとに別れて練習することになり、南沢は自分より背の高い頭を追い掛けた。
ちょ、足のコンパスの違い怖いわー。
追い付くの大変だもの。
まあ、そんな必死な南沢が可愛くてわざとやっているなんて、南沢は知らないだろうが。
やっている本人はご満悦である。
あれ、俺ってドSだったっけ?



「三国!」
「お、南沢
……シュート練習、するか?」
「うん!」



周りからみたら、親子のような関係だと言うが、片方は違う。
それに気が付かない南沢も南沢だ。
自分の容姿のことは理解していて、試合なんか利用しているくらいなのに、自分に向けられている好意にはことごとく気が付かないのだから。
俺たちかわいそうだよな。



「だったら、俺たちを抜いてからだど!」
「俺たちも混ぜろよ!」
「出たよ寂しがりコンビ」
「へ、変な名前付けるなよ!」
「早くやるどー!」
「南沢、来い!」



「オッケー…!」



DFの天城と車田も合流し、シュート練習がしたかっただけなのに、何故か三対一の状況におかれた南沢。
まあ、頑張りますか。
ボールは南沢から。
髪をかきわけて、さあ準備完了。


吸い付くようなボールキープに、相変わらずだなあと皆が溜息をついた。
この人には勝てる気がしない。
シュートもドリブルも、なんでも出来るなんて。
躊躇うことなく真っ正面から突き進んでいく南沢に、車田が何やら叫びながら向かってくるが、車田と接触する手前で南沢は前にボールを蹴った。
やり、溢したな。
車田がにやりと笑った瞬間、南沢もにやりと笑った。



「な、ボールの向きが変わった?!」



絶妙にボールにカーブをかけて蹴りあげた南沢は、何事も無かったかのように、平然とまたドリブルを始めた。
くそ、さすが我が部のエース。
褒めてる場合じゃないどー!
車田には天城の声届かず。
その後南沢はかるーく天城のチャージをかわし、あっと言う間に三国の真正面に。
うわ、はやっ!



「こい!」



手を前に突き出して、構えた三国に対し、南沢は何故かボールをキープして立ち止まったまま。
ん?



「な、!」



おいろけアップ、だと?!



「かーらーの?
ソニックショット!」



三国に向かってわざとウインクを飛ばした南沢は、三国から楽々とゴールをこじ開けて、堂々と振り返った。



「使えるものは使っておかないとね?」



この、確信犯が!
周りの心の叫びが一致した瞬間だった。










「霧野、南沢さんに!」
「南沢さん、!」
「ん、」



チームのキャプテンで、司令塔でもある神童の指示を受けながら、南沢はパスを受け取り相手陣内へ入って行く。
ちなみに、紅白戦だからといって手を抜く訳がない。
南沢の属さない白チームには主に主力メンバーが揃っているが、負ける気はしない。
こっちには神のタクトがある。
後ろは神童に任せて、南沢はただ突き進んでいく。



「一人、」
「うわっ!」
「…二人」
「ありゃ?」
「三、人っと」
「…ちっ」



MF、DF陣をごぼう抜きした南沢は、微笑みを振りまきながら、颯爽と駆け抜けていく。
くそう、かわいいなあおい。
ボール奪いに行けないじゃないか。
とまあ、これは部員達の心境である。



そんな中、南沢の視界に過った何かは、真っ直ぐに南沢に向かって来ていた。



「っ!」
「な、」



それは、南沢と同じFWの倉間典人。
南沢からボールを奪えたことが嬉しいのか、半端ないどや顔である。



「へへっ、貰いましたよ」
「………ああ、なるほどな
ちっちゃいから気付かなかったのか」
「な?!
南沢さんには言われたくないっすよ!」



背が小さいのがコンプレックスなのはお互い様で、わざわざそれをつついた南沢。
倉間の機嫌が悪くなるのは当たり前である。



「でも、」
「……」
「わたしは嫌いじゃないぜ?」
「……南沢さ、」



しかし、ボールをとられてそう簡単に諦める南沢ではない。
倉間にわざと顔を近付けて、南沢は挑発するように微笑んだ。
言うまでもなく、倉間の顔は真っ赤である。
そう、それは完璧な色目だったのである。










鈍感且つ策士

(くそ、またやられた…!)
(ちゅーか、南沢さんの色気に勝てる人って、いないっしょ)







遅くなってしまって、申し訳ありません!
実は、もう1つの方を先に書いたんです。
それで、逆ハーじゃない!と気づいてこれを書きました(;´∀`)
まあ、お目汚しなのはいつも通りなんですが…
時間枠は神童がキャプテンになりたてな頃ですので、天馬達はいません。

リクエスト本当にありがとうございます!
前サイトの3周年企画:凛さまのみフリーでした。




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